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アリアは知らない  作者: taru
四章 リーシャ編
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175拠り所

 ベイミィは潜泳機を中心として集まる膨大な音の奔流を、淡淡(たんたん)と受け止め精査する。


「先行するハンナ様が進路周辺に問題無しと発言されました。本機は現状南を向いて()りますので右舷へ向けて出発して(くだ)さいませ。全方位の周辺からは私たちが発する反響音しか()こえませんわ」


 勿論(もちろん)、潜泳機の中で交わされる会話は(つぶさ)()こえて()るのだから、中央の部屋でリルトル様が語った話は全て()こえて()た。

 だからと()って、()の内容に()いて動揺する事は無いだろう。

 【長寿】の御業(みわざ)を持つものは、どう()って()(よう)な境遇を受けるかぐらいは、物心が付く時分に聞き及んで()た。

 身体の部分強化に類する御業(みわざ)を生まれ持つものへは、真っ先に力加減を留意させ自分や周りのものを傷付け無いよう教え込まれるのと同じ(よう)に、【長寿】の御業(みわざ)(また)前以(まえもっ)ての心構えを教え込まれるのだから。


 何時(いつ)しか共に育ったものたちと、隔たりを覚えるかも知れないと。

 哀れむものも居れば羨み妬むものも居ると。

 多くの場合は愛するもの大切な仲間たちに先立たれるだろう。

 だからこそ使命が()る。

 愛するもの大切なものたちの忘れ形見を、見守らなくては()らないのだと。

 ()れを心の()り所にし()さいと。


 リルトル様が最後に語った都市伝説の(たぐい)は、リーシャたちに向けて語ったと()うよりは、自分やベイミィに向けて語ったのだろう。

 と()っても()だ現実味は無いだろう。(なに)しろ(いま)だ成長期の真っ盛りで日々を感じ取れる程、変化して()るのだから。


 残酷な程に【器用繊細】が、()の時を知らせて()れるだろうけれど。


「了解、潜航開始、潜舵(せんだ)仰角(ぎょうかく)5度にて横舵(おうだ)を調整、面舵(おもかじ)一杯(いっぱい)


 リーファ様の掛け声と共に潜泳機は動き出す。

 聖堂地下通路が()る入り江に着いて用事を果たしたら、次はアリア殿下が潜泳機へ御乗りに()る番だ。

 (さぞ)かしお楽しみ召されて()ることでしょう。

 (なに)せ順当ならば、アリア殿下が御乗り遊ばすご予定だったのだから。

 リーファ様も()くぞ説得できたと内心胸を()で下ろしたに違いない。

 (あれ)はリーシャが聴音用耳当てを2つ持ち込んだ事が、(なに)より功を奏したのだ。

 潜泳機での作業が完了したとの報告と合わせて持ち込まれた()の器具で、アリア殿下の(まなこ)の色に変化が生じたのは間違いない。

 透かさずリーファ様は納得できそうな話を言い繕って、持ち込まれた聴音用耳当を早速試したいと好奇心に駆られるアリア殿下を、まんまと説き伏せたのである。

 と()っても話た内容に嘘偽(うそいつわ)りは無いのだけれど、(なに)より大事なのは皇族を一箇所に固めない事なのだから。

 流石(さすが)()(よう)な切っ掛けでも無ければ、頑なと御承諾を(いただ)けない挙げ句の果てに、タリス皇帝陛下に加えてアリア殿下と()近衛(このえ)たちが、潜泳機に詰め込まれて()たかも知れない。

 

 動き出したら早いもので、潜泳機はそろそろ入り江の近くへと来つつ()った。


「聖堂地下通路の入り江に巨大な氷塊が2つ詰まって、入り口を塞ぐ形と()って()りますと。ハンナ様(いわ)く、()れは(ひど)い、だそうですわ」


 ベイミィの言葉を()いて、リーファ様は唯唯(ただただ)眉尻を下げる(ばか)りである。

 3人の性格を知って()るだけに、悪気が無いのは(わか)って()る。

 多分親切心からの封鎖だろう。

 意味を理解するのは無理そうだが。


「ハンナ様は上へ飛んで越えた(よう)ですわね。氷塊は下部の方が大きいのですが、入り江の周りも他の壁と同じ(よう)に垂直に切り立って()りますので、下から(くぐ)っても問題ありませんわ。……ええ、中も潜泳機が入るだけの広さは十分()るそうです」


「了解、推進機関停止、(つい)御業(みわざ)()る制御を開始する」


 潜泳機がゆっくりと浮上すると正面には聖堂地下の通路へ向かう横穴が現れ、()の傍らには膝を抱えて座るメイリア神官長の姿が()り、()の反対側ではバルパルが貝の氷漬け4分の1を美味しそうに(かじ)ってる最中(さなか)()った。

 (なに)やらハンナ様が話し掛けて()ると、メイリア神官長は慌てて立ち上がり礼を()る。

 話されて()た内容に反応した訳ではなく、潜泳機の浮上を確認したアリア殿下の御一行が、氷塊の壁を越えて()って()たのに気付いた(よう)である。


「陛下、上部の扉を開けて確認(いた)しますので、暫く御待ち頂けますでしょうか?」


 リーファ様は扉を開けてすうっと周りの水を流し取り除いて()ると、其処(そこ)へマリオンたちが集まって()て警備を固め始める。どうやら後部の扉を使って出て()(よう)である。

 ()の少しぴりっとした緊張を(はら)む雰囲気にメイリア神官長も察するものが()ったのだろか、若干顔が引き()って見える。


「陛下、整い(いた)しました」


「うん、よっ、メイリア神官長ー、膝を抱えて()(よう)だけれど、悩みが()るなら()くよー」


 掛け声と共に宙を舞うタリス皇帝陛下を目にしたメイリア神官長は、僅かに涙目なのは気のせいだろう。



---

修正記録 2017-08-23 09:16


如何(どう) → どう


心構えとして → 心構えを


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修正記録 2017-08-23 08:39


「私たちが発する」追加


持つものが、真っ先に → 持つものへは、真っ先に


前以(まえもっ)て心構え → 前以(まえもっ)ての心構え


句読点を追加変更


本来ならば → 順当ならば


リーファも()くぞ → リーファ様も()くぞ


潜泳機の作業が終わったとの → 潜泳機での作業が完了したとの


(まなこ)に宿る心の色が変化した → 目の色が変わった → (まなこ)の色に変化が生じた


適当な → 納得できそうな


無いのだが、 → 無いのだけれど、


整 → 整い

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