174悠久
リーシャは唯今の処、最上級の椅子に埋もれ気味で在るものの、挫けず魔石探索を継続中なのである。
中央の上部操舵席は1席だけと云う事も在って、周りにも十分余裕が在る為か、当初設置されて居た座席よりも大きく幅広と為って居る。
縦令、保護用の布が被せて在ると云っても、素材は高級でふかふかなのだから、リーシャの未だ少し小柄な体では、若干柔らか過ぎる嫌いが有るのだ。
大人用に作られた椅子だから、其れも仕方が無いのかも知れない。
後ろには鉄管の梯子に掴まるライリッテ様が、リーシャと同じく魔石探索を分担して、魔力の濃度や石の気配を精査して居る。
そんな、姿勢を気になってか、リーシャが口を開く。
「ライリッテ様、若し宜しければ隣に座って頂けませんでしょうか? 私1人では椅子に埋まって仕舞い若干作業が遣り辛いのです」
「ふふ、お若いのに中々の気遣いと言葉の綾、マリオンが育てた割に善くできて居りますのね。私の事でしたら気にする必要は有りませんのよ。リーシャさんはお見受けする処、定期的に計測器の確認や機器の操作を行って居りますの。ですから、負担なくごゆるりと其処で座る必要が有りますのよ。私は陛下の護衛として此処に居りますのですから、有事にいの一番で駆け付けられる状態で在らねば為りませんのよ」
本当に椅子に沈みすぎて動き難い事情も有り、リーシャに取って自然と口に出た言葉で在ったが、ライリッテ様は気遣いと判断して騎士の矜持としても受けられないと謂う。儘ならないものである。
「ん、ならば我は多少なりに小柄な故、丁度良いやも知れぬぞ」
然う言うと、リルトル様はするりとリーシャの開けて居た場所へと入り込む。
リーシャの埋もれて居た体は浮き上がり、椅子も目一杯に調整して居た事も相俟って、計器類を操作し易い位置に達する事ができた様である。
「おお、良い塩梅の位置取りに来られました。有難う御座います」
「ん、構わぬぞ。役に立てならお安い御用ぞ」
リルトル様の其の姿形は16歳くらいで、小柄と云うよりは年相応の体型と云いたく為る。
女性であれ騎士として育てられれば大体18歳迄は成長期で、身長が165cmから175cmに為るものが多いのだから。
先程、リーシャが紹介を受けた折にライリッテ様とリルトル様は、嘗てマリオン先生と共にタリス皇帝陛下の護衛をしたり、訓練と称して第一第二騎士団を扱いたりしたものだぞと、小粋な冗談を交え話されたのだ。
然う、詰まり3人は元ラギストア帝国近衛騎士として仕え、タリス皇帝陛下が成長してルトアニアへ嫁ぐ迄の間、苦楽を共にして来た同世代なのだと。
だとしたら、ベイミィと同じ【長寿】の御業を持つと気付くのも至極当然と云え、何かと気になるものである。
そして、リルトル様も亦、其の様な機微には目敏いのか直ぐ気付くのだ。
「ん、矢張り此の姿が気になるかえ?」
「あっ、済みません……」
リーシャが謝ると、序でマリオン先生が口添えする。
「陛下の隣に座って居たベイミィ、頭の両側に丼鉢を添えて居た子も、リルトルと同じ【長寿】持ちなのだよ。傍らに育った子が持つ御業だから、気になっても仕方無いかな」
「ん、そうか……。其れは何かと大変で在ろうぞ」
「リルトル、其れは……」
ライリッテ様が制止を掛けようとするものの、リルトル様は構わず話し始めた。
「ん、傍に居るなら必要な事ぞ。【長寿】は13歳から15歳迄は他のものと同じく年を重ねるが、其れ以降は一旦老いが留まろうぞ」
「えっ」
「ん、そして、又徐々に年を重ねるようには為るが、其れは通常の4倍程時間を掛けて年を重ねると云われて居るぞ」
「……だから」
「ん、我は13の齢にて老いが留まった。悠久の時間を掛けて老いるのだぞ」
何時しかリーシャの双眸から涙が溢れて来る。
「リーシャさん、リルトルが御免ね」
ライリッテ様はそっとリーシャの肩を抱く。
下ではマリオンが額に手を置き、マギーが静かに見守って居る。
「ん、まあ、嘘か真か【長寿】の御業持ちを傍らに付ければ其のもの4代迄を必ず見守ると云い伝えられて居るぞ。だからルトアニアはティアトア団長を陛下に付けたのだと云われて居るぞ」
「否、最後のは出所不確かな噂話に過ぎないからね。第一、周りが普通に引退して居なく為る時機だから、合わせて一緒に引退するとしたら其のくらいでしょ。どうせなら、8代くらい盛って置こうよ」
其の場に漂う微妙な空気を変えようとしたのか、リルトル様が色々微妙な話を出すものだから、マリオン先生は突っ込みを入れて確りと切り替えに掛かるのだ。
「ん、検討はして見るぞ」
ティアトア様は18歳ぐらいと確かに若い見た目であった。
と云うか14歳のラクス様や13歳の近衛見習いたちが、派出所周りに普通に居るからなのか、特に違和感無く見過ごして居たのである。
否、唯単に影が薄いのだろう。
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修正記録 2017-08-22 09:30
「 然う、詰まり3人は元ラギストア帝国近衛騎士として仕え、タリス皇帝陛下が成長してルトアニアへ嫁ぐ迄の間、苦楽を共にして来た同世代なのだと。」追加
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「。第一、周りが普通に引退して居なく為る時機だから、合わせて一緒に引退するとしたら其のくらいでしょ。どうせなら、8代くらい盛って置こうよ」追加
「 其の場に漂う微妙な空気を変えようとしたのか、リルトル様が色々微妙な話を出すものだから、マリオン先生は突っ込みを入れて確りと切り替えに掛かるのだ。」追加
「「ん、検討はして見るぞ」」追加
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