172水底
「リーシャ、注水を30L分追加したら止めて呉れ」
「=了解しました=」
そして、ゆっくりと沈み往く鉄の塊は途中から潜舵と横舵を垂直へ、続いて僅かに仰角へ移り変わる事で其の水深を維持して動きを止めるのだ。
「潜泳機から発する音が略途絶えました。停止したと思われます」
ベイミィの連絡を受けたリーファ様は、次の作業へと移行する。
「了解、潜舵、横舵を水平に転回し固定を完了」
「……リーファ、楽しそうだねー」
「ええ、御業で動かさずに自分の操舵技術のみで挙動を調整するのは、難しくて中々楽しいですよ」
「ふむー、此処で練習した操舵技術を以て水底で行動する訳かな!」
「いえ、此れからは操舵を使わず御業のみで、潜泳機を動かし致します。操舵を使って居たのは、飽く迄鉄に適性が無いものでも訓練次第で操舵できる事を、確認しただけで御座います。では、潜行を開始致します」
「水深約17m、水底迄8m、7m……」
「流石に適性の無いものに水底限り限りでの作業を、行わせる積もりも御座いませんからね」
「ふむー、まあ、挙動が想定範囲で有るかは先に確認して置かないと、打っ付け本番で遣る事と為っても敵わないわねー」
タリス皇帝陛下とリーファ様が御快談の中、黙々と声を発し続けるベイミィは中々の玉と云うか、此れが任務で在るから辛い処だろう。
「2m、1m、停止を確認しましたわ」
「うむ、私の掴んで居る感覚とも一致するから、中々の精度が有るのではないかな。若しかして自分の声を反響で確認して居るのか?」
「はい、特に数字の声は聴き分けし易いと覚りましたので、それからは楽に認識できて居りますのよ」
「成る程、リーシャ、水底を見易いように少し機体を前に傾けるから、留意を促して置いて呉れ。ああ、それから、リーシャなら鉄鉱石や水晶石にも親和性が多少でも有るだろうから気力が通り易い筈だな。其方からも土や岩の状態確認に努めて呉れ」
「=了解しまし……た……あれ? あっ、機体を傾けるから皆さん留意して下さいと、連絡が届いて居ります=」
「リーシャ、何かに気付いたのか? 兎も角、少し傾けるぞ」
「70cm、60cm、50cm、停止しましたわ」
「=噫、多分ですが水底の窪んで居る部分、左下の少し前方ですね。其処に魔気溜まりができて居るみたいなのですが、来しなバルパルが持って来た魔石とやらの雰囲気に似て居る石が幾つか感じ取れまして……=」
「左下の少し前……」
「彼じゃないかな! 魔力が濃い所が在るよ!」
「チェロル……。元気に為ったなら……否、急にぐったりしなくても。ああ、此れか確かに魔力を放出して居る様だな」
「アリア、意識を繋いだ儘なのですから、其の様に興奮されると頭に響きますよ! ハンナ、早速と騎士団用に少しでもと所望するのは構いませんが、些か気が早過ぎるのではないかなー」
「陛下、声が表に出て仕舞って居ります」
影は薄いがティアトア隊長も他の近衛騎士たちも、確り傍らに控えて居るのである。
「あらー、私も少し動揺したかなー。ふふ、ベイミィちゃんが面白い顔に為ってるー。って事は気付いたのかな?」
「し、失礼仕りました」
「否否、若しかしたら気付くかなーって期待してたんだよー。うん、然う、アリアたちと此方は同時進行で会話してたのよ! 折角【念話】を授かったのだらか有効活用しようと色々頑張ったら、【分裂思考】の後天御業を得られたのよー」
「は、はあ……」
「=あのう、リーファ様、此の距離なら気の線を繋いで気力を送っても大丈夫なのでしょうか?=」
「ううむ、水は衝撃を伝え易いから……」
「許可しますよ!」
「へ、陛下……」
「忘れて居りませんか? 此処は水中なのですよ! リーシャちゃんもチェロルちゃんも「ヒィッ!」……リーファも【水】の防壁を創れるのですから、お互いに干渉しないよう留意し乍ら気を通して防壁を創って置けば3重の守りに成りますし、足りなければライリッテも加えれば良いのですよ! だけれど正直1つ在れば十分じゃないのかなー?」
「はあ、分かりました。一応、チェロルと私、リーシャで3重の防壁を創って置いて、其の上で確認を試みる事に致します。リーシャも其れで宜しいね」
「=了解しました=」
「では、私が右から通して手前10cmで防壁を張るからチェロルは下から通して1mくらいで構築、リーシャは残りの好きな場所から通して構築して呉れたら良いよ。では開始。私は既に張り終わって居るがね」
「了解! 此方も完了してるよ!」
「=判りました。……では気力を送ります=」
「びぃぃぃぃん」
「=……一寸驚きましたけれど、発音装置に使って居る魔石と同じ種類みたいですね。次の石に移ります=」
「ふぁぁぁぁん」「次へ」
「ふぉぉぉぉん」「次」
「ぴゅぅぅぅん」
「……屑魔石と云われる意味が沁沁と理解できたなぁって、あれ?」
「リーシャ、其の魔石が何れか判るか? 何処に在るかだ」
「あ、はい、って外から自分の声が聴こえるのって……7つ在る真ん中の石です」
「2列めの真ん中だな」
「はい、其れです」
「『リーシャ、もう他の魔石は確認しては為りませんよ! 爆発して粉々に為ったり反発で方方に散らばったら目も当てられませんからねー。 ハンナが夜中にしくしく泣くかも知れませんよ!』 リーファ、彼の声を増幅させた音量からして、可也の大きさと推測できますから必ず持ち帰りますよー。序でに髭も試せるから一石二鳥ですねー」
「はっ、御意に存じます」
「ハンナ様が苦言を呈されて、リーシャ様へ誤解を解いて欲しいと申されて居りますのと、アリア殿下が其れは髭では無く遠隔義腕と云うのですと宣われていらせられます」
ベイミィはタリス皇帝陛下が【念話】でも聴いて居られ御存知だと理解して居ても、叫ばれて居られるお二方を思えば伝えずには居られなかった様である。
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修正記録 2017-08-20 11:05
そして仰角に → 続いて僅かに仰角へ
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修正記録 2017-08-20 09:22
ゆっくりと → そして、ゆっくりと
まあ、 → ふむー、まあ、
「 タリス皇帝陛下とリーファ様が御快談の中、黙々と声を発し続けるベイミィは中々の玉と云うか、此れが任務で在るから辛い処だろう。」
機体を → 少し機体を
ルビを追加
リーシャ様に → リーシャ様へ