170何故
「50m以上は有りそうな亀ねー。アリア、聴こえて居りましたよね! ハンナはまさか未だ植木鉢を抱えて居りませんよねー」
『ええ、此の聴音用耳当てと親和物質の接続は、本当に素晴らしく価値の有る着想ですわ。リーシャ様もラクスも克く遣って呉れました。っと、巨大亀の話ですわね、皆に留意を促して置きますわ』
『へ、陛下、植木鉢を抱えて居りましたのは、植物を通しても周りから音が聴こえるか試して居りましたに過ぎませぬ。今は当初の想定通り飛翔板から音を集めて居りますから。……此方の動きも悉に伝わるので御座いますか』
潜泳機はマリオンが後部の床に降り立つや否や、直ぐ様動き始め前方部の操舵室へ着く頃には、水路の隧道を潜り抜ける処であった。
それから調査任務で起きた事、得た事の情報を報告して今に至るのである。
勿論、タリス皇帝陛下は【念話】の御業を持ち、自ら意識を繋いで会話して居るのだ。
そして今の進路であるが西北西、と云っても壁柱を避けて通る為で目的地は聖堂地下通路の入り江へ向かって居る。
此れは、調査報告の折に巨大田螺の件が出て来た話の流れから、寄生虫が居るやも知れぬ為留め置いて居る、じゃあ私が熱を通しませうとタリス皇帝陛下が宣いて斯く成りにけり。
「陛下、此れより御業を以ての推進を止め、潜泳機に備わる機能のみで潜行及び推進を開始致します」
「はい、宜しいですよー。此の指示も本来だったら、外のものたちに随時連絡し以て潜航確認をする処だろうけれど、常に聴音器具を使い聴いて呉れてるから便利よねー。今思えばリザエル・パッカードとやらが行った、予備部品の追加製造指示は的を射てたのね! 悔しいから兼任の役職を増やして上げるよう、其れと無く促して置きましょう」
「リザエルも泣いて喜ぶと存じまする」
影は薄いがティアトア隊長はずっとタリス皇帝陛下の傍らに居るのである。
「――リーシャ、空気装填開始、序で注水し第一潜行の基準迄として水深を計測――」
「=了解!=」
「但、追加発注はしたものの、需要を考えれば魔石の数が圧倒的に足りないのよねー」
操舵席でごぞごぞ指示を出して居たリーファ様は、当面、遣る事が無いのかタリス皇帝陛下の会話に加わるべく口を開く。
「はい、ラクスやベイミィも云って居りましたが、発音……音を増幅させる魔石は希少で価値が高いかも知れませんが、潜泳機といった重要で意義の有る利用へは、ふんだんに使う事も吝かで無いかと存じます。然し今後、潜泳機の量産や聴音器具を近衛騎士団の各部隊単位で導入する事を考えましたら、些か足りないでしょう。ハンナ様も確り持ち帰るでしょうし」
ラクス様は魔石の価値に就いて言及して居たが、値段とか製作所が天手古舞いに為るとか知った事では無い旨の発言を、ほざいてたのはベイミィの方である。
「リ、リーファ様、其の件は……」
「ベイミィちゃん良いのよ! 確かに慎む事も時には優先しなくては為らないけれど、事、開発、特にチェロルちゃん「ヒィッ!」やリーシャちゃんの創り出すものに制限を掛ける積りは無いよー。それに、其の判断は此の水中音声蒐集機が飛躍して性能向上した事を鑑みても十分正しいと云えるよ!」
「勿体無き御言葉を頂き痛み入ります」
「はいー。ああ、ハンナはお母様の警護も在りますから其れは持ち帰って構いませんよー」
『恐悦至極に存じまする』
何故かハンナ様が本気で喜んで居ると思えてならないのは、気の所為だろうか。
「然し、此の潜泳機とやらは先端技術の塊だねー。空気を外から取り入れ圧縮し更には水を注入して重量を増やし潜行するのか。普通の場所で在れば常時専任の騎士を置いて警備に当たらねば為らない処だよね!」
「矢張り御気付きに為られますか」
「ええ、縦令鉄やリーファの気で包まれて居ても其処に空気や水の塊が存在すれば否応無しに気付かされますよ! あら、止まりましたかしらー。少し中途半端な位置でしょうかね!」
「はい、背鰭に当たる部分を残して沈んだ処で御座います。今回大幅に部材を追加致しましたので、重量加算時の潜行深度が大幅に変わった筈と確認した訳で御座います。此の計器が示す水深だと背鰭の先端が60cm程水面から出て居るくらいでしょうか」
「成る程ね! おっと、巨大亀ね! 主若しくは余所から遣って来た可能性も有ると、一応、定期的に監視をして移動が果たして有るのか、もう片方の主と思わしき巨大魚と接触した形跡は有るのかを確認したら良いと考えるけれど如何かしらー。あっ、勿論、近付き過ぎちゃ駄目だよ!」
「はっ、御意に御座ります」×3
「あっ、後ろの2人も返事したけれど、貴女たちは私の護衛でしょ! 噫、私の近衛騎士団が到着したら此処に暫く残して居ても問題無いのかな。人手も圧倒的に足りて無い様だしー」
「タリス皇帝陛下、ハンナ様が部下の事でしたら、此の機会を以て徐々に慣らして行きたいと存じますが、できれば御配慮の程を頂きたいと」
ベイミィが怖ず怖ずと憚り乍ら聴こえた内容を報告する。
「うーん、マリオン1人だった問題無かったのよねー。普段は3人ばらばらに行動してたら大丈夫なのでは?」
『それで在れば大丈夫かと、いえ、耐えさせますので問題御座いません。何の道マリオンが警戒を促し剰え、対峙するなら【慧眼】持ちに魔落の御業を確認させた方が良い、と言わしめるなど部下では手に負えませぬ』
何故だろう、真っ青な面持ちで立ち尽くす近衛騎士たちの姿が、目に浮かぶ様である。
---
修正記録 2017-08-18 08:59
有った事 → 起きた事
今に至った → 今に至る
句読点を追加
居るのである。 → 居るのだ。
操縦席 → 操舵席
「。あっ、勿論、近付き過ぎちゃ駄目だよ!」追加
「。何の道マリオンが警戒を促し剰え、対峙するなら【慧眼】持ちに魔落の御業を確認させた方が良い、と言わしめるなど部下では手に負えませぬ」追加