169聴音
其れは短い翼を誇りつつ徐々に宙へと舞い上がる。
「陛下、着水したらマリオンたちを待ちますからね。3人を態態揃えた割に昔の癖なのか遠ざけようと為される」
リーファ様は少し許り辟易とした面持ちを醸し出しつつ、苦言を呈する。
「あらー、本当ねー。一寸お母様の若い騎士たちを助けた積もりでしたが、無意識に癖が出て仕舞った事は否定できませんねー」
「それから、流石に推進機関を使った稼働確認は地底湖に出てからと致します。本当は此の様な打っ付け本番で、陛下に御搭乗して頂くこと事態とんでもないと、枢機院から止められ兼ねないのですから。メルペイク、此処で止めて、うん、ではゆっくり降ろして呉れる?」
「チュン」
「ふむ、ならリーファはどうして私が乗る事を許可したのかなー」
「此の推進機関で何か起こるとしたら、想定外の出力で急発進や速度が出過ぎるぐらいで御座いましょう。それなら、全方位に十分余裕の取れる地底湖迄出て、稼働確認すれば全く問題御座いません。着水を確認。……よし、メルペイク、潜泳機の制御を解いて呉れ」
「成る程ー」
「本当に危険なものなら、抑此の子たちに遣らせは致しません。況して陛下は此れに乗せて居らねば、もっと危険な事を為出かし兼ねませんから」
「チチチ」
「最後のは心外だなー。偶にしか羽目を外さないよー」
そんな、たわいも無い話を暫くのらりくらりとして居たら、ベイミィがマリオン先生たちが戻られたみたですと、丼鉢に手を添え乍ら伝えて来る。
それから少し間を置いて、水路の閘門がずずずと上がって往く。
「ああ、確かにマリオンたちが帰って参りました。然し凄いな、外の水音迄聴き取るのか……」
「はい、沢山の音感……集音装置を配置した結果、音を聴き取る性能が大幅に向上した模様で御座います」
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マリオンたち3人が戻って来ると右手にはアリア殿下と其の近衛騎士たち、そして対面する様にハンナ様の部隊が居り、共に顔だけを開いた許りの閘門に向けて居た。
否、植木鉢を抱えるハンナ様の後ろに在る簡易寝具で1人すうすうと寝息を立てて居るが、誤差の範囲だろう。
作業場を見渡すと水路に潜泳機が浮かんで居るだけで、タリス皇帝陛下の御姿を探すが近衛騎士の影一つ見当たらない。
勿論、状況からも察する事はできるが、ハンナ様の目線から繰り出す合図とイゼベラ様が直接【念話】で知らせて呉れるのだ。
マリオンは目線でハンナ様にお礼をしつつ【念話】に意識を傾ける。
『マリオン様、タリス皇帝陛下は先に潜泳機の中を、親閲為されるそうで御座います』
『分かりました。助かります。ところでアリア殿下とハンナ様は、潜泳機の聴音用耳当てを付けて居られる様に見受けられるのですが?』
マリオンは水路の途を塞いでた関門岩を横へと移動して行く。
『ええ、先程、潜泳機の作業が全て終わった折に、リーシャ様が怖ず怖ずと参られて、潜泳機に以前取り付けて居たものと、予備の部品を組み合わせて作ったものの2つをお持ち頂いたのです』
「ズズン」
『何か考えが有っての事だね』
『ええ、ラクス様の話しに拠ると何でも炭素板を使った集音方法の着想も、以前に助言して頂いたそうですわ。今回の聴音部品を持って来たのは、彼の大きな花飾り付きの蓄音魔器を毎回運ぶのも大変そうだから、此れも使えれば便利に為るかと存じてお持ち致したと仰って居りました』
「潜泳機に陛下がいらせられるとの事ですから後部扉から入りますね」
「ええ」
「ん」
『成る程、役に立ちそうなのだね』
『今迄ですと、蓄音魔器を使う以外ではラクス様の御業で無理遣り聴ける状態にして居りましたものが、彼の聴音用耳当てと自分に親和性の有るものへ気力の線を繋いで遣れば多くのものたちが遠方聴音の業を熟す事ができるので御座います』
「飛翔板は壁に立て掛けて置こう」
「ええ」
「ん」
『ではアリア殿下は粒系因子を使い、ハンナ様は植木鉢使って聴音実験を行って居る処なのだね』
『はい、親和素材に依っては向き不向きが在る様ですが、兎も角、此れで警備や戦術の様式が大きく変わるのは間違い有りません。復、リーシャ様は偉業を成し遂げましたね』
「ガチャ」
「此処だ先に行って呉れ」
『ああ、彼の子を育てる事に携われて誇らしいよ』
『ベイミィ様に色々な意味を込めて睨み付けられ、たじたじに為られて居られましたが、陛下にも殿下にも好評を得て居りますよ』
『ふふ、知らせて呉れて有難う』
「ガチャ」
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暗い暗い闇の中、其のものは目を覚ます。
何も見えない何も聴こえない。
否、微かにちゃぷちゃぷと水音が聴こえる。
此処は地底湖の何処かかも知れない。
「御業を使うべきなのかな……うっ」
【残留思念】の御業を使おうか如何か逡巡して居ると、突然眩しい光が一面を照らしたのだ。
「あっ! リルミール様、目が覚めたのですね! ぬおっ!」
「てぃろっとおぉぉぉざみじがっだよぉぉ」
リルミールは瞬時にティロットの所まで駆け寄って抱き付いたのである。
「わわ! 今、作業着脱いでるんだから騎士服に鼻水擦り付けるの止ーめーてー!」
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修正記録 2017-08-17 07:32
幾つかの句読点を追加
為出かしませんから → 為出かし兼ねませんから
「暫く」追加
「ベイミィがマリオン先生たちが戻られたみたですと、丼鉢に手を添え乍ら伝えて来る。
それから少し間を置いて、」追加
向上た模様 → 向上した模様
共に顔だけ → 共に顔だけを
知らせて呉れる。 → 知らせて呉れるのだ。
『ベイミィ様に色々な意味を込めて睨み付けられ、たじたじに為られて居られましたが、陛下にも殿下にも好評を得て居りますよ』追加
『ふふ、知らせて呉れて有難う』追加