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アリアは知らない  作者: taru
四章 リーシャ編
187/345

168聳え立つ

 そして巨大田螺(たにし)を包み込んだ氷塊は、再び水を()き分けゆっくり北西へと進み始めた。

 幾許(いくばく)かの緊張感が()ったものの、結局は(なに)も起こりそうも無いと判断したのか、ライリッテは口も(ゆる)(しゃべ)りだす。


「――()れだけ大きな氷塊が動き出しても()の亀島は一切、反応がありませんのね。気の防壁が無ければ(ただ)の浮島としか思えないくらいですの。其方(そちら)如何(いかが)ですの?――」


「ん、水中の探れる範囲には小さな生物以外、(なに)も感じぬぞ」


()の先を200m(ほど)進めば巨大貝と遭遇した地点と()るから、一応は注意して()いてね」


 一寸(ちょっと)前の探索進行ではライリッテと共にのほほんと、氷塊の上で警戒に当たって()たリルトルだが、今は水上でマリオンと氷塊の中間を()りつつ水中の警戒に当たって()る。

 ()れは先程(まで)とは違うのだ。マリオンたちが今(おこな)って()るのが撤退で()るのだから。

 ライリッテが殿(しんがり)を努め、マリオンが先鋒(せんぽう)()って隊を牽引する。

 だが、後方支援が得意なリルトルを氷塊から降ろすのは、唯単(ただたん)に最初から上に居て(もら)っても意味が無かったからだ。

 氷塊の上に居たのはマリオンが斥候(せっこう)をするなら安心だと手を抜いて()た訳で、決して前衛を降ろされた(ため)()ねて昇った訳では無い(はず)である。

 バルパルに至っては頭の中が(えび)で満たされて()(よう)で、先程からぐいぐいと前へ()こうとするのをマリオンが必死に抑えて()るぐらいだ。


「バルパル、そんなに急いだら田螺(たにし)を運べないよ。田螺(たにし)を置いて()っても良いのかな?」


「びゃぁ」


「ん、バルパル殿は(えび)が好物であるのか?」


「ぴゃぁあ」


「足を(かじ)ってたみたいだから、好みの味だったのかも知れないね」


「――()う言えば()のでか(えび)が落とした足は如何(いかが)(いた)しましたの?――」


「ああ、拾って氷塊の天辺(てっぺん)()して()いたよ」


「――……――」


「ん、お主も(いき)よのう。()(かぶ)き我も認めようぞ」


(なん)だか急に恥ずかしい事をして仕舞(しま)ったと()う、後悔の念に(さいな)まれて()たのだけれど……」


「――()れは()れとして、()の地底湖の主は20m以上は()りそうな巨大な魚と()いて()りましたのよ。何方(どちら)が倒しては駄目なのかを(わか)って()りませんと、いざという時に躊躇(ちゅうちょ)する原因と()り兼ねませんの――」


(いや)、両方共知性が高そうだし今の(ところ)は攻撃的でもないから、逃げる()けるを基本として念頭に置いて()れれば良いよ。それでもいざと()れば両方反撃して()れても構わないと考えて()る。(そもそも)()の辺りは巨大魚の縄張りと()うか、以前に現れた事が()る場所なのだよ。()(よう)に巨大なもの同士で()れば気付かない(はず)も無いから……」


「ん、マリオン、腹でも痛くなったか?」


「……リーファ様が皇帝陛下に此処(ここ)魔窟(まくつ)ができた(ばか)りと(おっしゃ)って()たが、考えて()れば私は()(よう)な話をとんと聞いた覚えが無いのだよ」


「――亀島の上を見た感じで()えば、数十年以上は確実に年代を重ねて()(よう)に見受けられますの――」


「ん、必ずしも此処(ここ)で発生したとは考えぬ方が良いぞ。此処(ここ)はスイタル湖と繋がって()るのだろう」


「……リルトルは(たま)真面(まとも)な意見を()うから、全てを聞き流す訳にも行かないのが困りものなのだよね」


「ぬぬ、失敬な! 我は何時(いつ)でも真面(まとも)であるぞ」


 リルトルは「たむたむ」と飛翔(ひしょう)板の上で地団駄を踏むのだが、()ぐに切り替えて。


「ん、()れより一向に(なに)も襲って()ないぞ」


 既に巨大貝との遭遇場所を過ぎ、進路を北にして作業場方面へと向かいつつ()った。


「ああ、()れは後ろで(あれ)だけ大きな氷塊が、水を()き乱して移動して()るのだから、飛翔(ひしょう)板の水音に誘われるどころか逃げ出して近付かないよ」


「ふぬっ、(なん)たる事ぞ! 我の活躍が一度も示せなかったではないか」


「水面に巨大な落とし穴(つく)ってたし、水弾を飛ばしたり火を付けて爆発させてたりしてたのではなかったかな?」


「ん、最初は()(かく)、水弾は同系統で水浴びに変えせしめられたし爆発はマリオンの(わざ)を補助したに過ぎぬぞ。(しか)も耐性持ちらしく平然として()たではないか」


「あー、ええ、そうだね」


「ん、()う、()田螺(たにし)に火を通すにしても聖堂地下の出入り口近くで(おこな)うのは、(いささ)不味(まずい)いのではないか?」


(ああ)、本当に(たま)真面(まとも)な意見を()うから、困ったものだな。()く考えて()れば地底湖の様な密閉空間で焼くのは(つたな)過ぎる」


「ぬぬ、失敬な! ……ぞ!」


 勿論(もちろん)、リルトルは飛翔(ひしょう)板の上で「たむたむ」と地団駄を踏みつつ憤慨(ふんがい)して()るのだが、全て聞き流されるのだ。


「――陛下に熱を通して(いただ)くのは如何(いかが)でしょう?――」


「ん、我の活躍したる場は何処(いずこ)ぞ」


(いや)、陛下に()って()しいと頼むのは不敬極まりない。取り()えず聖堂地下の通路が()る入り江(まで)運んで()いて、後でリーファ様にでも相談しよう」


「ん、主らは我を無視して()らぬか?」


「――ええ、()れが一番無難そうですの――」


--


 メイリア神官長は、目の前に(そび)え立つ氷塊を見上げた(まま)で動かない。

 ()れは入り江を塞ぐように氷塊が2つ押し込められ、中には前衛芸術的な岩刺し田螺(たにし)一寸(ちょっと)大き過ぎる(えび)が凍り付いて()る。

 勿論(もちろん)(えび)の氷塊は天辺(てっぺん)の所に意味無く足が突き刺さって()る。

 何度かマリオンはメイリア神官長に声を掛けるが、反応は無く唯唯(ただただ)口を少し(ばか)り開いた(まま)である。

 (いや)、少し反応し始めた(よう)だ。


「……ええ、バルパルのご飯の(たくわ)えですね。うん、()だ昨日の貝が残ってますけれど」


「はい、()れで田螺(たにし)の方は寄生虫が心配なので、此方(こちら)でも火を通す方法を考えて()きますから、食べさせるのは待って()しいのです」


 なけなしの嫌味を平然と無視するマリオンも良い性格である。


「ん、気力防壁が無いのだから水蒸気爆……ふが」


 どうやら、ライリッテに口を塞がれた(よう)だ。


()れでは、後で(また)寄せさせて(いただ)くかも知れませんが、(なん)だか混乱されて()るご様子なので、取り()えずお(いとま)させて(いただ)きます」


「ぴぃやぁ」


 マリオンたちは()う伝えるとそそくさと()の場を辞するのである。



---

修正記録 2017-08-16 08:23


そして再び巨大 → そして巨大


、水を()き → 、再び水を()


幾つかのルビを追加、修正


句読点の変更、追加


維持して → ()りつつ


「拾って」追加


水音に誘わる → 水音に誘われる


聞き流される。 → 聞き流されるのだ。


「なけなしの嫌味を平然と無視するマリオンも良い性格である。」追加


(よう)である。 → (よう)だ。


()うと → 伝えると

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