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アリアは知らない  作者: taru
四章 リーシャ編
184/345

165紙切れ

 此処(ここ)に記するは事実である。

 ()の時、()のものは開眼されたのであろうか。

 最初こそ安定せず今にも引っ繰り返りそうな(ところ)を幾度か見掛けたものである。

 ()の奇跡は斜めにして立つ事に始まったのやも知れぬ。

 ()(どんぶり)修行は我ですら足ががくがくと()る程のきつい鍛錬で()ったのに、()のものの宙を舞うが(ごと)き歩く(さま)を見て愕然(がくぜん)としたものである。

 更には両足を(そろ)え引き()(よう)に歩いたり、後ろ向きで滑り踊り(なが)ら移動したりとする余裕すら見せたのである。

 もう脱帽するしか我には無かったのである。

 (ただ)、踊りに関しては手足を無闇にばたつかせるだけで、余り恰好(かっこう)の良いものでは無かったのが残念極まりないのである。


 リーシャはティロットが落とした紙を拾い呼び止めようとしたが、ちらりと見えた内容に黙して裏を向けて置き直し、其処(そこ)(ようや)く口を開いたのだ。


「ティロット、(なに)か落としたよ」


「あ! ()れは(かたじけな)い!」


 ティロットが紙を(めく)()ると、ぴたりと動きが止まり、ぎぎぎと音が()こえて()そうなぎこちない動きで顔をリーシャへ向けて()る。うん、怖い。


「ひぃっ」


「リーシャ様! ()の中身を読まれましたか?」


「か、紙の裏に(なに)か書いて()たの? と()うか顔が怖いよ!」


 質問に質問で返す作戦であろうか。だが確かに()れ以上は踏み込めなく()る。

 ティロットはリーシャの些細(ささい)な機微も逃さず読み取ろうとしたのか、(しばら)くじっと見詰めて()るのだが、一息()いてから(きびす)を返して()の場を立ち去るのである。


「――うーん、()の様な態度に()らざるを得ないと()う事は、内容が偽装で()って実質の(ところ)、リルミール様の観察日記とか……――」


 リーシャもティロットも一応は文官派閥の貴族なのである。速読を(もっ)て一目で内容を把握する事は訳が無いのだ。


「――(いや)(さっき)メルペイクを呼んだら、リルミール様が返事をし(なが)ら後ろ向きにわたわたと若干ばたついて()られて、()の様子をティロットが帽子を取って眺めて()た気もするから、虚実取り混ぜたものとも()い切れないのかな――」


 リーシャは小声で(つぶや)きつつ天井や床に開いた配管の通り道へ気を送り、徐々に石塊(いしころ)の付いた魔気道管を近付けて()るのだ。

 決して怠けて()る訳では無いのである。


「――(いや)、奇跡なんて奇行の足跡と読み取れないだろうか。開眼もラクス様の()(ところ)の面白に悟りを開いたと()う意味か。なんて事だ……全て繋がった、(ただ)でさえ(つら)い作業と思われる、不安定な足場で聴音器具を支えて()たら笑わされて腰砕けと()り、御蔭(おかげ)で足ががくがくと()ったと――」


 (ようや)石塊(いしころ)がくっ付いた魔気道管が、次々と開口部から出て()(よう)だ。

 リーシャは()れを集めて蓄魔(ちくま)器へ取り付けて()く、作業も(いよいよ)大詰めである。


「――(いや)、物事を(ひね)くれて見て(ばか)りでは駄目だよね。だけど()の紙に書かれた文も大分(ひね)くれてる気がするのだよね。修行好きのティロットですら疲れ果てる作業にリルミール様が平気な(はず)が無いのだよ……――」


「リーシャ様! 残りは聴音器具周りの土台(づく)りだから、其方(そちら)が終わり次第手伝って欲しいと、チェロルからの伝言です!」


「ひぃっ」


 最後らしき魔気道管を押さえた(まま)リーシャはぴたりと動きが止まり、ぎぎぎと音が()こえて()そうな程ぎこちない動きで顔をティロットへと向けるのだ。


「い、何時(いつ)から此処(ここ)に来て()たのかしら?」


「リーシャ様が、”だけど()の紙に書かれた文も大分(ひね)くれてる”、と(おっしゃ)られて()た辺りです! ところで、先程リルミール様が平気な(はず)無いと(おっしゃ)って()ましたが、()(よう)な意味なのでしょうか?」


「え、ええ、言葉の通り自力で歩けない程疲れ切って()て、メルペイクの【浮遊】に支えられ飛んで移動して()たんじゃないのかなと」


 ティロットはリーシャの話しが終わる寸前に部屋を飛び出して()く、どうやらリルミールの(もと)へ向かった(よう)である。

 リーシャも同じく気に()って仕舞(しま)ったので、慌てて後を追い掛けて前方部の部屋に入ると、椅子に座り込んで寝入って()るリルミールが目に入る。


「疲れてたのかな! リーシャ様が来るまで座って待って()よっかって待ってたら、何時(いつ)の間にか寝ちゃったんだよ!」


()う、分った! リーシャ様、運ぶの手伝って(もら)えますか?」


勿論(もちろん)、だけど普段だと色々察しの良いティロットが、リルミール様の機微を見逃すなんて(なに)()ったの?」


「リルミール様の目が力強かったのです! 気迫に満ちた()る気ある目を見て判断して()ました! 普段は目を見れば大体(わか)るのでけどね!」


「えっ、じゃあ(さっき)私の目を見て……」


「はい、読まれた事は察して()ました!」


 リーシャは目を()らす事しかできないのだ。実に居た(たま)れない。

 3人でリルミールを支え(なが)ら潜泳機の外に出ると、ハンナ様たちが此方(こちら)に向かって()るのが見える。

 そして、ベイミィが簡易寝具から逃げ出そうとしたが、()え無くラクス様に(つか)まり戻されて()くのである。



---

修正記録 2017-08-13 07:51


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御蔭(おかげ)足が → 御蔭(おかげ)で足が

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