163危険な人たち
其処には記念碑か近代芸術が如く立ち尽くす。
巨大田螺の氷塊は3本程の岩釘が飛び出した状態で、奇抜な芸術家辺りなら褒め叩いたに違いない。ああ、褒め称えるだった。
「此れもバルパルの食料備蓄にするのでしょうか?」
「ぴゃぁっ」
「ううむ、田螺は食料にも為るらしいが、必ず克く火を通さないと中に寄生虫が居ると聴いた事が在る」
「ん、こんがり焼いて進ぜようぞ」
「未だ少し許り微量な抵抗が有って直接の凍結に至ってませんですの」
「兎も角、此の凍結した田螺擬きの魔落を此処へ置いて置く訳にも行かないから、……ライリッテ、悪いが此の氷の塊ごと運んで呉れないか? ああ、若し此の巨大田螺を狙って他の魔落が襲って来ても、此れを守る必要は無いからね」
「はあ、其れは構わないのですが、此の岩槍と云いますか、いえ、岩杭でしょうか。でか田螺が密着する岩から、如何遣って岩杭を形成し射出できたのですか?」
縦令、岩が田螺に取って適正外の物質で有っても、直接密着して居れば生きた気が浸透するのだから、其処へ異なる気を侵入させ改変を加える事など不可能なのである。
「ん、気になるぞ」
「ああ、チェロルの覚書を参考にしたのだけれどね。私たちが槍や剣を主要武器にして戦うのは、矢張り気の防壁を越える為だよね。剣技や武技の御業を獲得する事で、剣に含まれる適性が無いあらゆる金属に気を通し強化を以て対戦相手の強化された適性素材の防護服を打ち破る為だから……」
「其の辺りは誰でも知って居ますのよ。本題は未だですの?」
「ん、其れが総意であろうぞ」
「前置きぐらい喋らせて欲しいのだが……。まあ、要するに遠距離攻撃は気力の加わった防壁が有る限り与えるられる損傷は表層のみで、中々有効打とは成り得難いのだけれど、其れを可能とした一つの方法が一寸前に話て居た羽根の付いた鉄の矢だよね」
「ん、私は聴いて居らぬぞ」
「噫、彼は長い飛び道具の一種なんだけれど、長柄を以て気力防壁の外から気力を通し、強化を維持する目的が一つ。途中に付けられた3枚の羽根に水流を押し当てて、気力防壁外から持続攻撃を加える目的が一つ。羽根の形状から回転を加える事で、気力を弾き拡散させる目的が一つと3つの目的が成し遂げられるように創られて居るのだよ。勿論、鉄に親和性を持つチェロルやメアリーさんが使ってこそだけどね」
「あら、其の回転の話は聴いて居りませんの」
「否、風車の話とかは一応したと思うのだけれど……。まあ、それで田螺が持つ気の防壁が影響するのは薄い岩1枚分、逆に云えば其れを残して置けば事足りるし、此の薄岩の壁が在れば其処を打ち破る迄は、幾ら造形をして居ようと気の流入も無い。後は造形の輪郭部だけ切り取り岩杭? の通り道に在る岩を瞬間的に岩杭の後ろに移動してやれば、爆発的な威力を伴って外へ発射されると謂う訳だよ」
「はっ? 一寸待ってよ! 聞き捨て為らない事が幾つか有るの! 先ず3枚の羽根は関係無いですのよね」
「えっ、先ずそれなのか? リルトルに訊かれたから説明しただけだよ」
「ん、忝ない」
「ぴぃや」
「ま、まあ、宜しいですのよ。後、瞬間的な移動とか爆発って要は【瞬間転送】の御業を使って見せたと謂う意味ですの?」
「ええ、然う、克く判ったよね。まあ、チェロルから試して欲しいとリーシャに頼んで居るのを見付けてね、私が危ないから駄目だと禁止して折を見て私の方で試して置くから、と何とか言い聞かせて居たものなのだよ。此れはルトアニアの学者が提示した学説の応用なのだけど、全ての非生物の物質を顕現する御業は其れに特化した瞬間転送を行って居るに過ぎないらしいよ」
「え……、其れって少しの量でも大爆発を起こし兼ねないものではありませんか!」
「然う、だから禁止にして何か方法は無いかと、色々考えて居たのだけれどね。それで思い付いたのが少しずつ手前から転送して行く心象で、後は御業が補完して呉れるのではないかと期待して試したら、意外と上手くいったよ」
「流石は私たちの悪評の一端を担うマリオンですの。と云うか私たちを巻き込んで危険な事を試さないで欲しいですのよ! 責任を持って次は私が試すので付き合って頂きますのよ! あっ、それから気力防壁の話は、如何遣って繋げる積もりなのですの? 彼れだと、そんなもの根底から消し去る威力ですのよ」
「否、田螺が岩に接触して居た部分は簡単に切り裂ける程柔らかかったから、抑其の裏側部分に防護服云云は関係無いから見落とし勝ちだけれど、若し気力の通った防護服に岩杭が当たったら、其の時点で砕けて仕舞うのではないかな?」
「あっ」
「ん」
「ぴゃ」
マリオンは田螺の前衛芸術もとい氷結した姿を指差すのだ。
「多くの魔落は御業と関係無く、其の生来の特徴に強化が行われて居る事が多く確認されて居る。であれば彼の貝殻に強化が有ったのではないかな。何せバルパルの攻撃が殆ど効いて無かったのだからね。そして岩杭は彼の貝殻を突き破って尚砕けて居ないのだよね。之は離れる寸前迄気力が通って居て、一瞬だけの間で在れば気力強化が働いてる状態と略同じと云える証明に為るのだよ」
マリオンとライリッテはにやりと微笑み合う。矢張り3女傑である。
次回分は8月11日まで、こちらの都合で執筆作業をお休みします。
宜しくお願い致します。
---
修正記録 2017-08-08 09:25
其れは → 其処には
メイン → 主要武器
其れ残して → 其れを残して
彼が → 田螺が
其処に → 其の裏側部分に
関係無い → 関係無いから見落とし勝ちだ
気力が強化 → 気力強化
ルビを追加