162裏側が
リルトルの照らす懐中気灯が、前方の最奥に薄らと見える壁を捕らえた。
「ん、行き止まりであるぞ」
「ぴぃやぁぁ」
「否、別の壁柱地帯だよ。今、確認して居る壁柱の3、4倍ぐらいは有る大きさだね」
「抑、今、確認して居る場所の規模すら分かって居ませんのよ」
「ああ、街の大きさで云えば3/4区画ぐらいかな? 派出所の土地だと12個分だろうか」
「微妙に分かり辛いですの」
「ん、右に抜けてるのか。待て、前衛をしてる私が地形図を持たずして何とする」
「ええ、漸と気付いて呉れたか。だけど此れは前衛と云うより斥候の仕事だよ。先行して危険が無いか地形は如何かを調べて、後方を安全に導くのが主な仕事なんだよね。今回の場合は特に地底湖の絵図を修正し以て、周囲の警戒も当たらなくては行けないから結構大変なんだけど、リルトルにできるかな?」
「ん、任せるべし。ライリッテにも画伯と褒められた事すら有るのだぞ」
マリオンがライリッテの方へ目を向けると、微妙な面持ちで首を振る。一つ息を吐き逡巡しつつも口を開く。
「判った。確りと修正を描き加え乍ら、周りにも十分注意を払って呉れよ」
「ん、泥舟に乗った積りで安心するが良いぞ。ふむ、此処は壁が出っ張ってるだけで、此の儘進めば復右折に為るのか」
「否、絵図は目安で在って実際と異なる場合も有るから、先ず疑って見るくらいが丁度良いのだが」
「ん、右折れ……」
「否、先に未だ壁が見えるから絵図に無い窪みだな」
「んむ、確かに先は行き止まりか、怪しからん地形図だぞ。ん、珍しく壁が垂直では無いぞ」
マリオンたち一行は窪みを確認する為に、一度、其の奥を覗き込み僅かだが窪みに入り込んで居た。
故に次に向かう壁沿いが60度以上の鋭利な壁に為って居たら、其の裏側は見通せず状況も判り難い。
だからこそリルトルは【水】の粒系因子を死角へ飛ばし、予め水上の状態を確認して居たのだが、直ぐに其の違和感に気付けなかった。
此れがライリッテであれば、【水】の粒系因子が縦令岩に打つかり粒自体が弾けたとしても、【岩】の適性が有るのだから気力線は弾かれずに繋がる筈であり、岩か如何かも認識できたのだ。
ライリッテが気付けたのは、リルトルが壁裏の見える位置に差し掛かった時である。
「リルトル、其の壁裏に何か居る様ですの! 敵意っ離れて!」
裏に居る何ものかがが、探索に使った属性と同じ【水】を持つとしたら、気力防壁が余計に働いて輪郭すら捕らえられなく為って仕舞うのである。
バルパルは潜って廻り込み勢い付けて突っ込んで往く。
「ドッガァァァン」
音は良いが当たった場所は殻である。此れも貝の一種なのだろう塒を巻いた其の背中に当たっても、びくともしやしない。
続けてリルトルが水の球を水面から弾き飛ばして次々と当てて往く。本来なら水弾を打つけるだけでも、多少は痛手を与えられる筈だった。
だが水弾は1m以上手前で水飛沫と為って消えて往くだけだから、困ったものである。
バルパルは接近して噛み付こうと考えた様だが、水に包まれて持ち上げられつつ在る。
「びゃぁ」
「リルトル、【水】持ちだ! 離れて火の準備」
「ぴゃっ」
マリオンは飛翔板で、バルパルの気力防壁ごと包み込む水を弾き飛ばして引っこ抜く。其の儘、旋回して方向転換する序でに飛翔板の先を掠らせて、岩にへばりつく足だかひれだかよく判らない部分を切り裂くのだ。
「ぎょばぁっ」
岩と殻の僅かな隙間だが流石は本物の前衛と云う処か、陽動には十分、見事なものである。
突っ込むのは簡単だが逃げるのは難しいのだ。
田螺は一度、傷付けられた部分を、僅かに岩場から離すが再びへばりつく。
其れを気にする事無く其の間に、バルパルを左手に抱えた儘少し距離を取って口遊む。
「[砂糖よ其に在れ]」
「[火よ其に在れ]」
田螺の周りに若干きらきらと光を反射する砂糖が舞った瞬間、続けざまにリルトルが火を点ける。
「ドッォォォォガァァァァン」
「びゃぁぁぁ」
小規模乍らも十分大爆発と云えよう。
だが、火と黒い煙が霧散した其の姿は、先程の田螺の儘である。
「【熱耐性】か……」
「ん」
何時の間にか「ぽちゃん」と音を立てバルパルが落とされて居る。
「ぴゃぁぁ」
「では私の出番ですのね。[氷よ其に在れ]」
田螺が防御に使おうとして居たのか、水球を3つ程浮かべる直前だったのだが、2つを巻き込んで水面と共に凍り付いた。
続けて目で見えるくらいの水粒が次々と浮かび上がり一斉に田螺へと向かい飛ぶのだ。
「[氷よ其に在れ]」
そして、水粒は霰や雹と為って、次々と田螺へ吹き荒ぶのである。
マリオンは其の間に壁へ手を付けて、何やら心象を固めて居る様子だが……。
「グシャッ」
大きな岩の釘が、田螺のへばりつく壁から飛び出して来たのだ。
続けて、2本目、3本目と飛び出して終には田螺がごろりと転がり落ちたのである。
殻蓋を閉じようにも岩釘が残って居て閉じ切れない。
然うして悪足掻きをして居る間に、氷が見る見るうちに田螺の周りを覆って行き何時しか氷塊と成り果てたのだ。
「何だか美味しい処をマリオンに持って行かれた気がしますの」
「ん」
「ぴゃあ」
「気の所為じゃないかな……」
---
修正記録 2017-08-07 15:28
行き止まりだぞ → 行き止まりであるぞ
3から4倍 → 3、4倍
其の先が → 次に向かう壁沿いが
岩か如何かが認識 → 岩か如何かも認識
句読点を追加
時であった。 → 時である。
ルビを追加
1m手前以上で → 1m以上手前で
消えて往だから → 消えて往くだけだから
「岩と殻の僅かな隙間だが流石は本物の前衛と云う処か、陽動には十分、見事なものである。」追加
「突っ込むのは簡単だが逃げるのは難しいのだ。」追加
「其の間に」追加
一度、其の部分を → 田螺は一度、傷付けられた部分を、
殻 → 殻蓋
釘 → 岩釘