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アリアは知らない  作者: taru
四章 リーシャ編
180/345

161検証

 ベイミィは目下の(ところ)潜泳機の上に座して()る。

 其処(そこ)背鰭(せびれ)の手前であり、普通なら足下の両側には胸鰭(むなびれ)が見えるだろう。

 対岸に座る高貴な御方々の威厳に満ちた雰囲気と比べれば、実に(つつ)ましいものである。

 少し顔色が(すぐ)れない気もするけれど、屹度(きっと)不安定な高所に椅子で座るのが心許(こころもと)ないのかも知れない。

 椅子の両側には足下の覚束無(おぼつな)いティロットとリルミールが、魔気道管の束を支えて立って()る。

 ティロットは涼しい顔をして支えて()るものの、()れは有り得ない事であって、現に肩にメルペイクを乗せたリルミールは、3回程足を滑らしたり後ろへふらついたりとし落ちかけて()る。

 ならメルペイクを下ろせば良いと思うかも知れないが、落ち掛けた3回は全てメルペイクに()って助けられて()るのだ。

 今やリルミールはメルペイクに対して絶対の信頼を置いて()り、退()くように言えば断固たる反対を示すであろう。

 (さて)、魔気道管の束は2人の足下で四方八方に広がって()り、仮置きで立て掛けられた集音装置へと(つな)がった後に折り返して戻って()ると、椅子の下に()る開けっ放しの潜泳機入出用扉へと入り込む形である。


貴女(あなた)たち最低ですわ……」


「――()れじゃあ、魔気流すよ!――」


 ベイミィの苦言は一切無視して段取り良く事を進めるチェロルは、誰の視線も感じない潜泳機の中に(ひそ)めてご満悦なのである。

 そしてベイミィは色々と微妙で不安定な位置に置かれた椅子に座らされ、目は布で覆われた上に頭の両側から、丼鉢(どんぶりばち)の様な形で魔気道管の束が刺さった聴音器具を向けられて()る状態なのだ。


「了解! じゃあベイミィ、悪いけれど(しばら)く我慢しててね。よっと」


 リーシャは岩で(つく)った真ん丸の玉を片手で勢い良く転がすと、()の先に()る細めの(たけのこ)みたいな円錐形状の岩へと向かって()くのである。

 (たけのこ)形状の岩は(むだ)に六角多孔(たこう)(つく)られて()り、手前から1、2、3、4、5本と合わせて10本の(たけのこ)岩が少し感覚を開け並べてある。

 岩玉は少し回転が掛かって()たのか、それとも小石にでも当たったのか分からない。

 (ただ)(たけのこ)岩群へと真っ()ぐ向かって()(はず)が、微妙に()れて()ち当たるのだ。


「ガガココドココーン」

「くっ……よっ」


 リーシャは転がった岩玉を御業(みわざ)で引き戻し(なが)ら、(やや)悔しそうな面持ちでベイミィへと顔を向ける。


「東中央に3、5、6、8、9、10番の目標が倒れ、7番は辺りはしたものの西へ移動しただけですわ。ですから1、2、4、7番が倒れずに残って()りますわね。後、少し外れた原因は(なに)かの切り(くず)が残って()りましたのですわね」


 (たけのこ)岩の並んだ群は潜泳機の左右に3箇所づつ()るのだ。


「あっ本当だ。(あれ)は魔気道管を調整した時に出た削り(かす)っぽいね。と()うか倒した目標が、並べてある中の()れか(まで)()き取れるの?」


「ええ、岩玉が転がり始めた音の反響で大体の配置と数は、(おぼろ)(なが)らも把握できますし、ぶつかる寸前には精査も終わり、(ほとん)(つぶさ)に把握できて頭で心象を描けて()りますから、後はぶつかった瞬間の動向を()の心象へ反映するだけですわね」


「はあ、()くそんな数の発音器具から、(ほぼ)同時に出される音を()いて精査、解析できるよね」


「実際に()き分けてるのは3箇所ぐらいですわ。他は計算しないでも距離が把握できるよう捕捉で使うくらいでしょうか」


 うん、どうやらベイミィは頭の構造がおかしい様である。

 リーシャは【気隠】の真似事(まねごと)をして潜泳機の西側へと回り込む。()れは間近に居ても足音すら()き取れない程に洗練されて()る。


「リーシャ様、(なに)がされたいのでしょうか? ()の聴音器具は魔気の供給出力を上げると息や心音すら()こえるのですよ」


「えっ……そうなの?」


 ()の時である。水路の向こうから拍手が()こえて()るのだ。

 ベイミィは理解して()ると()うより最初から会話すらも()かれて()るので、常に意識をして()た御方である。

 リーシャが潜泳機を()けて見遣(みや)れば、アリア殿下が拍手()されて()られる姿が見て取れる。


「素晴らしいですわ。想像して()りました以上ですわ」


 ()う言いつつ水路をひらりと飛び越えて、此方(こちら)へと()って()る様だ。


「ベイミィ様、()の最新の水中音声蒐集(しゅうしゅう)機が潜泳機に備われば、(ほとん)どの突発的な問題を事前に防げますのではありませんか?」


「御意に御座(ござ)りまする」


「ところで、リーシャ様、()の玉を使った検証ですが私も手伝わせて(もら)いますわ。ええ、()れ程のものを(つく)り上げて(もら)えたのですから、(わたくし)も座しては居られませんわ。丁度(ちょうど)私の近衛(このえ)騎士たちも()りますから、適度に散らばって雑音に()って(もら)いましょう」


 ()うアリア殿下は宣ふ(のたまう)と、さっさとリーシャから岩玉を奪い取り、ご機嫌な面持ちで(たけのこ)群に狙いを定めて息を吐く。


「えっ! 私は()()(まま)の状態なんですか?」


 若干、焦りつつ不安定な場所で目隠しをした(まま)のベイミィが声を掛けるが、誰一人として取り合う気配を見せるものは居ない。

 多分、殿下の検証は後5回程は続くだろうが、重要なお役目なのである。

 両側の2人に至っては……。


「ぬ! リルミール様が斜めに安定性を見出(みいだ)した!」

「チュィ!」



---

修正記録 2017-08-06 12:06


ふらついたりとして → ふらついたりとし


3回全てを → 3回は全て


()たのだ → ()るのだ


幾つかのルビを追加


(つく)って()り、 → (つく)られて()り、手前から


5と → 5本と


だが → (ただ)


右 → 東


左 → 西


7が → 7番が


後、外れた → 後、少し外れた


寸前には(ほとん)ど → 寸前には精査も終わり(ほとん)


幾つかの句読点を追加


頭に心象 → 頭で心象


描いて → 描けて


玉の検証を私も → 玉を使った検証ですが私も



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