160うっかり
荒涼たる其の頂に、彼奴は恍惚の面持ちでへばりつく。
其れは巨大な氷塊の一角であり、吃水下の中心部では徐々に凍てつく巨大蝦が居る。
縦令、気の防壁が有ろうとも適性の無い物質に囲まれて、間接的に冷やされれば為す術も無く眠りへと誘われる。
「バルパルはあんなに氷を舐めてて大丈夫なんですか?」
「ん、お腹壊すぞ」
「話に拠ると普段から一旦冷凍したものを食べてるらしいよ。其の方が日持ちするから何かと都合が良いみたいだな。一応、メイリア神官長殿に頂きますを許可されないと食べられないみたいだから、舐めて我慢して……る訳でも無さそうだな」
「ぴゃぴゃ」
実に嬉しそうに舐め入るバルパルである。
「其れは其れとして、地上でも2人の連携は他を圧倒したが、親和属性の満ちる地底湖では規模も速度も段違いで全く大したものだな」
「ん、水を顕現しないで済むのは迚も楽だぞ。但、少し羽目を外して力を使い過ぎたのだ。其れと私が遣ると云わなかったら、マリオンは天井から岩の剣を伸ばして瞬殺し兼ねない。危うく私たちの見せ場が潰される処だったと思うぞ」
「否、頑丈そうだが流石に地底湖を支える天井を変形させるのは危険でないかな……。後、魔気が濃いだけに気の回復も結構早いから、気力の使い過ぎは其れ程影響はしないだろ」
「まあ、少し使い過ぎたのは確かね。徒、地上の積もりで行動して仕舞った処が在って、リルトルが水流を操作して沈む筈の蝦を止めて貰えなければ、効果は半減しましたの。勿論、リルトルの操作解除と前後した関係で多少、次の攻撃が遅れましたが誤差の範囲ですのよ」
「ん、本の少しライリッテは遅れただけ。私が早計だったと思うぞ」
「いえ、余裕ができて助かりましたの。後、速度に就いては永らくリルトルと組んで居るのですから、お互いの気が干渉しないよう瞬時に気力線の通り道を棲み分けするくらいは御手の物ですの」
「気の展開速度が明らかに短縮されて居たのだけれど、此れ程変わるものなのかな?」
「同じ属性に適性が有るもの同士は、利点も有れば欠点も有りますのよ。私がマリオンの乗る飛翔板に乗り移ったら、即座に引っ繰り返り兼ねないのと同じ事ですのよ」
「其れは試さないで欲しいね……」
「それから、天井の岩を変形させるぐらいなら大丈夫だと思いますが。と云いますか彼の作業場を散々穿り返して置いて、克くそんな事が言えますのね」
「否否、彼処を掘った岩は全て入り口周りに盛って柱の補強としたから全体的には其れ程影響して居ないと思うけど……」
「あら、そうですの? 少し勘繰って仕舞った様ですのね。失礼しましたの」
「否、構わない。バルパル、そろそろ出発するよ」
「びゃあ」
「此れは一先ず此処に置いといて此の壁を一周廻ったら、回収して聖堂地下通路の所迄一緒に届けに往くから」
納得したのか後ろ毛を引かれつつもバルパルは渋渋、氷塊から降りて来る。
「克くバルパルと会話なんてできますね」
「ん、お主、終に獣と成り果てたか」
「――リルトル、何気に酷くないか――まあ、普段からリーシャやチェロルがバルパルと会話してるし、其れを見てて大まかな行動原理と云うか習性を把握してるから、会話と云うより予測だね」
「ん、其れは其れとして前衛は任せるべし」
「ぴゃあ」
リルトルは飛翔板を滑走させ「シャー」っと水を掻き分けて進み往く。そして其の後ろを隠れ蓑にバルパルがくっ付いて進む恰好だ。
「ああ、其れと昨日だけど貝の魔落が現れた時は、先頭が通り過ぎアリア殿下が通り掛かった折に突然に水底から敵意を放ち口? を伸ばして来たから、ライリッテは水底の土や岩も注意を払って欲しい」
「底迄なら限り限り探知範囲ですけれど、其の状態で親和性の薄い土迄は殆ど確認できませんのよ。と云うか失態でしたのね。主に【水】持ちのリーファ様とかがですけれど」
「ああ、然も水の中だから攻撃の決め手が少ない……あ、」
「あら、何か見付けましたのですか?」
「否、話をして居たら思い出した事が有って、貝の魔落自体はティロットが酒を水中に顕現して、其れへ真面に突っ込んで飲み込んだらしく速攻で倒せたのは良かったのだが、他のものが水中から迫る貝に、唯、近付くのを待つだけと云う形を強いられたから一寸ね」
「水中の奥底に居る相手を攻撃する方法として飛礫では、牽制に為っても有効な攻撃とは為り難いですからね。エミリアの【氷】も貝だと分かって居れば、凍結で固めて往けばと為るかも知れませんが、何も分からない状態では防御にしか使えませんですの」
「彼の後アリア殿下の近衛たちがチェロルを取り囲んで、新型の武器を強請るものだから、がくがく振るえ怯えて居た光景を思い出してね」
「陛下にからかわれて気を失って仕舞われた方ですのね。まあ、彼の猛者たちに囲まれては虚恐ろしい事ですの」
自分の事を棚に上げてと云うものだろうか。
「……兎も角、其のチェロルの新型武器と云うものが、鉄でできて居る矢や槍でね。後ろに風車や風車の様に水で押されたら回るよう羽根が付いて居るので、目標に突き刺さった後も気力の防壁外から、水流に依って回転し乍ら押し込まれて行くと謂う感じに為ってるのだよね」
「確かにそれなら失態を為出かした後だけに取り囲まれますの。……って云うか! 私たちも其の武器欲しかったのですよ!」
「……ええ、だから失敗したなあって気が付いて、あっ、後でチェロルを取り囲まないで遣ってね」
「……」
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修正記録 2017-08-05 09:19
「実に嬉しそうに舐め入るバルパルである。」
つつも氷塊から → つつもバルパルは渋渋、氷塊から
「 リルトルは飛翔板を滑走させ「シャー」っと水を掻き分けて進み往く。そして其の後ろを隠れ蓑にバルパルがくっ付いて進む恰好だ。」追加
以前に → 昨日だけど
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