159調査隊
其のものは薄花色と灰色が織り成す毛色で上から流れる様に彩られ、頬から喉元へ掛けての白さは際立つぐらいに美しい。
つぶらで大きな瞳や稍小さめの耳が何とも愛らしく、誰しも其のものが普通に歩けば振り返るだろう。
「ぴゃあぁぁ」
水も滴る良い獺である。
「バルパル強請っても駄目だよ。今日は狩りでは無くて作業場周辺の調査だからね」
「ん、其の割に飛翔板を水面へ降ろすのは如何かと思うぞ」
リルトルは3人の中では違和感が有る程若い。【長寿】の先天御業を持つからであるが、此の事に就いて他の2人が触れる事は無い。リルトル自身が嫌がるからだ。
「ええ、確か上でリーファ様に説明頂いた話では、水中では能く音が通るらしく水面へ飛翔板を浮かべて行動すると、魔落が喜び勇んで飛び付いて来るとか」
ライリッテは伯爵位と子爵である他の2人と比べて、言葉遣いだけは僅かに気品が有るかも知れない。
「タリス皇帝陛下が主は殺すなと宣い給うたのだから、序でに周辺を掃除でもして来ても構わないと捉えたのだが、如何かな?」
然う言われると皆は良い顔をして頷くのだ。否、何故バルパル迄……然も良い顔と云うより稍若気た悪い顔だし。
そんな遣り取りをしつつマリオンはリーファ様から預かった地底湖の平面図を取り出した。
「其れは何ですの……。えっ、一寸待って下さいまし。其れに描かれて居る情報は間違い有りませんか? 此程巨大な地底湖が存在したら何時潰れてもおかしく無いでは有りませんか」
興味本位にマリオンの後ろから覗き込んで来たライリッテは、やけに慄いて捲し立てるのだ。
「ええ、……まあ、此れは写しだけどメイリア神官長が、其処のバルパルを使って作り上げたらしくてね」
「ぴゃっ」
「けれど神官長が実際に見て確認したのは、聖堂地下通路の周辺だけなのだそうだよ。ふむ、バルパル、東の壁が未だ調査できて居ないから、其方へ往こうか」
「ぴゃあ」
「ん、前衛は任せるべし」
リルトルとバルパルが進んで前への配置を願い出た。
「ええ、お願い……」
バルパルは兎も角リルトルは此の話しに余り興味が無いのか、そそくさと前へ詰めるのだ。
「……で、其れ以外は随分とあやふやなものらしくて、何しろバルパルの反応を窺いつつ描き記して行くのだから、其の機微の判断を神官長の匙加減一つに委ねられて居る訳だよ」
「えーとっ、大雑把に為る嫌いが有ると?」
「ええ、其の為、矢張り細かい部分で抜け落ちが在って、作業場の周辺だと此処の色が塗られて無い部分、作業場の小さな一角より更に小さな柱が3つ点在してるでしょ。此れは新たに描き加えた部分なのだよ」
「では、本当は細かい柱と為る壁が幾つも存在して居ると?」
「一応、私たちは然う考えて居る。だから此の絵図を見た通りで考えれば、東の先は広く何も無い空間が幾つも在ると感じる。だが、此れから調べるに連れて徐々に小さな壁の一角が見つかって来る可能性が高いと謂う訳だな」
「そうでしたか。もう、驚かさないで下さいまし。では此れから其の未確認である壁柱とやらを、確認しに行く処ですのね」
「否、もう見えて居るが、彼の壁……絵図では此処だな。今は略図に近いから正しい形状を描き込み乍ら廻る積もりだよ」
「……変な処で真面目ですのね」
「だからこそ彼だけ遣らかした3人が未だに連んで行動できるのではないか。リルトル、其の壁に沿って左へ廻って往くからね」
「ん」「ぴぃやあ」
「ええ、確かに略図ですのね。丸く抉れた図で描かれてますが、実際は台形に抉れてる感じですの。但、言葉を交わさず此れだけ描けたのは驚愕ですけれども。敵意ですの」
「ぴちゃん」
「ん、バルパルが潜ったぞ」
「ドッボーーーォォン」
「噫、此れは私たちの出番が無いかも知れないね。此方が滑走する音を囮に、バルパルが横から不意を突いて攻撃を加える手順が常套手段らしく。【強頭】の御業で先ず勢いを付けて頭突きを加え、怯んだ処で強靭な顎を使って噛み付き息の根を止める迄が何時もの流れ……蝦!?」
「ジョバッ」
蝦は大きく跳ねて宙に舞う。
「足を残して逃げましたの」
「ん、任せて。えいっ」
蝦が落下地点へ着水する寸前に其の場の水が消え其の上空に移動したのだ。リルトルの親和属性である【水】と【瞬間転送】の合せ技だろうか……規模も大きい……。
「[氷よ其に在れ]」
そして、追撃と許りにライリッテは上空の水が落ちる前に凍らせる。此れも親和属性の【水】を持つからこそできる業だろう。
勿論、何度も繰り返された連携である為、上空へ転移した水にリルトルの気力は繋がって居ない。
「其れ反則では無いかな……」
凍る瞬間に幾つかの塊と為って分かれて居た様だが、それでも巨大な氷塊である。
「ゴゴドゴゴゴドゴドゴ」
「びぃゃっ」
少し離れて居るとは云え堪ったものでは無い。慌てて逃げ出すのはバルパルだ。
「次は下から[氷よ其に在れ]」
巨大な氷塊に上下から挟まれて身動きが取れなく為った巨大蝦の魔落はもう虫の息である。
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修正記録 2017-08-04 07:14
毛色が上から → 毛色で上から
頬や喉元の白さは → 頬から喉元へ掛けての白さは
「 ライリッテは伯爵位と子爵である他の2人と比べて、言葉遣いだけは僅かに気品が有るかも知れない。」追加
書 → 描
此の色の塗られて → 此処の色が塗られて
一角より小さな → 一角より更に小さな
形状が正しいか書込み → 今は略図に近いから正しい形状を描き込み
中 → 宙
【水】持つから → 【水】を持つから
「 勿論、何度も繰り返された連携である為、上空へ転移した水にリルトルの気力は繋がって居ないのだ。」追加
ルビを追加