158じあい
友と認めたものが居る。
彼は空回り許りして、見てる此方がはらはらする。
ハンナ様は云った。
皇帝陛下は敢えて勅を以て未熟な彼たちの、畏まり萎縮する姿を見せたのだと。
其れは、一杯一杯な我らに庇護欲を誘い、確りしなければ駄目だと自覚を持たせる為だったと。
全ては我らを慮って事なのだと。
彼が子鹿の如くぷるぷるする姿を見て奮い立てたのだ。
片やチェロルは随分と肝が据わったお方であろう。
ベイミィを枕にぐたりと寝入ってたではないか。
感心はせぬが中々の器である。
兎も角、ハンナ様に期待され朝から臨んだ此の仕事、延びに延びたが此れからが本番なのだ。
期待を背負い友の為に役立てようぞといざ参らん。
そんな感じのリルミールは慈愛の微笑みを以て、リーシャへと近付くのである。
「リーシャ様、此れは何をして居るのですか?」
丁度ベイミィと共に、集音だか音感だか判らない部品を並べて居る処である。
ベイミィはちらりとリルミールを見てうへえとした顔をし乍ら、水路の方を見遣ると一瞬驚いた顔を見せるのだ。
だが、直ぐに持ち直して若干きつめの顔に為るのだから、何がしたいのやら。百面相だろうか。
扨措き、人に訊かれるのが好きなのか、リーシャは意外と乗り乗りで説明し始める。
「ああ、はい、此の部材、ええっと打ち合わせでは音感器具と云ってましたが、部材目録には集音装置と書かれて居るものですね。今、此の集音装置を潜泳機の取り付け位置を仮定して並べて居るのですよ」
「ふむふむ、何故、並べて居るのですか?」
此処ぞと許りに追撃の手を緩めない。リルミールはできる子なのだ。
「うん、此れはね、幾つか理由があるんだよ。先ず此の集音装置は魔気道管を通して、蓄魔器と音を出す器具を繋げるのだけれど、打ち合わせの通り集音装置と発音器具の位置関係を同じにしないといけないよね」
向こう岸ではラクス様が元気溌剌と雄弁を振るって居る。
おや、右手の黒い板に迄言及し始めたのか更に熱が入り、左横では察し宜しくメアリーがせっせと蓄音魔器を運んで居る。彼の花の様な大きな金属飾りが載ったものだ。
何故かベイミィが距離を大幅に取っての作業に、変更した模様である。
「潜泳機の周りで聴こえる音を、恰も自分の周りで聴こえてるのだと錯覚させる事で、認識と云うか判断をし易くする為ですね」
勿論、半分以上が適当である。リルミールはできる子なのだ。
「うん、其の通りだよ。それで間違えず一目で判る様に並べて居るのが一つ目。実際に仮で繋げて見て正しく動作するか、てれこに為って無いかを確認するのが二つ目。そして潜泳機への取り付けを始めたら復ばらばらに為るし、潜泳機の中は既に色々な機材へ繋がる魔気道管が在るのだから、取り付けの時や修理の時に直ぐに判断できるよう番号や色を付けて居たら判り易いよね。之が三つ目の理由だよ」
リルミールは説明が長過ぎたのか若干顔が引き攣って居たが、最後の内容だったと云うかぴんと来るものが有ったのか、目を輝かして言い放つのだ。
「其の番号や色を付ける役を私に任せて下さい! あ……」
「ああ、うん、よく有る事だよ……。うん、私も何度か……」
丁度其の時、塗料壺を抱えたティロットが現れて、紙に位置、番号、色を書き留めつつ刷毛で色を塗って往く。
向こう岸でアリア殿下が僅かに反応したかに見えたが、気の所為だろう。
確り打ち合わせを筆記して居たのだから、段取りも要領も分かって行動して居るのだ。
リルミールの出る幕は無い。心做しか悄気た面持ちで、先程の覇気は面影も無い。
そんな感じのリルミールに自愛に満ちた風を送るものが居る。
「チュン」
リルミールは一つ頷いて左肩をぽんぽんと叩くのだ。
「――おーい! メルペイク、仮枠の部材を創るから手伝ってよ!――」
「はいっ、唯今行きますよ。お任せあれ!」
肩にメルペイクを乗せたリルミールが、颯爽と駆けて往くのである。
「――噫、益益横柄に為るから、然ういうのは控えて欲しいのだけれど……――」
リーシャの声は届いて無いだろう。虚しく細やかに響くだけである。
向こう岸では慈愛に満ちた微笑みでアリア殿下が、うんうんと頷いて居る。此方には届いた様である。
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修正記録 2017-08-03 06:36
肝の据わ → 肝が据わった
句読点を追加
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修正記録 2017-08-03 06:10
皇帝陛下の勅に
↓
皇帝陛下は敢えて勅を以て未熟な彼たちの、
敢えて見せたのは、 → 見せたのだと。
幾つかの改行を追加
一杯一杯な此方に庇護欲を誘い、自分たちが確りしないと駄目
↓
其れは、一杯一杯な我らに庇護欲を誘い、確りしなければ駄目
事であると。 → 事なのだと。
立ったのだ。 → 立てたのだ。
片やチェロルは肝が据わると云うか、 → 片やチェロルは随分と肝の据わお方であろう。
枕にしてぐたりと寝入ってた。 → 枕にぐたりと寝入ってたではないか。
本番なのだから。 → 本番なのだ。
「期待を背負い友の為に役立てようぞといざ参らん。」追加
補助動詞を漢字に変更
句読点を追加
そして → 扨措き
「。うん、私も何度か……」追加
「肩にメルペイクを乗せたリルミールが、颯爽と駆けて往くのである。」追加