157説明
作業場に似合わぬ立派な椅子が、でんと2台ものさばってる。
其の周りでは生真面目に終始気を張る近衛たちと、意味不明の一匹が侍りたり。
其処に御座り致すのは、タリス皇帝陛下とアリア殿下の御二方であらせられる。
そして水路を挟んだ向こう岸では、せっせと荷解きに勤しむものたちが見える。
「ハンナ、此の儘だと其方の部下が持ちそうに無いねー」
「全ては私めの不徳の致す処で御座いまする」
3人の近衛騎士は気を張らなければ瞬く間に腰砕けに為るだろう。来賓室の時より一層蒼白に顔色を変えて居る。
「然ういう事じゃなくてねー。ライリッテ、マリオン、リルトル」
「ぴゃあぁ」
「……とバルパル? 3人と一匹で此の辺りの調査に行って来なさい! あー、主は殺しちゃ駄目よー。魔窟の主は大概の場合、其処を管理して居るのだからー。そして知能も非常に高いのよ!」
「はっ!」×3
「ぴゃっ!」
「いえ、然し、それでは陛下の護衛が……」
「此の様な閉ざされた空間であれば宮城の私室と変わらないよ! 此れでも護衛が多過ぎるぐらいだから問題無いよー」
「御配慮を頂き恐悦に存じまする」
「はいー。ところでリーファ、彼の獺は先の対応で良かったの?」
「はい、何と無くですが喜んで居りましたので、御遣いが終わったら好きに遊んで来なさい、とでも云われて居るのかも知れません。ん、ラクス、如何した?」
「はい、荷物の確認が終わりましたので、イザベラ様へ報告に参りましたので御座いまする」
「あら、有難う。指示して無いのに気付いたのですね。私が発注したものが確りと届いたかは、後で確認しようと存じて居りました。それで、何が届いたのですか?」
「全部で御座います。耳当てと発音部品は組立てるだけを残して、形状加工を全て終わったものが届いて居りました」
「成る程、確かにリザエル主任が、色々口添えをして居られる様ですね。見る人が見ればチェロルやリーシャが関わったかは、発注内容で有り有りと判りますから、此方で組み立てられるものなら加工迄に止めて、全てを一度に送る方が有益だと判断したのでしょう。此の分だと復肩書が増えそうですね」
「はあ」
「ところで、ラクスは午前中の打合せを、全て書き留めて居りましたよね」
「はい」
「では、アリア殿下に此れから行われる概要を御説明できますか?」
「はい! 遣らせて下さい!」
「其れは私も聴きたいですよー」
「ええ、ラクス、此方に来て話し為さい」
「畏まりました」
ラクス様は意欲的に進言した後、作業を手伝う時に確認しようと持って来た書き付け文書と、彼の黒い板を取り出して、左手の文書を読みつつ右手の板を向こう岸へと合わせるのだ。
ベイミィが目聡く気付いて屹度睨むが、知らぬ顔と云うか板の調整と文書を読むのに必死で本当に気付いて居ない。
準備ができると一度こくりと頷いてから御二方の前へ進み出て話し始めた。
「はい、先ずは新しく取り付ける水中音声蒐集機を聴音側と仮接続してから確認作業を行います。之は幾つもの機器から伝わる音を集約して一箇所へ集める際に、てれこだったり断線や機器の不具合で音が出なかったりと、して無いかを見極めるものです」
普通だと此の時点で何を謂ってるのか解らない処だが、タリス皇帝陛下は飛翔艇の開発に携わって居られたのだし、アリア殿下は言わずもがな飛翔機開発どころか、水中音声蒐集機を持ち込んだと言うか今回の件を指示した張本人である。
「あ、順番が逆に為りましたが、今迄の水中音声蒐集機は外の音は聴こえても何の方角から音が聴こえて来たか判断ができませんでした。然ういった事情も有り水中へ潜る為の器である潜泳機からは、外の状況を確認する手段が乏しく、又、目視に依る確認も水中では泥などに因る淀みで、簡単に遮断される弱みも有りましたので御座います。先に述べた機器の確認作業は之らを打破する為に音の方角を確認できるよう創意工夫したものの取り付け準備で御座います」
「ふむー、解ったよ!」
「はい、それで、詳細というかチェロルさんの発案なのですが、潜泳機の四方八方上下に集音装置、私たちは音感器具と云って居りますものを取り付けて、其の配置に合わせて音が聴こえる器具を耳元に配置すれば、【器用繊細】の御業を以て音を立体的に把握できると謂う寸法で御座います。勿論、潜泳機の構造上取り付けられる場所も数も制限が有るのですが」
「そして最初の話しに戻るんだね!」
「あ、はい、至らず申し訳御座いません」
「大丈夫だよー。それに斯ういうのは慣れだからね! 専門でも無いのに確りと聴いて居る事が窺い知れるよ!」
「はい! 光栄の至りで御座いまする」
---
修正記録 2017-08-02 12:28
2台のさばってる。 → 2台ものさばってる。
句読点を変更
御座りするのは → 御座り致すのは
居る。 → 見える。
行わる → 行われる
形状加工が全て終わって居る様で御座います
↓
形状加工を全て終わったものが届いて居りました
平仮名推奨文字を漢字に変更
然う言うと → 意欲的に進言した後
書き付け → 書き付け文書
黒い板 → 彼の黒い板
左手で → 左手の
紙 → 文書
出なかったり、 → 出なかったりと、
確認作業中の機器 → 機器の確認作業