154若かりし頃
例えば、其の当時、第一皇女子であるタリス殿下が年端も行かぬ少女乍らにやんちゃして、縦令廃屋と雖も家屋敷を木っ端微塵にすれば、誰かが責任を取らねば為らない。
言わずもがな、姫様に醜聞残らぬよう遣った事自体、全てを被るのである。
例えば、普段はリーファ様がひっ捕まえて呉れるとは云えど、曲がり形にも騎士団長であるのだから四六時中付いては呉れないので、専任の近衛騎士である3人が駆け回る事に為る訳である。
当時のタリス殿下は宮殿周りにある森を【瞬間転移】の御業で駆け回り、枝を次々と移ろい往くのだから堪ったものではない。
其の森は幅が300m以上で周囲10kmに渡る広大な場所と為って居り、一部に遊歩道や管理道を設けて居るものの、其れ以外殆どが手付かずの儘なのである。
3人が再三に亘ってタリス殿下を取り逃がしたとて誰が文句を言えよう。
或る時は実験と称して【炭】の粒系因子に火を点けて森の一部を吹き飛ばし、其れをリルトルとライリッテの2人が必死に【水】の御業を駆使して鎮火せしめる事も有った。
或る時は空高くに転移して降りれなく為り、マリオンとライリッテの2人が岩に乗って何とか迎えに行けた事も有った。
時には街へ紛れ込んだタリス殿下が暴走魔落の話を聴き付けて、郊外へと物見遊山に出掛けて仕舞い。慌てて追い掛けた3人が偶然暴走魔落の群れに出会して、何とか彼んとか鎮圧せしめたら、タリス殿下に「私にも残して置いてよー」と苦言を呈されたのは良き思い出だろう。
結局の処、此の3人も色々と遣らかして居るのだが、可也の量をタリス皇帝陛下が遣らかした事件で占められて居るのは確かの様である。
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「と謂う事で地底湖へは飛翔板に乗って向かいます」
リーファ様は一通り説明を終えて息を吐く。
そしてマリオンたち3人の表情に気付き何か言いたくて、うずうずして居たタリス皇帝陛下は説明が終わるや否や途端に口を切る。
「あら、其の様子だとマリオンたちは昔の事を思い出して居るのかしらー。今はリーシャちゃんが創り上げて呉れた六角多孔の飛翔板が在るから、空へも容易に飛べるけれど昔は飛ぶのも大変だったのよー。此の床の大理石に乗って飛ぶ事を想像したら分かると思うけれど、気力の消費が凄い激しいしのよね! 流石に此の重量だと浮力もへったくれもないからねー」
「はあ……」
リーシャは誉められて若干顔が綻んで仕舞うが、マリオン先生の表情と床でてかてか光る大きめの天然大理石を、行き成り浮かせる想像なんてさせられて中途半端な返事をするのは仕方が無い。
「然うね、一度、マリオンとライリッテが空迄迎えに来て呉れた事が有って、其の時はライリッテが岩板を創りマリオンが其れを飛ばしたのよねー」
「……はい」×2
「それで、おかしいのがね! 気力の消費を節約して親和系統に因る干渉を防ぐ為にマリオンが肩車をしちゃって、肩に乗ったライリッテが岩の顕現で消費した気力の回復に努めたのねー。彼れを見て私も少しは冷静に為れたのよね! 今思えば彼の時、死に物狂いで【大気】の御業を使って落下速度を落とし、【瞬間転移】の御業で高度を維持して居たから【飛翔】の後天御業を授かったのよねー。リーファも頑張って【飛翔】取って見ない? 転移に便利よー」
「いえ、飛翔板が在れば十分で御座います。其れから陛下、2人の若かりし頃の恥ずかしい話を若い騎士たちの前で為さると、居た堪れなく為りますので程々にお願い致します」
「えー、騎士が姫を救いに颯爽と現れるなんて御伽噺みたいでしょう? 縦令、肩車をして居たとしてもねー」
「はあ、……兎も角、リーシャ部材が無くてもできる作業は、在るのか?」
「あ……」
「何か知りませんけれど急ぎの部材なら持って来ましたよー。彼の魔気動機関開発主任のリザエルって人? 中々遣るわねー。今後発注が突然来そうな部材は、多めに作るよう口添えをして居たみたいだよー。午前中の発注も承認が下りる前に製造を開始して剰え予備まで作らせたのは如何かと思うけれどね!」
「……部材が揃う様なので、降りたら直ぐに作業へ取り掛かります」
「否、場合に依っては護衛に加わって貰おうと思ってな」
「あら、ちゃんと完成する迄待つよー。此の子たちの作業が迚も迚も早いのは知ってるんだから!」
勿論、リーシャたち4人は迚も迚も重圧が掛かって、顔を強張らせ蒼白にして居るのである。
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修正記録 2017-07-30 10:08
ルビを追加
地底湖には飛翔板に → 地底湖へは飛翔板に
岩の飛翔板が → 六角多孔の飛翔板が
「 リーシャは誉められて若干顔が綻んで仕舞うが、マリオン先生の表情と床でてかてか光る大きめの天然大理石を、行き成り浮かせる想像なんてさせられて中途半端な返事をするのは仕方が無い。」追加




