153悪鬼の3女傑
前話では時間がなく拙い文になって恥ずかしいです。
今日は少し余裕を以て執筆に当たりました。
空には渡り鳥の如く第一騎士団の飛翔板中隊が横切って往く。
地上の警邏も同じく其の騎士団が加わり、巡回は些か増えたと気付くものも居よう。
今朝の大捕り物である。
街の住人は午前中に戒厳令が緩められた関係も在って、口の弛んだ頃合いだろうと顔見知りの騎士を見付けては、興味津々に挙って事のあらましを聴いたものだった。
そんな事情も在ったのだろうか。
縦令、轟音が鳴り響き衝撃波に体を震わせても、終に間諜の潜伏先に騎士隊が押し入ったのだと、勝手に信じて疑わない。
剰え、「昔はマリオン様って云うはっちゃけた騎士様が、しょっちゅう家屋共吹き飛ばしちまったもんだぞ。其れに比べりゃ此れくらいへっちゃらでい!」と言い出す始末。
何たる流言。何たる風評。マリオンは近衛騎士だから一般の捕り物などには参加しない筈であるが、郊外で暴走魔落を止めるのに40m四方を更地にしたとか、訓練で偶に第一騎士団の一個大隊を吹き飛ばして、治療所送りにしたとか云う逸話は存在するらしい。
其の時分は城壁の向こうから爆音が時より鳴り響いたりとかして、噂に拍車を掛けたのだろう。勿論、吹き飛ばされた方々も熱心に噂を吹聴して広めたのだろうけれど。
ハンナ様は皇太后陛下に、どうせ娘は地底湖の物見遊山にでも来たのでしょうと、護衛が足りないのを懸念して送り出されたのである。
城壁を越えると丁度皇帝陛下の飛翔機が着陸した処で、守護の飛翔板を駆る近衛騎士たちに止められるのは当り前である。素通りさせて居ればイザベラ辺りに苦言を呈して居た処だろう。
「ハンナ様、イザベラ様からの伝言です。3女傑が揃いましたので部下の方には前以ての心構えをお勧め致しますとの事で御座います」
「そんな……今や過去に心的障害を抱えるものの多くが、其れなりの地位に上り詰めてるのですよ。其の様な話を聴いただけで腰砕けに為って、使い物に成ら無く為って仕舞い兼ねませんね……。兎も角陛下の許へ向かいましょう。貴女たちは大丈夫ですよ……ね?」
ハンナ様が振り向けば既に青い顔と為って居た。地底湖の小隊として選抜したものたちは、信頼できて武芸も立つ選りすぐりで在るものの、本当に信頼できる熟練のものたちは皇太后陛下の御側に置いて来て居るのだ。
此のものたちが見習い騎士の時分には、丁度悪鬼の3女傑が色々遣らかして、其の惨状後を実際に見たり噂に尾鰭が付いた話を聴いたりで、見掛けようものなら縮み上がってがくがく震えたものである。
そして余りの其の存在に3人揃って、ルトアニアへ向かう事を憚ったと云う噂迄在るくらいなのだ。
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来賓室にはハンナ様の小隊も揃い、普段では中々有り得ない選りすぐりの強者たちが、集い犇めき合う場と為って居る。
まあ、犇めいて居るのは主にタリス皇帝陛下とアリア殿下の周りに、近衛騎士が密集して居るのが原因なのだが。
そんな中にリーシャたちは座らされて居るのだから、緊張も一入である。特にチェロルなどは一杯一杯であろう。
「ラクス、席が開いて居りますのですから、貴女は座っても宜しいのよ」
「――殿下、私にも近衛騎士としての矜持が御座りまする。何卒御理解を頂きたく存じまする――」
そしてハンナ様の後ろでは顔を愈蒼白にした近衛騎士たちと、緊張の面持ちでがちがちに固まったリルミールが立ち尽くして居るのである。
「貴女たちも座っては如何ですか? リルミールはリーファ様からも口添えが在りましたので解りますが、貴女たちは意味など無いでしょう?」
「――ハンナ様、長年鍛えて来た足で地に着いて居りますからこそ、此の場に於て冷静さを保てるので御座いまする。座って仕舞ったら猫の腹見せどころでは居られません。何卒御理解を頂きたく存じまする――」
何故かティロットが猫の腹見せと云う言葉の部分で、ぴくりと動揺したかに見えたが気の所為だろう。
仕方無い、そんな感じで、ハンナ様は息を吐てから口を開く。
「タリス皇帝陛下、此の度は彼の3女傑を揃えて宮殿へも、趣かれるので御座いましょうか?」
「んー、其れでも良いけれど大切なのは、此のリーシャンハイスに3人が揃い居ると云う話しが、十分に噂として広まる事ですよ! 然うすれば騎士らが緊張を以て警邏に努めて居れど、やけに騎士が多くて空や地を駆け回って居れど、誰もが勝手に想像逞しくすらすらと説明してくれるのでは無いかな! 此の3人が何ぞ仕出かしはしないかと、何時でも後始末できるよう駆け回って居るとか、宮殿に居るのが辛くて皆が警邏を理由に逃げ出して、騒動の有った街中に騎士が溢れかえって居るとかね!」
うん、あれはマリオン先生が偶に昔の話とかを語る時に見せる、死んだ魚の様な目だ。隣り合う2人も同じ様な目で在るから、此の3人が3女傑と云われるものたちなのだろうか。
但、1人は二十歳そこそこと若過ぎる容姿で有るのだが。
「相分かりました。して此の度は矢張り地底湖へ趣かれるので御座いましょうか? 皇太后陛下には知るものを軽々しく増やせませぬから、いらせられるのでしたら警護に就くよう仰せ付かって居りまする」
「ええ、勿論、参りますよー。其の為にも皆の恐怖を顧みず、此の3人が集まるように仕組んだのですから」
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修正記録 2017-07-30 10:42
修正日を修正 2017-07-28 → 2017-07-29
幾つかのルビを追加
3人が揃い居る → 3人が揃い居る
句読点を追加
「 但、1人は二十歳そこそこと若過ぎる容姿で有るのだが。」追加
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修正記録 2017-07-29 10:15
省略送り仮名を前述に統一
句読点を変更
知るもの増やせませぬ → 知るものを軽々しく増やせませぬ
仰せつかって → 仰せ付かって