152機会
其処にはアリア殿下の近衛騎士たちと派出所の一同並びにおまけのリルミールが、ずらりと列を為し一様に畏まって礼を執るのである。
リーシャたちは此の長い礼を執る間、何で彼の前衛的な切り口に依る岩芸術を片付けなかったのかとか、何時の間に移動用の簡易階段を立派で頑丈そう階段に替えたのかだとか、色々な思いが駆け巡って居る事だろう。
勿論、皇帝陛下だと宮殿の上を飛び越しても良いんだとか、演習と称して駐留する近衛騎士団の次は何とごまかして来るのだろうかとかは、考えもする筈無いだろう。
西からはアリア殿下が降り立ち、東からは飛翔板を派出所に立て掛けて、タリス皇帝陛下の元近衛騎士たちが駆け足で遣って来る。
「陛下、御越し頂くのは一向に構わないのですが、何故突然に此の機会を選ばれたのですか?」
リーファ様は駆け付けた元近衛騎士たちへ、其の儘護衛に就くよう指揮を執りつつ話し始めるのだ。
其の口振りから何れ来られる事は想定済みだったのかも知れない。
「うん、今朝の話は聴いたよ! おっ、リルミールちゃん面白い所に混じってるねー。ティロットちゃんと一緒に活躍したそうじゃない。色んな意味で! お母様も誉めていらっしゃたわよ!」
「恐悦至極に存じます!」×2
「うん、それでね、今なら此処を中心に騎士が溢れ返って居ても不思議じゃ無いでしょー。騒動の原因も程良く話が行き渡って居るだろうし、此処も宮殿を飛び越して来れば目立た無いしねー。あっ、荷物も届けに来たのよ!」
「イザベラ指示を」
イザベラ様は其の言葉だけで部下に荷物を下ろすよう指示を出す。まあ、受取人の指定はイザベラ様なのだが。
「此方へ」
そして、リーファ様は話を聴き乍ら施設へと向かう為に先導を始めるのである。
勿論、目でリーシャたちに付いて来なさいと指示する事を忘れない。
僅かに顔の引き攣るリーシャたちは、できれば此の場を御暇したいとか、派出所は質素だけど物置小屋じゃ無いんだよとか、考えて居る筈は無かろうて。
そんなリーシャたちはアリア殿下一行の後ろに続いて行けるよう立ち止まり、其方に顔を向けるとハンナ様の小隊が飛んで来るのが見えるのだ。
既にイザベラ様には連絡が入って居る様で、何やら指示を出して……封鎖の解除だろうか。
兎も角、ハンナ様を待とうとするリルミールを逃すまいと引きずって、アリア殿下一行が過ぎ去ると其の後を粛々と続いて歩くのである。
「此れは好機じゃないかと網を張りつつ悩んで居た訳なのよー。そしたらアリアが荷物を大至急に納品させて音を超えるぐらい特急で、此処に届けさせる指示を出した上に、お父様にも話を付けて呉れたみたいで、多少轟音が鳴り響いても良く為ってたのよね!」
リーファ様がちらりと後ろを見遣るとアリア殿下は目を逸らす。どうやら騒動の原因を作った後ろめたさは有る様だ。
「あら! ミリザ、此処を受け持って居るのね?」
「はい、陛下がお気に入りの茶葉を用意して居ります。直ぐに来賓室へ向かいますのでしょうか?」
後半からはリーファ様を見ての質問である。
「ああ、人数は多いが護衛はどうせ立った儘だから、其れで宜しいでしょう」
リーシャたちは嫌な予感を感じ始めたのか、顔色が優れない。リルミールだけ平然として居るのは、事態を能く理解できて無いのだろう。
「うん、それでね、こんな絶好の機会は逃す手は無いでしょ! 他で視察と為れば復何らかの偽装を考える必要が有るし、折角アリアがとちった事態をお母様が上手く修正してごまかせて居る状況なんだから勿体無いよね!」
「陛下、奥の席へ、確かに地底湖への視察と為れば後は、儀式の折に聖堂から下りるぐらいしか当面の手段としては無いでしょう。但、未だ地底湖の調査が殆ど進んで無い状況ですから、正直な処はもう暫く待って頂きたかったので御座います」
「アリアが無茶をして強引に事を進めて居るのですよ! 何か面白そうな事が在るに違いない! 然う思ったら居ても立っても居られないよね!」
「まあ、結局は其処に落ち着くと薄々判って居りました。お前たちも座りなさい」
「い、いえ、皆様が立っていらっしゃるのに滅相も御座いません」
「否、他の騎士はマリオンも含めて護衛だぞ。座ったらいざという時に動けないから立ってるのだ。理由も無いのに立つ意味が無い。リルミール、しれっとして居るがお前もだぞ。雛たちが下手に動かれても困るから座って居た方が増しだ」
「ええっ! わ、私陛下の御前に長時間居りますると、緊張して逆上せ上がって仕舞ます……」
「大丈夫よ! 前は1刻程持ったのだからねー」
「あわわ、そ、其の節はとんだ失態をば……」
「……噫、もうすぐハンナ様が来るから其の後ろにでも隠れときなさい」
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修正記録 2017-07-28 11:51
「此の長い礼を執る間、」追加
「勿論」を文頭に移動
元近衛騎士団たち → 元近衛騎士たち
リーシャたちはできれば外して欲しいとか、
↓
僅かに顔の引き攣るリーシャたちはできれば此の場を御暇したいとか、
筈は無いだろう。 → 筈は無かろうて。
「 兎も角、ハンナ様を待とうとするリルミールを逃すまいと引きずって、アリア殿下一行が過ぎ去ると其の後を粛々と続いて歩くのである。」追加
語尾を変更
平仮名を漢字に変更
句読点を追加変更
とちった状況をお母様が → とちった事態をお母様が
確かに視察と → 確かに地底湖への視察と
下りるしか無い → 下りるぐらいしか当面の手段としては無い
正直な処は暫く → 正直な処はもう暫く
着くとは判って → 着くと薄々判って
「ええっ! 私緊張して鼻からお茶を出して仕舞ったらと思うと……」
↓
「ええっ! わ、私陛下の御前に長時間居りますると、緊張して逆上せ上がって仕舞ます……」
「大丈夫よ! 前は1刻程持ったのだからねー」追加
「あわわ、そ、其の節はとんだ失態をば……」追加