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アリアは知らない  作者: taru
四章 リーシャ編
170/345

151届けもの

 澄み渡る(はる)(はる)か上空に、一筋の白い線が現れて瞬く間に消えて()く。

 昼餉(ひるげ)も終わった昼下がり大人たちは休憩を挟んで、畑仕事や大工に左官に屋根仕事、放牧した動物たちの世話といった外仕事に()いて間も無い頃。

 子供たちは休憩も挟まず飛び出して、遊び駆け回り興に乗って()た時分である。

 誰が言っただろう。誰が指し示しただろう。

 ()れは亭亭たる木々や()(はる)か上を飛び交う鳥たちが、(なん)と近くに見ゆる事であろうと(おのの)く程に高く高く()りにけり。


 ()れは空に見ゆる小さな小さな点が頭上を過ぎ()きて、皆が背を(そら)しぐぐぐと(しな)らせ、もう(わず)かで重心が崩れ足を後ろに蹈鞴(たたら)を踏む手前の事である。


「ドッゴッオォォォォォォォォォ……」


 爆音と()(のち)に伝わり来る衝撃波、(いわ)んや(おのの)き転がりて尻餅着きたるをや。

 子供たちは余りの驚きに泣くことも忘れ、大人たちは(なに)かを察したのか黙して立ち上がると、泣き(わめ)く動物たちの背をぺたぺた叩いて(なだ)めたり、(たわ)んだ塗り立ての壁を(こて)でぺたぺたと()で戻したりと、(なん)たる()く訓練された民たちであろう。

 皆口々に「どうせ()のタリス殿下様やわ」「否否(いやいや)、今は陛下様やん」「せやせや」と(つぶや)くのである。

 (なん)たる流言、当たらずと(いえど)も遠からずだが娘の方だと()うのに。


--


 広い区画を隅々(まで)巡回するのには、2800m程を歩き回らねば()らない。

 そして今日は今朝の騒ぎと(いま)だに続く戒厳態勢である。顔馴染みの貴婦人や侍女さんたちが、挨拶がてらに何事かを()いて()るのだから大変だ。

 少し(ばか)り時間は掛かったものの(なん)とか全てを回り切り、派出所前の威武を必死に擦り抜けて、ほっこりし(なが)ら施設に入ろうと足を向けた()の折りである。


「ドッゴッオォォォォォォォォォ……」

「ヒッ!」×6


 びりびりと遅れて伝わる衝撃波の中、マリオン先生とマギーは臨戦態勢を整えつつ、落ち着いて周囲を確認するのは流石と()うべきか。

 すると西門の(はる)か上空から、此方(こちら)に向かって降りて()飛翔(ひしょう)機の姿が目に映るのだ。


()しかしたら()飛翔(ひしょう)機が、音を追い越した際に発すると聞き及ぶ爆音を出して()たのかも知れませんわ。()だ実験でしか試されて()いと聞き及んで()りましたが、何時(いつ)の間にか解禁と()ったのでしょうか」


 ラクス様の(げん)にベイミィが反応する。


「えっ、私たちも何度か実験に立ち会いましたけれど爆音と衝撃波の発生で、おいそれと使うものでは無いと()う結論に至って()りました(はず)ですわよ」


「……リーシャ、()の様なものに(まで)関わって()たのですか?」


(いや)、マリオン先生、仕方が無いのですよ。()の音を超える現象を発見した当時は、飛翔(ひしょう)機の数も少なくて……と()うかチェロルの飛翔(ひしょう)機以外は皇族専用機で、(しか)()の機体には遠隔気力通話器(まで)積んで()って、(なに)かと試験飛翔(ひしょう)に都合が(よろ)しかった様なのです……って、ええ!」


 驚く(ばか)りのリーシャに代わって、マギーが【遠見】で確認した事を伝えて()れる。


「タリス皇帝陛下の専用機にのみ(しる)される御璽(みしるし)が確認できました」


 うん、民たちは全然間違って()かった。

 周りの近衛(このえ)騎士たちにも【念話】が飛び交って()るのか、慌ただしく動き始めるが皆一様に若干の余裕を見て取れる。

 (なに)しろ飛翔(ひしょう)機が此処(ここ)へ来る(はず)がない。場所も警備も皇帝陛下を迎えられる程では無いのだから。


 そんな時である。イザベラ様が慌てて施設から飛び出て()るのだ。


「『誘導飛翔(ひしょう)板隊は離陸せよ! タリス皇帝陛下の専用機は此処(ここ)へ着陸()される。()れよりリーファ様の部下以外は一切此処(ここ)への立ち入りを禁じる!』」


 肉声と【念話】の同時発声を(もっ)ての伝達である。皆が走り慌てて配置に着き誘導以外にも次々と飛翔(ひしょう)機やら飛翔(ひしょう)板が飛び立って()く。

 リーシャたちが唯唯(ただただ)()れを眺めて()ると、何時(いつ)の間にかリーファ様が後ろに立って()た。


「ヒッ!」

「リーファ様、皆に連絡を?」


「ああ、運良く(ほとん)どのものが()(とど)まって()()れて、残りも数名が少し(ばか)り遅れるだけで此方(こちら)に向かって()れて()る。どうやら、余り近衛(このえ)を連れて()()ない様だから、マリオンも警護に付いて()れ」


「心得ました」


「ああ、お前さんたちも此処(ここ)の代表だから迎えに並びなさい。姿を(くら)まさないように」


 最近チェロルを真似て【気隠】の片鱗を見せつつある3人だが、ラクス様もリルミールも()の気が無い(ため)ばればれである。

 仕方無しにリーファ様に(したが)ってイザベラ様が立つ広場へと歩み寄る。そして支持された位置に並び始めた(ところ)で、視界の端に複数の飛翔(ひしょう)板が向かって()るのが目に留まる。

 アリア殿下がいらせられたのである。確かに()の距離では、飛翔(ひしょう)板で飛ぶのが手っ取り早い。

 態態(わざわざ)、離宮に()飛翔(ひしょう)機に向かうよりは、色々な手順を短縮できると()うものなのだろう。


 そしてタリス皇帝陛下が御機乗(ごきじょう)()される飛翔(ひしょう)機が、ゆっくりと地上に降り立つのである。()れも(また)(ほま)れを(いただ)くに値する、素晴らしい操舵(そうだ)の技術である。

 簡易ではなく(しっか)りとした階段が素早く設置されると同時に扉が開き、近衛(このえ)騎士たちが安全を確認しつつ出て()てから、(うなず)き合って声を掛けると(いよいよ)タリス皇帝陛下の登場である。


「皆さん! 我慢できずに来ちゃったよ!」



---

修正記録 2017-07-27 18:35


見受けられるのだ。 → 目に映るのだ。


音の速度を越えた際に発すると()われる爆音かも知れませんわ。

音を追い越した際に発すると聞き及ぶ爆音を出して()たのかも知れませんわ。


見える。 → 目に留まる。


飛翔(ひしょう)板が手っ取り早い。 → 飛翔(ひしょう)板で飛ぶのが手っ取り早い。


操縦 → 操舵(そうだ)


---

修正記録 2017-07-27 10:11


ルビを追加


此方(こちら)に向かって、飛翔(ひしょう)機が降りて()るのが見受けられる。

此方(こちら)に向かって降りて()飛翔(ひしょう)機の姿が見受けられるのだ。


句読点を追加


()しかしたら → ()しかしたら()


余裕がある様だ。 → 余裕を見て取れる。


見ゆ。 → 見える。

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