149平然と
平常通りと云わずとも若干落ち着きを取り戻した昼下がり、派出所だけは変わらず近衛騎士が其処彼処に厳重過ぎな警備を誇ってる。
其の派出所前の通りに時折第二騎士団と見える小隊が巡回に来るのだが、近衛騎士たちとは目を合わそうと一切せず足早に通り過ぎるのだ。
アリア殿下の近衛騎士たちは最初から演習の態を装い、任務に当たって呉れと云われて居た訳で、不審者が発見され捕らえられた上に大規模な底引き網の如き包囲展開索敵陣を行った今と為れば、アリア殿下が立ち寄られる此の派出所一帯を守るのに遠慮も糸瓜も無いのである。
勿論、通り沿いを守る騎士たちは人が通る度に睨み付けてる訳では無いが、周囲に警戒を促して【気隠】などで隠れ潜む輩を炙り出せるよう、態と威武を放って犇犇と威圧を感じさせる状態にして居るのだ。
巡回に当てられた第二騎士団とて皆一流の熟練した武人であるのだが、近衛騎士団は更に其の上を行くものたちを集めたと云っても過言では無いだろう。
同程度の力量であれば威武を向けられても些かも平気であろう。
だが実力差が歴然としたものから放たれる威武を受けては、萎縮して居心地悪いこと此の上ないものだ。
唯、それでも平然とし晴れやかな微笑みを絶やさぬものが居た。
「んーお腹いっぱいだよ。定刻の昼餉は幸せを犇犇と感じるわ」
「犇犇……此の威圧を幸せに? 何故リルミール様は平然として居られるのでしょう。ところでラクス様、今朝より威圧がきつく為って居りませんかしら?」
「ええ、ベイミィさん、其れは、今朝迄は訓練中の振りをして居ましたからね。今は確りと此処が近付いては為らぬ場所だと、威武を以て示す必要が有りますのよ」
「チェロル! 其の様にくっ付かれては咄嗟の時に動けませぬ!」
「嫌っ! リーシャ小隊長、何だかぴりぴりしてるし中堅処の隊が巡回して呉れて居るんだからもう帰ろ!」
「……此の区画を正式に任されて居るのは私たちなのですよ。命令が在ったのなら未だしも此方の都合で良いように解釈してお役目を放棄するなんて、有っては為らない事なのですよ。其れにラクス様とリルミール様の2人が折角参加されて居るのに失礼ですよ」
今朝巡回した時の顔触れに加えてマリオン先生とラクス様の8名が、此の巡回に参加して居るのだ。
「然う言えば、リルミール様はお友達を煽……もとい、お友達を探してお喋りに興じる一時ではありませんでしたか?」
「ええ、ベイミィ様、確かに今回の不審者を捕らえた時の私が為した活躍や、ハンナ様に信頼を以て此方に来させて貰って居る事、更にはイザベラ様に褒められる着想を提案した事なんかも語りたい処でした。ですが、其のイザベラ様が曰く威武を最も強く高めて居る警備強化地域を、平然と歩かれると自信を無くすものが続出するから控えて下さい、だそうだよ。まあ、今朝の巡回も中途半端に終わって仕舞って居るので、ちゃんと完遂したいってのも有るのですけどね」
「――……今朝の活躍? リルミール様は【強精神】を……持って無さそうですね。――まあ、お昼からの仕事が無くなったのですし、巡回以外は待機して居るしか無いのですよね。然う考えると此れは今日できる数少ない仕事なのですから、確りと遣りたいですね」
リーシャは道端で話せる内容でも無い為簡潔に話して居るが、結局の処アリア殿下へ各種部品の入手をお願いする件はイザベラ様が引き受けて呉れたので、後は其れら部品が届くの待たないと作業に掛かれない訳だ。
普通に考えると一部だけ早めに届いたとしても夕方頃に為るだろうから、今日はもう地底湖に降りないと高を括って居るのだろう。
「リーシャさん、多分急いで用事を済まされて戻って来られると思いますので、昼からも其れなりに忙しいと思いますよ。後、私が此の巡回に付いて来たのは服の中に潜ませて居る適性物質の素材通して実験する為ですわよ。派出所の敷地内で使うと大概は同僚に向けて仕舞いますので、流石に憚って此方に来た訳ですの」
「あ、はい」
「ええ!」
「否否、ベイミィさん、こんな間近の人を対象にしても意味が無いですから。そうですね……。今、私たちは第一騎士団所属の騎士たちとハンナ様の命を受けた近衛騎士に監視されて居る様ですわよ」
「ヒッ!」
「むむ!」
「ティロットさん、チェロルさん慌てないでも此の近くでは無いのですから。第一騎士団が民間街側の壁上からでハンナ様の部下の方が城壁ですわね」
「おお、其の下に何時も私たちが訓練して居る場所が在るのですよ!」
「否、リルミールさん、手を振らないで下さいませ……」
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修正記録 2017-07-25 11:26
炙り出せるるよう → 炙り出せるよう