148音を鳴らす
扨、水中音声蒐集機の改良案が大凡纏まれば、お次は機材の入手をアリア殿下にお願いするにしても、仕様を固めて必要な部品は何が在るかと決めて行かねば為らない。
一応は、ベイミィの進行に依って話は進められて居るのだが、リーシャはやけに積極的な意見の繰り出して潜泳機の構造を踏まえつつも、チェロルと高度で専門的な話し合いを展開するのである。
其の為に他を寄せ付けぬ嫌いは有るが、次々と設置場所や其れに伴う部品を定めて行く。そしてリルミールは寂しそうな顔をして其れを眺めて居た。
「そうですわね。今此処で判断して決められる内容は此れくらいでしょうか。ところでリーシャ様、潜泳機の構造を熟知されて居るのは解りますが、其の様に張り切られても周りが付いて行けませんわよ。主に記録頂いてる方たちが……」
ラクス様とティロットは未だ必死に筆記を続けて居る。今遣って居るのは依頼する部品と其の必要数を定める作業であるのだから、譜を記載して呉れて居る方々に配慮を払うべきだった。
復、遣って仕舞った。そんな感じのする覚束無い顔で、ちらりとリルミールを見遣ると優しく見守る親鳥の様な顔をして居るではないか。
「次は潜泳機自体から音を発生させる機構を作れないか、と云う話でしたよね」
「ええ、取り敢えず落ち着いてお茶でも飲んで居て下さいませ」
そんな勢いだけで空回りし始めたリーシャを、ベイミィが強制的に宥める最中、漸くと許りにラクス様が口を開く。
「お待たせ致しました。ティロットさんも書き終わった様ですわね。次の議題である音の発生方法に就いて情報が有りますの。発言して宜しいかしら」
「ええ、是非ともお願い致しますわ」
「はい、昨日、偶、アリア殿下が御所有為されて居ります蓄音魔器を、解析する機会が在りまして、と言っても殆どアリア殿下に解説して頂いたのでありますが……」
「……ええ、彼の時、黒い板を携えて、アリア殿下と何やら為されて居られた事は存じ上げて居りますわ」
ベイミィは少々遮る形で、尚且つ何をして居たか全て理解して居ると、言わん許りの言い種である。
「……まあ、詰まり御教示して頂いた話に拠りますと、蓄音魔器には音を蓄える性質を持つ魔石と音を増幅する性質を持つ魔石が在りまして、其れを小型の蓄魔器と魔気道管で繋げ魔気を流します事で音楽演奏を齎すそうですのよ」
「其れは魔気を魔気道管に流す事で音も運ぶ作用が有ると謂う意味ですか?」
「はい、今迄も適性物質で構成された板に集めた音を聴く為、まあ、集音板? と仮称しますが其れを気力の線で以て自分の耳へ繋ぎ音を届けて居たのです。そして昨日は色々と試して居たのですが、此の集音板から耳へと繋ぐ気力の線を、耳では無く音を増幅する魔石に流してみた処、彼の鉄の花みたいな所から音が聴こえて来たのですわ」
リーシャは内容よりも話しに加われた事が何より嬉しそうである。そして然も解りましたといった面持ちで、言葉に花を咲かすのである。
「成る程、詰まり蓄音魔器の仕組みと同じく蓄魔器に魔気道管で2つの魔石を繋ぐだけで音を鳴らす機構を作れる為、此れを潜泳気にも拵えれば良いと謂う事ですね」
「違いますわ。確かにそれでも目的は達成できますが、音を蓄える魔石は珍しいものなので矢張り其れなりの値段がしますのですわ。ですから魔石も小さいものが使われ此の為に音の増幅も必要なのですよ。此れもアリア殿下に拝聴した御話ですが、魔石には魔気を流すと徒、ピーとかビーとか音を出すだけのものが在るそうですわ。ものに依って鳴る音は変わりますが、何れも屑魔石として無価値扱いされて居るそうですのよ。それで、此の音の鳴るだけの安価な魔石と音を蓄える高価な魔石とを取り替えて使えば、宜しいのではと考えました次第ですわ」
「まあ! ラクス様、大変良いお話を聴かせて頂きましたわ。昨日の集音板を此方に向けて居たお話の件も、吹き飛ぶぐらいに良いお話でしたわ。此の案を採用とする方向で皆様も宜しいですわね?」
言わずもがな皆、異論は無い。只、リーシャは再びしゅんとして肩を落として居り、其処へ優しく肩へ手を添えるものが居る。勿論、リルミールが全てを包み込む暖かな笑顔で迎えて呉れるのである。
「ところでリーシャ様、ラクス様がおっしゃられて居ました屑魔石、此れを使って楽器を作ったら面白いと思いませんか?」
「え、うん面白いと思うよ。蓄魔器が簡単に買えないけれどね」
何時の間にか奥で座して見守って居た筈のイザベラ様が後ろに来て居り、大変喜ばしい面持ちで言葉に花を咲かすのである。
「リルミール様、先程の提案は中々素晴らしいものですよ。若しかしたら朝の功績も含めてアリア殿下もお喜びに為るかと存じます」
「ええっ、本当ですか! 此れでハンナ様の信頼に応えられたかも知れません! ――……ん? 朝の功績ってなんだろう――」
花が咲いた様な笑顔を見せるリルミールとは対照的に、リーシャが若干涙目なのは気の所為だろう。
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修正記録 2017-07-24 10:06
幾つかのルビを追加
そうですわよ。それで、 → そうですのよ。それで、
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「ん? 朝の功績ってなんだろう?」 → ――……ん? 朝の功績ってなんだろう――