147和やか
今回も前話の続きからです。
否否、ベイミィさん、今確かに一度チェロルを流し目で見てから、早々に見切りを付けて指名制へ変更しましたよね。
勿論、昨日アリア殿下の御言葉を頂いてからも、十分時間が有り考える余裕も有ったのだ。
況して潜泳機に機材を取付けてるのは殆どチェロルとリーシャなのだから其れなりの提案くらいは用意して居るだろう。否、然る可き事だろう。
そんなベイミィの然も『当然リーシャ様は何か提案を用意して来ていらっしゃるのですよね』と言わん許りにも押し付けがましい和やかな笑みに、若干引き気味であるものの、何とか気を取り直して語りだすのである。
「……はい、では、水中音声蒐集機の音を拾う役割を持つ器具の部分、此れを一定の速度を以てくるくると回転させて遣れば、聴こえ方の違い強弱で方向が導き出せるのでは無いかと考案しました」
きらりとベイミィ目が光った気がする。そしてすうっと顔付きに真剣味を帯びてくるのだ。
「徒、其れだと其の……音感器具と云いますか蒐集器具が、常に何処を向いて居るのか判らないと意味が無いのではありませんか?」
実際に使って居たのも此れから専任担当として使って行くのもベイミィである。現場を知り想定も経験則を交えて現実味を帯びて居るし、若し不都合が有って困るのはベイミィなのだから真剣味も増すと云うものだ。
ラクス様とティロットは議事録の様なものを、せっせと付け始めた。
そして、リルミールは若干居た堪れない面持ちで、そわそわして居るのである。
気にするな。少し騎士仕事で遣らかして、お酒で遣らかして、此の場で遣れる事が無いだけだから。
「其の点に就いては……感知器具ですか? 此れを動かす一定の速度と調子を合わせて回転する指針を拵えれば、何とか為ると考えて居ます」
「成る程、徒、それでも矢張り問題が想定されますわ。特定の箇所から聴音したい場合は、如何するのですか。音感器具が逆方向に向いて居れば、蒐集効率が下がると謂う事ですよね」
「はい、其の場合は回転を任意の場所で停止させる事で、対応できるかと思います」
「まあ、回転に伴う雑音の発生と矢張り特定方向のみを対象とする為に、常に死角と云わない迄も弱い部分ができる問題を抱えて居りますが、目的を達成するに値する案だと感じました。取り敢えず及第として保留して置きますわ」
リーシャは何気にがっくりと肩を落として居る。多分、ベイミィの厳しい指摘の中、提案を論ずるのに少し疲れたのだろう。
「うん、漸くうずうずして来た様ですわね。チェロルの遣りたい事を教えて貰えますか?」
「うん、分った! あのね、ベイミィの云う処の音感器具をね、潜泳機の機体に四方八方上下に付けるんだよ! そして其の取付け位置に合わせるように、音声伝達器具を配置して耳当てを作れば、擬似的に立体的な音声空間を構築できるんじゃないかな! 之に【器用繊細】の御業を使えば十分判別できると思うんだよ!」
おや、奥では先程迄イザベラ様が他のものと同じ様に、議事録らしきものをせっせと拵えて居たのだけれど、今度は【念話】でもして居るのかも知れない。唯、黙り込み一点を見詰めるだけなのである。
そして、パチパチと拍手が聴こえて来る。正に我が意を得たりという顔付きで、実に和やかだ。
「流石は潜泳機総合技術責任者の貫禄でしょうか? 実に素晴らしいですわ。値段とか製作所が悲鳴を上げるとか関係ありませんわ。死角がありませんわ。私の能力が十分生かされますわ。何より苛苛しい待ちも、絞り込む推測も、無駄な作業も有りませんわ。此の大変素晴らしい案を採用に致しましょう。皆様も特に意見とかは無いですわね?」
「えへへ」
おや、リーシャが更に首を垂らして仕舞い。此れ復、居た堪れない面持ちと為って居る。
其処へ肩に手を置き和やかに励まして来る人物が居たのである。
「リーシャ様、御安心下さいませ。私は貴女を共通の思いを抱く同志と認定致しましたのです」
うん、リルミールにしては素晴らしい察しの良さを見せたのか、暇を飽かして仲間を見付けれて実に嬉しそうだ。心暖まる友情って奴だろうか。
だが何故だろう、リーシャが更に落ち込んだ表情をして居るし、若干涙目なのは気の所為だろうか。
「ぶはっ」
奥でリーファ様が吹き出した。隣ではマリオン先生の苦言を呈する姿が見受けられる。
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修正記録 2017-07-23 07:44
句読点を変更
気味であるが何とか → 気味であるものの、何とか
顔付きが真剣味を → 顔付きに真剣味を
「流石は潜泳機総合技術責任者の貫禄でしょうか? 実に」追加
リルミールは
↓
リルミールにしては素晴らしい察しの良さを見せたのか、
何故だろうか、 → 何故だろう、
所為だろう。 → 所為だろうか。
マリオン先生が苦言を呈する → マリオン先生の苦言を呈する