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アリアは知らない  作者: taru
四章 リーシャ編
160/345

141酔剣

 僅か、(ほん)の僅か(ばか)りの揺れである。

 ()れは剣先からの揺れなのか体の芯から来るものか。

 とかく定まらぬ剣先にとんと間合いを詰め兼ねて、ティロットの動きを鈍らせるのだ。


「やあ!」


 (しび)れを切らせて無理に飛び出したものの、調子のずれた(まま)で剣を振るっても何時(いつ)もの力量以下である。

 ()して相手は謎の揺らぎを(もっ)てすいと身を(かわ)すのだがら、空振った挙げ句盛大に体制を崩して仕舞(しま)うのだ。

 勿論(もちろん)、そんな猫の腹を見せられては追撃せずに居られない。


「えい!」

「うわっ!」


 不思議な事に()()りでは()るものの、(なん)とか()けきったティロットを褒めるべきだろうか。(いや)、本人も状況を理解できて(ない様子だ。きょとんとしてる。

 (また)しても()の様な隙を見せれば攻められるのは至極当然である。(しか)も極めて滑稽(こっけい)で意表を()き、()の動きを例えるなら白千鳥(しろちどり)だろうか。

 足を左右に踏み変える陽動めいた足運びを織り交ぜて、細かくばたつかせ(なが)ら迫り来る。()の完成度は見事なものでリーシャたちくらいの力量だと、牽制であれ陽動であれ僅か(なが)らで()っても読める(はず)が、()の千鳥足さんはとんと動きに予想が付か無いのである。

 (いよいよ)(もっ)て苦境に立たされたティロットではあるが、()れを救ったのは不本意極まり無い事に終了を告げる言葉だった。


「止め!」


 唐突と出されたリーファ様の掛け声に()って試合は中止と()ったのである。


「ええっ!」×2


 ティロットもリルミールも不満顔である。(いや)、リルミールに至っては、赤ら顔でふにゃりとした表情の(ため)に判別付け(がた)いのだが。


(いや)、流石に此方(こっち)がはらはらして見て()られないし、指導者としても()れ以上は(わざ)もへったくれも無い泥仕合が予想できるだけに、続けさせる訳にも行かないのだよ」


(はた)から見る限りでは互いに陽動や牽制を織り交ぜて、()く戦えて()たと感じ入りましたのですが、特にティロットさんの猫の腹見せと(まご)(ごと)き技は、(わたしく)でも手を出し兼ねませんわ」


「うっ!」


 楽しく観戦して()たラクス様は残念な結果に物申すのである。

 ティロットは褒められて思わず声が出たのだろう。


「だから()れが既に泥仕合の(てい)を醸し出しつつ()ると言うのだよ。初めに断って()くが、二人共に()()れの行動は意識したものでは無いぞ。リルミールが動き(まわ)るに連れて酩酊(めいてい)して仕舞(しま)いふらふらの状態で()るのに対し、ティロットは見慣れないふらふらした動きで惑わされて困惑した(ため)に動きが鈍った挙句、リルミールが偶然ふらついた方向が回避に繋がり、ティロットの鈍った剣速も合わさって盛大に空振り体制を崩したのが、ラクスの言う(ところ)の猫の腹見せだぞ。(しか)もリルミールの方は、攻撃を真面(まとも)に繰り出せない程の酩酊(めいてい)状態だった様だからな」


 ティロットは(とど)めを刺されたかの様に、しゅんと()って()る。

 そんな彼女を励まそうと誰ぞ肩に手を置いたのかと思えば、赤ら顔のリルミールが()(まま)くたりと体を預けて(もた)れ掛かり、(つい)にはすうすうと寝息を立て始めたのである。


「ほら、もう限界だったのだから、()の足だってしどろもどろで危なっかしく自分で何時(いつ)転んでもおかしくない状態だったのだぞ。マギーさん、リーシャ、訓練中に悪いがリルミールを上で休ませて()()れないか?」


「はい、勿論(もちろん)構いません」

(うけたまわ)りました」

「私も手伝うよ!」

「――ティロット、貴女(あなた)は静かに()されないと、リルミール様が起きて仕舞(しま)いますわよ――」

「――だよ!――」


「……それでも、リルミールさんは強く見えましたわ。私でも簡単には勝負が()かないぐらいに」


「うーん、伝え聞く限りの話だが酩酊状態を利用した酔剣という、先程の予想できない動きを体系化した業が()るには()る。だが、近衛(このえ)騎士としては流石に(はばか)られるからなあ。まあ、リルミールには素質が()るみたいだから、いざという時の(ため)に学んで()いても良いが、ハンナ様には断固として止められるだろう事は予想できるな」


「あら、皆様は此方(こちら)に揃っていらっしゃらないのですね。一応自供が取れたと情報が入りましたので、報告に参りました」


「ああ、イザベラ、有難(ありがと)う。(ようや)くリルミールが寝て()れたので、先程上に連れて()って(もら)った(ところ)だよ。我々も上に行って皆で話を()くことにしよう」


(かしこ)まりました」



---

修正記録 2017-07-17 09:24


(はばか)れる → (はばか)られる


---

修正記録 2017-07-17 08:58


句点を追加


「うーん、」追加


(もたら)った → (もら)った

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