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アリアは知らない  作者: taru
四章 リーシャ編
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140日課

「ティロット、浮かない顔だがリルミールの事なら気にするな。判断としては間違って()いし、(そもそも)リーシャが小隊長として責任を(もっ)て指示したものだ。お前が気に病むのは御門違(おかどちが)いってものだぞ」


 先程からリルミールの髪をくしゃくしゃと(いら)(もっ)て支えるリーファ様の方を、ちらりちらりと落ち着かない様子でティロットは確認してるのだから、(また)(なん)ぞ溜め込まれても(かな)わないと()うものだ。

 若干逡巡(しゅんじゅん)して見せて()たティロットだが、(ようや)く意を決して口を開く気に()って()れた様である。


「あ、()の! 日課の朝稽古を()だして()なくて、居ても立っても居られないのです!」


 皆、腑に落ちると言うものだ。ティロットは(なに)より稽古をしたいのだが、リルミールが()の状態である(ため)に、(なに)かしでかさないよう室内に閉じ籠もって()るのだし、外は()だ今朝からの騒動で落ち着かない(まま)である。

 ()の状況ではリーファ様に願い出るのを(はばか)るのも致し方無い。そして()の言葉に反応するのがリルミールたるものだ。


()()う、私、ハンナ様に()われたのです。本来であれば今日は近頃とんと(おろそ)かであった近衛(このえ)騎士たる訓練を、一日中して(もら)う積もりでしたと、そんな感じで。はい、それで、リーシャ様の小隊とも連携不足との事ですので、()の機会に御座(おざ)なりたい所存で御座(ござ)います」


 お酒で意識が混濁して()る様に見えるリルミールであるが、リーファ様の連携不足と()う言葉は(しっか)()き取り手痛い(ところ)だったらしい。


「――くっ、難しいお題が来ましたわ! 御座(おざ)なりは()い加減、適当に済ますですか?――」

「――前後から考えたら”補いたい”では無いかな?――」

「――もう()れは頓智(とんち)(たぐ)いですわね。()れでしたら私も発言させて(いただ)きますわ。”御座(おざ)なり”と見せかけて”御座(おわ)す”、()まりは”居ます”から”(いまし)めたい”で如何(いかが)かしら? ()れ共、単純に”おざる”で”行きたい”になるのかしら……――」


「まあ、お前たちを此処(ここ)(とど)めても無駄なのは確かだが、()ぐに連絡が取れそうで()れなり広い場所が正直思い当たらん。ああ、何方(どちら)にせよ外は飛翔(ひしょう)機が降りる場所に()って()るから使用禁止だぞ」


「リーファ様、石祠(せきし)の入口周りはどうでしょうか? 荷物を置けるぐらいには広めに造って()るみたいですし壁や天井も頑丈そうですから、(なに)()れば直接、()しくは【念話】で連絡(いた)しますよ」


()れは有難(ありがた)い。済まないが()うして()れると助かるよ」


(かしこ)まりました」


 矢張(やは)りイザベラ様である。準備や手筈(てはず)を木目細かく気配りを(もっ)て仕切り通すのである。


--


 矢張(やは)りリーシャは岩を(つく)るのである。

 だが、()の数は何時(いつ)もより多めである様だ。

 そして、造形も人形や魚形といった(ただ)の岩では無い、実感が(ともな)える趣向を()らしたものと()って()た。

 勿論(もちろん)、ティロットはご機嫌さんである。

 今日は中々斬り甲斐(がい)()りそうな獲物と言った(ところ)だろうか。


「ティロット、全部を斬っちゃ駄目だよ。今日は私も鍛錬するのだから」


 (にこ)やかだったティロットの表情が一瞬でぴたりと固まった。というか自分の事が絡むと手が込む辺りは(いささ)か……(いや)屹度(きっと)今日思い付いた(ばか)りの新案なのだろう。

 そして、リーシャは3m程の大きさである岩魚を前に、(わず)(ばか)り自分の間合いの外へと位置して対峙(たいじ)するのである。


「はっ!」


 心象を整え長刀(なぎなた)を勢い良く振るものの、岩魚は傷一つ付く気配が無い。

 3度目を振り終わると1つ息を吐き、ティロットの方を見遣(みや)るのである。

 心の中では戦闘中なのだろうか。

 動かない巨大蜘蛛を(かたど)った岩の前で、陽動を織り交ぜ(なが)ら近付き斬り付けて()く。

 以前より若干斬撃が伸びたらしく、25cm程間合いより深く斬り付けた様に見受けられるのだ。


「ティロット、()れ以外全部斬っても良いよ!」


 リーシャが目の前に()る岩魚を指差し(なが)ら叫ぶと、再び笑顔を取り戻し(にこ)やかに【剣技】を(ふる)うのである。

 ()しかしたらリーシャは、先程ティロットが見せた表情の変化を気にして()たのかも知れない。

 僅か(ばか)りの自分への(わだかま)りが、()れで解消したのだろうか。

 4度目の剣閃は岩魚を5cm程斬り付けたのである。

 リーシャは喜びで今迄(いままで)狭まって()た視界が急に開け、見えて()かった周りが見え始める。

 遠くにはラクス様が此方(こちら)を真似たのか水晶の造形物を其処彼処(そこかしこ)(つく)って()最中(さなか)である。

 そして、()の一つをリーファ様監視の(もと)リルミールが対峙(たいじ)するのだ。


「はっ!」


 ふらりと揺れるように流れるように波を思わせる斬撃を放つのだから驚きである。


「わっ! 私初めて間合いより遠くに剣戟(けんげき)を振るえました」


 見れば10cm以上は間合いより深く斬撃が入った事を(うかが)える。若干リーシャが涙目なのは気の所為(せい)だろう。



---

修正記録 2017-07-16 09:32


ルビを追加


幾つかの句読点を追加


事が(うかが)える。 → 事を(うかが)える。

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