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アリアは知らない  作者: taru
四章 リーシャ編
154/345

135警邏2

 ()れは(ただ)、朝昼晩に(おこな)う街の警邏(けいら)であって、(なに)かが起こる事は(ほとん)ど無いだろう。

 壁の中の街であり通りで会うのは(もっぱ)ら同じ派閥の貴族か()の従者であるし、商人や荷物運びのものたちも(たま)には見掛けるが、(みな)()()れの目的地乃至(ないし)関係先から許可証を発行された身分の確かなものたちなのだ。

 ()れは日課として定められた巡回という仕事だが、リーシャたちには騎士として騎士らしく騎士たらん姿を誇れる今の(ところ)唯一の任されたお役目である。

 縦令(たとえ)安全と言われて()ても、リーシャたちが見廻(みまわ)る事で更に安心感が増すだろう。

 颯爽(さっそう)と背筋を(ただ)長刀(なぎなた)や剣を携えて、()だ新品に近い騎士服に身を包み小隊と1羽と1人を率いて練り歩く。


 ティロットがちらりとリルミールの方を見遣(みや)ると、其処(そこ)には縦令(たとえ)見習いと(いえど)近衛(このえ)たる騎士服に身を包んだ選ばれし騎士、皇族を守る精鋭として()るのだのだから、中身は(あれ)でも凛凛(りり)しく見える。

 早朝と(いえど)も子供は居る様でリーシャたち一団からリルミールを見付け出すと「あっ! 近衛(このえ)騎士様!」と(はしゃ)ぎ出し憧憬(しょうけい)の眼差しを向けて()る。

 勿論(もちろん)、リルミールは目尻を下げだらしなく顔を(ゆる)めて仕舞(しま)うのだが、()れを見て()たティロットは珍しく悔しげな様子である。

 ()れも()(はず)、リルミールの子供たちに憧れとして見られる()の姿は、(まさ)しくティロットが(いだ)く自分の理想の姿なのだから。()(ゆる)んだ顔、少し前のティロットそっくりであるから多分間違いない。


「ティロット様、どうか(いた)しましたか?」


 口を真っ()ぐ一文字に結び顔を(しか)める様子に気付いたマギーは率直に()くのである。

 ベイミィなどは額に手を当て「()れは()かないで上げて」と(つぶや)いて()る。


「ん、ん! 何か違和感と言うか其処(そこ)だけ何かが存在しない様な所が()る気がするのだけれど、以前に()の感覚に似たものが()った様な……。あっ! タリス皇帝陛下が飛翔(ひしょう)機で居りて()られた時に感じた喪失感かな! ()れが付かず離れずで()る気がして……」


「ヒッ!」

『リーシャ小隊長、警報笛を吹く事の許可を求めます』

「許可します!」

「ピーイィィ!」


 ティロットが話し終わる前にマギーはリーシャに許可を取り笛を吹く。気の所為(せい)だったら不味いから確認しようとか、不審者なら自分たちで捕らえようとか、相手に気付かれないよう慎重に自然に振る舞うとかは正に愚の骨頂なのである。

 実力がものを言う世なのだから()の差は激しく、相性や地の利も大きく影響する。何より派出所では不思議なことに最新鋭の飛翔(ひしょう)機がずらりと並んだ末に、近衛騎士団が陣取り過剰に睨みを効かせて()るのだから、()れに釣られて実力を持つ不審者が偵察に来て()ても不思議ではない。

 そして此処(ここ)は警報を鳴らせば()(さま)応援が駆け付ける場所、東門から300m程の所なのだから。


「全員警戒体制を()れ。ティロット、()の異質域は……見付けた! 南東に向かって移動中、所属不明、小型の飛翔(ひしょう)(もど)きを両足に(はめ)めてる! えっ!」


「チチチュン」


 不審なものを目で追って()たリーシャを驚かしたのは其奴(そやつ)が突然に動きを止めて逆さ吊りに()ったからであり、リルミールが何時(いつ)の間にか接敵して()るからでは無い。

 勿論(もちろん)、メルペイクは突然と宿木さんが居なく()ったから苦言を呈して()るのだろう。


「リルミール様、近付かないで此方(こちら)へ戻って! ティロット無力化をお願い!」


「[酒よ()()れ]」


 不審者は気力の(かよ)った木綿糸で作られた罠に掛かった(よう)で、()の糸を必死に斬ろうとするのだが、次から次へと糸が押し寄せ四肢に絡み付き徐々に身動きが()れなく()って()く。

 当然、地の利はマギーに()る。貴族の屋敷が集まる区画なのだから通りの周りは壁と庭園しか無いのだ。笛を吹き(なが)ら草木に紛れて木綿糸を予想進路に、仕込むくらいは御手(おて)の物なのであろう。

 何より(いと)わしいのは気力が木綿糸の中心に隠れて()(ため)に、適性が無いと気付く事が難しいのだ。そして本来は入れない他人の気の領域であれ一続きの木綿糸は容易(たやす)く侵入を果たすのである。

 諦めたのか不審者は目を(つむ)心象(しんしょう)を固めようと、集中する素振(そぶ)りを見せる。


「何かの御業(みわざ)を使う積もりでしょう。リルミール様、じりじりと後退して()りますとお酒を吸い込んで仕舞(しま)いますから、取り急ぎ後退する事をお勧め(いた)します」


 空中に漂う酒の粒系因子は他人の気力圏に入ると制御を失うが、直前まで引き連れた風と共に流され不審者を覆い呼吸に()って吸い込まれて()く。

 純度の高い酒精であるから少し吸い込むだけでも効果がある?


「げふぉっごっふぉ」


 気管に入った様である。鼻水と(よだれ)でぐちょぐちょに()った不審者を見てリルミールは慌てて戻って()る。


「あ、ラクス様たちが此方(こちら)に向かって()ましたね……」


 リーシャの視界には飛翔(ひしょう)板に乗った近衛(このえ)騎士が20名程見えるのだが、()の後ろには飛翔(ひしょう)機が4機と此処迄(ここまで)は分かる。更に後ろには皇太后陛下の近衛騎士団らしき部隊やら、第一騎士団らしき部隊も飛び立つのが、【遠見】で見えて仕舞(しま)って()るのだろう。

 他にもクラウト中隊長が率いる部隊や、東門の部隊も駆け付けて()る事を考えると、実に頭が痛いものである。



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修正記録 2017-07-12 08:22


ルビを追加


「ピーーーー!」 → 「ピーイィィ!」


平仮名を漢字に変更


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修正記録 2017-07-11 08:07


ティロットはが(いだ)く → ティロットが(いだ)


素振(そぶ)り」を「素振(すぶ)り」と()ず読んでしまうのでルビを追加


リーシャの目前には → リーシャの視界には

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