134早朝
朝はにっぱりリルミールもにっぱり若気た顔が止まらない。
何をそんなに張り切るのかは知らないが、朝日は未だ昇った許りである。
何時もの様に飛翔板を駆って急ぎ勇んで、其の儘城壁すら飛び越えてリーシャたちの派出所へと真っ直ぐ翔て往く。
未だ騎士見習いでは在るけれど、連日ハンナ様たちと行き交うものだから、使命を帯びての事だと勝手に解釈して呉れて、誰も咎めるものは居やしない。
彼の空を覆った飛翔機群は本の一部がアリア殿下と共に離宮へ移動したとはいえ、未だ大半が此処派出所裏の空き地に所狭しと並べられて居るのである。
有り体に言えば曲がり形にも他国の近衛騎士団で在るのだから、宮殿の区画へと全てを連れ往くのは憚れるし、此れは近衛騎士団が要人警護の演習と講じて居座って居るのだから、其の様に振る舞わなくては為らないのだ。
何れにしても騎士見習いも含めて可也の人数が未だ駐留して居り、本番を想定して弛まず励んで居る処なのである。
「まあ、それでは復もやアリア殿下に誉れを頂いたのですか! 然も此の度は確りとリルミール様の意見が役に立ったと……。ああ、私も縦令一度でも宜しいですから其の様な御声を掛けて頂きたいものですこと」
リルミールは再びミルストイ学園の顔馴染みを見付け出し、昨日、リーファ様に教えて頂いた自慢話に興じては、憧憬の眼差しを受けて目尻を下げ乍ら照れる余りに体を左右にくねくねと曲げて居る。
微妙に事実と異なって居る様だが、其れを訂正する積りははたと無いのだろう。
「ところで、随分と朝早くから参られたのですね」
「はい、ハンナ様から厚い信頼を寄せて頂きまして今日は小隊の皆が来れない代わりに、私1人でリーシャ様たちの補助をするように仰せ付かったのですよ。皆の分まで役立つ所存ですわ」
「其れは復誇らしい事ですこと。……あら、私は偶、先程迄警邏の交替任務をして居りまして知り得たのですが、リーシャ様たちはつい今し方夜間勤務の方々と勤務交替で到着為されて、もう少し経ってから担当区画街の巡回に出られるそうですよ。其の間は派出所が留守に為るからと、宜しくお願いされたそうですわ」
「ええ! 折角朝早くから此方で役立つ為にと張り切って来て居るのですから、巡回が終わるのなんて待っては居られませんですよね。斯う為ったら巡回にも参加して参りますわ!」
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昨日は夜間勤務の騎士たちに確り申し送りをしたものの、精鋭と名高い近衛騎士たちに囲まれて嘸かし居心地悪かったのか、勤務交替が終わるとそそくさと逃げる様に其の場を後にするのである。
「何だか慌てて帰って行かれましたわね」
ベイミィの些細な疑問に答えて呉れたのはティロットである。
「多分だけどね! 近衛騎士の皆さんが本気で警戒任務を行って居るからではないかな! 少しぴりぴりと緊張した空気を感じるんだ!」
アリア殿下の警護を想定して実践宛らの演習である上に、宮殿の近衛騎士団や第一・第二騎士団には、其れ等を今後の参考にするようにと申し伝えられて居るとの噂迄あるとか。
そして誰かが朝っ腹から張り切ってアリア殿下に誉れを頂いたと、自慢話を吹聴して回ったのだから皆の気迫が増すというものだろう。
「へえ、私には判らないですけれど其の内気付けるように成れるのかしら」
ベイミィは意外と斯ういった機微には疎いようである。
「皆ー、そろそろ巡回に行くよー」
「了解!」×5
「チュバ」
「ん? 若干だけど何時もと違った気がする様な……」
「はい、リーシャ小隊長殿、私は此度ハンナ様にリーシャ小隊長殿の小隊を補助するよう仰せ付かって居りまして、此の機会に街の巡回にも参加したい所存で御座います」
「リルミール様、……随分と朝早いとか其れ以前に何故メルペイク護衛官を連れて来られたのですか?」
「其れは私が此処へ……」
「ああ、何となく察したので答えなくて良いです。否、そんな悲しそうな顔に急変しないで下さいよ。何だか私が悪い事をした様で居た堪れなく為りますから、兎に角巡回に出発しますよ」
「……了解!」
まあ、大方メルペイクが街の巡回を欲したとか1羽佇んでて寂しそうだったとか、改めて聴くに値しないと或る程度は判断できるのだろう。
リーシャは何となくではあるがハンナ様が自分の目が届かない間、リルミールの管理を押し付けたのでは無いかと予想できたのであろうか。そっと息を吐き特に害が有る訳ではないと諦めて、連れて行く事にした様である。
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修正記録 2017-07-10 15:02
して呉て → して呉れて
見習いも含めて → 騎士見習いも含めて
ルビを追加
朝っ腹からアリア殿下に → 朝っ腹から張り切ってアリア殿下に
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修正記録 2017-07-10 10:18
目尻を下げ照れ乍ら体を → 目尻を下げ乍ら照れる余りに体を
違って → 異なって
積りは無い → 積りははたと無い
厚い信頼を → 厚い信頼を寄せて
つい今し方勤務交替で → つい今し方夜間勤務の方々と勤務交替で
其の間、派出所が留守に為るそうですわ
↓
其の間は派出所が留守に為るからと、宜しくお願いされたそうですわ
為にと来て居る → 為にと張り切って来て居る
終わるのを待っては → 終わるのなんて待っては
「--」追加
少し緊張した → 少しぴりぴりと緊張した
「 アリア殿下の警護を想定して実践宛らの演習である上に、宮殿の近衛騎士団や第一・第二騎士団には、其れ等を今後の参考にするようにと申し伝えられて居るとの噂迄あるとか。
そして誰かが朝っ腹からアリア殿下に誉れを頂いたと、自慢話を吹聴して回ったのだから皆の気迫が増すというものだろう。」追加
「 ベイミィは意外と斯ういった機微には疎いようである。」追加
「此の機会に」追加
巡回欲したとか1人寂しそうだったとか → 巡回を欲したとか1羽佇んでて寂しそうだったとか
リルミールの管理を押し付け → リルミールの管理を押し付け
予想できるので諦めて連れて行くことに → 予想できたのであろうか。そっと息を吐き特に害が有る訳ではないと諦めて、連れて行く事に