132たじたじ
瑠璃色金色茜色、其の威風堂々たる佇まい。誰が見て呉れるのかは知らないが恰好だけは一人前で、髭まで生やした其の貫禄はさしたるものと言わしめようぞ。
て謂うか何でアリア殿下を示す御璽が機体に金色で描かれて居るのだろう。其の周りには荘厳な古式ゆかしい模様で飾られて居る。
但、此れは大分早い段階で描かれて居り、周りの絵は後でゆっくり付け足さたものなのだから、此の事に今迄敢えて言及するものは一人として居なかった訳だ。
秘密の場所で秘密の潜泳機を誰が見るというのだろうか。まあ、此れが描かれて居たが故に彼程迄に過剰な装飾を、潜泳機内部へと施したのかも知れない。
「ハンナ様、此の様な高級且つ荘厳な装飾を内部の隅々迄施して居ると為れば、以前に仰って居ました宝の探索などして万が一にも此の潜泳機を沈めでもしたら、所謂本末転倒ってものの体現ですよね」
其処は潜泳機の中であり、今や所狭しと装飾の施された緞帳や絨毯が飾られ敷かれして居るのである。
此れでは若しもの時にと床下に置いて在る砂鉄とかを、捲って取り出すのも一苦労かも知れない。
「リルミール、滅多なことを言うものでは有りません。此の潜泳機制作に携わった方や装飾を施した方たちが、聴いて愉快なものでは有りませんでしょう。其れに今や此の潜泳機が地底湖の移動手段として一番安全で護衛し易いのですから、形は違えど装飾は何れ為されたでしょう。[植物の御業よ彼等を育め]はい此方は終わりましたから次に行きましょう」
「私は遣る事が無いのですが……」
「貴女は私の話を聴く事が今は大事な仕事なのですよ。話を戻しますが私が云って居たのは宝探しなどでは有りません。皇族の口伝が絶えた現状ですと隠したものや祀られて居たものが、存在するかどうかすら不明なのです。若し過去の遺物が発見されれば其のものの価値よりも、其れから導き出される過去の情報が重要と謂うことです。だから宝探しでは無く周辺水域の調査なのですよ」
「はい……」
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リルミールを執拗に狙い追い縋る黒い影が在る。
其れは黒い炭素材質の板であり、音を捉え易いように何度も改良した一品なのだ。
ラクス様は潜泳機に其れを向け、リルミールの声が捉え易いよう移動する度に調整を繰り返し、一言一句聞き逃さない為、慎重且つ真剣に狙い定めるのである。
「流石に面白の才能を遺憾無く発揮するリルミールさんでも、ハンナ様に掛かればたじたじの様で御座いますわね」
「此れは此れで趣があって宜しいですわよ。特にリルミール様は解らないことは憚り無く訊かれますから、戦闘技術でも世間の一般常識でも私の得られるものは大きいのですわ。ところで、遠隔義腕の件は如何だったのですか?」
「彼はどうやら私たち自ら気付くのを待って居られた節があるので御座います。何せチェロルさんは鉄の接続部分を正確に精密に把握為されて居られますから、気付いて居られない筈は御座いませんと存じ上げます」
「……チェロル様の事ですからメルペイクさんが其の場に居られない事を気付いた時点で、単純に其の儘後回しとしたのだと思いますわよ。それから潜泳機の中に居たメルペイクさんも遠隔義腕の取り付け時に、一番近くで作業を見守り指示して居たと見受けられるラクスに声を掛けたのではなくて?」
「あ、然うかも知れません……」
「――では、調査で発見したものが泥だらけだとしても、矢張り此の高級そうな絨毯に置いて持ち帰るのでしょうか? 後、例えばリーシャ様が泥だらけで戻られたら座席に座れない事態に陥るのではありませんか?――」
会心の返しを放ったと満足げな顔付きでハンナ様を見遣るリルミールだが、ハンナ様は取るに足らない事の様に淡々と答えて往くのだ。
「――ああ、其の事ですか。先程、マギーさんとメアリーさんが寸法を測りに来て居たでしょう。何でも椅子を包む為の袋や普段から床に敷く為の絨毯を取り寄せるのだとか。矢張り普段から高級な家具に気を使って手入れして居るものはちゃんと心配りができて居ますね。貴女も確りと配慮できる子だったら、私も心配要らないのですけれどね――」
「――はい……――」
若しリーシャが傍らで聴いていたら喩え話でも、勝手に私を泥だらけにしないで欲しいのだけどと苦言を呈して居ただろう。
「二方共に大変貴重な意見ですわね。簡易的な着替えや収納用の袋を常備しても良いかも知れませんわね」
「後で2人にはアリア殿下がお褒めして居たと伝えて置きます」
「リーファ様、其れでは復、リルミールさんが助長して仕舞いハンナ様に負担を強いる事に為りませんか?」
「エミリア、褒められて立派に成長するかも知れないのに、最初から変な方向にずれて仕舞わないかと心配するのは野暮と言うものですよ。ハンナ様を信じましょう。特に気合が入って居られる様子ですし」
「御意に御座います」
此の場に居るものたちはハンナ様を哀れんだのは云うまでもない。
アリア殿下は多分ずれて仕舞うことも期待して居るのだろうと。
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補足説明
さしたる = 「大した」の後に「事でもない」と続けて書く文字が纏められた意味として使われることが多い? (然程の)
漢字では「然したる」、「指したる」と書く。
「たいしたものと言わしめる」
「然程でもないと言わしめる」
哀れむ
1不憫に思う。同情する。
2賞美する。めでる。
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修正記録 2017-07-08 10:23
指示して居たラクスに → 指示して居たと見受けられるラクスに
それからメルペイクさんも → それから潜泳機の中に居たメルペイクさんも
子だったら心配要らない → 子だったら、私も心配要らない
「――はい……――」以降に400字ほど加筆