131寸劇
「其れで……リルミール様は何故メルペイクを伴って此方にお越し頂いたので御座いましょうか?」
「チュン」
ベイミィがやけに畏まりて話すのは、遠くに見えるラクス様が怪しき板状の黒い物体を此方に向けて居る為では無いのだろう。
縦令、何やら蓄音魔機を弄い以て傍らではアリア殿下がうんうんと和やかに頷いて居たとしても。
「いえ、特に用が有った訳では無いのですよ」
「確か、ハンナ様に連行されて行かれた様にお見受けしたのですが……」
「ええ、先程ハンナ様に連れられて潜泳機の中に入ったものの、肝心の植樹用容器をミーア様が創り頂くのは、材質の特殊性も有って少々時間が掛かると謂う話でしたのです」
「では、其の植樹容器ができ上がる迄メルペイクの散歩をして下さって居ると?」
「其れも有りますよ。まあ、我ら小隊はミーア様の代わりに室内装飾を手伝う事と為ったのですが、元々其れ程は人手を必要としない為に、ラクス様が遠隔義腕の取り付けを手伝って居た様なので、流石に6人で犇めき合って終わり掛けの作業を手伝うのも詮無き事と判断しまして、ハンナ様がミーア様を手伝って居る隙に抜け出した訳なのですよ」
「否、隙を見て抜け出しては駄目でしょう。と言うかハンナ様はリルミール様が何か仕出かさないようにと、目の届く範囲に居るよう連れて行かれたのに、此れでは意味が有りませんわ!」
「まあ、何を仰るのですかベイミィ様! 丸で私が問題を起こす様な言い振りです事、そんな訳は有りませんわよ。唯、ハンナ様は過保護なだけで確りと私に信頼を置いて下さって居る筈ですよ」
「いえ、現に此処へ逃げて来られて居る時点で問題行動なのでは御座いませんか? 信頼を裏切って居りませんか?」
「実は此処へ来たのは訳が有るのですよ。勿論、堂々と後部の扉から出ては皆の目が在る為に憚られますし、外に出る積もりも全く有りませんでしたわ。唯、一寸気分転換に機内を見て回ろうと前方部へ行って見ただけなのです。然うしたら丁度ラクス様が鉄の柱を使って降りたり昇ったりして居る時に、メルペイクさんが何やら物申してる様子に気付いたのですよ」
「はあ、自分の縄張りを断り無く触れたり足蹴にしたりするなとでも? それとも滑り降りる音が嫌いなので止めて欲しいと?」
「ええ、私も最初は然う思って居ました。然しはたと思い至たったのですよ。メルペイクさんは外に散歩へ連れて行って欲しいと訴えて居るのでは無いかと。私は其のことに気付くと居ても立っても居られずにメルペイクさんを肩に乗せて此処迄来た次第なのですわ」
其れ最初に確認した話じゃないのという突っ込みは兎も角、横から割り込むものが居た。
「メルペイクそうなの?」
「チィチィバ」
「あっ、リーシャ様、花壇の方は……」
ベイミィは然う言いつつ口を一文字に結ぶ。
「ん? もう終わったよ。……ああ、ベイミィも遣りたかったのね。急かすから慌てて終わらしちゃったよ。其れからメルペイクは{彼で良いのか?}的な事を言ってるみたいだよ。羽が指す方向からしたら潜泳機かな?」
「チュチィ」
「身振りからして塞いでない的な感じ?」
「ラクス様に物申して居りましたのでしたら、遠隔義腕の取り付け部分を塞がないで良いのか? と謂う意味かしら」
「チェロルに訊かなかったの?」
「チュバチュン」
「訊かなかったみたいだね。あっ」
「そっかー、てっきり潜泳機の中に籠もりっきりなメルペイクは外に出たかったのかと早とちりでしたね。うぐ」
そんなリルミールの首根っ子から服を掴み取り、ほんの少し御冠のハンナ様が声を掛けて来る。
「貴女が【残留思念】の御業を使えば、其のくらい感じ取れたのではありませんか?」
「い、いえ、本人が其の場に留まって居る場合は先ず読み取れませんし、普段から近衛の皆様は殆ど思念を残しませんし、況して宮殿内で此の御業を使うなど恐れ多く日頃から使わない癖が付いて居りまして……」
「其れは貴女にしては宜しい判断ですね。では戻りますよ」
「は、ハンナ様、後ろに引っ張られてはまともに歩けません」
「チュチュン」
ベイミィが思い出したかの様にアリア殿下の方を向くと、矢張り和やかに満足そうな御尊顔で頷いて有らせられて、ラクス様は既に潜泳機へそそくさと向かって居る処である。
おや、ラクス様ははたと気付いたのか引き返してメルペイクを受取ると、再び潜泳機へと向かい往く。
息をそっと吐き花壇の方を向くとリーシャがマギーから余った花の種を貰い受け並べて居る様子が見える。
「リーシャ様、黄色の花もちゃんと混ぜて下さいまし」
ベイミィは花壇の手入れを興じる事にした様である。
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修正記録 2017-07-07 18:32
「 おや、ラクス様ははたと気付いたのか引き返してメルペイクを受取ると、再び潜泳機へと向かい往く。」追加位置を間違えていましたので移動。
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修正記録 2017-07-07 08:21 ちょっと蛇足的だったかな?
一部アプリが正しく動作するため「々」を取り込まないようルビの設定を変更
「 其れ最初に確認した話じゃないのという突っ込みは兎も角、横から割り込むものが居た。」追加
平仮名推奨文字を漢字に変更
貴女の【残留思念】御業 → 貴女が【残留思念】の御業
「チュチュン」追加
「 おや、ラクス様ははたと気付いたのか引き返してメルペイクを受取ると、再び潜泳機へと向かい往く。」追加