130優先します
先のハンナ様宜しく花壇の前で座り込んでるリーシャの首根っ子に手を降ろし、服ごと摘み上げて立たせてる。そんなベイミィたちを背景に、黄昏れて気を落とした態を見せつつ、潜泳機の横に掛かった梯子をラクス様は昇り行く。
「ラクス待ちなさい」
「あ、はい、アリア殿下、私は此の機会を得たからには、果敢に面白の才能を伸ばす所存で御座いますわ」
意外とラクス様は前向きだった。若しかしたらリーシャたちと違い面白の才能には価値が有ると真剣に考えて居るのかも知れない。
そして真剣に精進する方法を考えて居たからこそ、心此処に有らずの態に陥って居たのではないか。
「今、其れは宜しいのですよ。先程、話の流れからエミリアより貴女が午前中の報告で、何でもリーシャ様の提案を受けて新たに音声蒐集の業を開発したと聴きましたのですわ。其の業を使えば私にも蒐集した音声を聴く事ができるのですか?」
話の流れからは確かなのだがエミリア様もラクス様を不憫に思い、少しでも支援できればとの思いが在ったのかも知れない。まあ実際の処は面白について考察して居た節が在るのだが。
「未だ午前中に一度試しただけの技術でして、如何すれば良いのか皆目見当も付きません。ですがアリア殿下が御持ち為される蓄音魔器、彼の構造を調べれば若しかしたら何か判るやも知れません」
例のでかい金属の花を模したものが突き刺さった、音楽を鳴らす為の機器である。
「相分かりました。ではメアリーに依頼して蓄音魔器を此処へ運んで貰いますわ。では荷物を運ぶ最中に呼び止めて仕舞って居りましたわね。作業に戻って宜しいですよ」
「はっ、其の事なのですが荷物を運び終わりし後に此方へ戻り、先程のお尋ねの件を検証試みるべく蓄音魔器の調査に当たりたいのですが宜しいで御座いましょうか」
「ええ、其れは一向に構わないのですが、確か今はチェロル様たちの作業を手伝われて居りましたわね。先ずは確認して其方を優先し為さい」
「はっ、畏まりました」
ラクス様は、再び荷物を抱え潜泳機の中へと目指し往く。先程の姿と違い足取りは軽そうだ。……否、本当に浮いて居た様である。
飛翔板の軽量素材開発は防具にも影響を与え、今や普段から御業の適性素材を衣服に組み入れたものを装備もして居るし、若しもの事を考えて体中に適性素材で創られた飛礫や道具類を仕込んで居るのだ。
まあ、要するに御業で全身に纏った適性素材を浮かそうと思えば、多少ではあるものの体を浮かす事ができるのである。
勿論、少量の物質で体を浮かすのは消費が激しい為、体を軽くして重心を整える程度に留めて居るのだが。
軽い足取りで瞬く間に梯子を昇りきり、前方部の天井に在る扉から覗き込んで下に誰も居ない事を確認する。
「今から降りますので注意して下さいませ」
「チィチィバ」
横に在る鉄柱に手を掛け滑らす様に降りて往く。鉄柱から伸びる横棒に止まって居たメルペイクが何やら苦言を呈して居る様だが此の際気にしないで良いだろう。
「チェロルさん荷物を持って参りました。何方へ置きましょうか?」
「おー! 有難う! えーっと、其の部品は其処で寝そべって作業して居るティロットのお腹に置いといて頂戴!」
「えっ!」
「えっ」
「ああ、直ぐ使う奴ですね! 但、流石に力が抜けそうですから一寸待ってて貰えませんかな?」
「ええ、勿論、構いませんわよ」
「然う然う、ラクス様! 此方は此の通り1人寝そべって場所を占領してるから手狭だし、ラクス様も何だか他にも使命を仰せ付かってるみたいだから、其方を優先しちゃって良いよ!」
「名誉挽回ですね!」
「あ、扉が開いてましたから多少なりとも此方まで、声が届いて居たのですね。お心遣い痛み入りますわ。んん、名誉挽回ですか?」
矢張り面白要員とはラクス様の基準だと誉なのだろうか。
「ん! よし、此の様な感じで良かろう! 其れを渡して下さるかな?」
「はい、どうぞ。では直ぐ側で御業の確認をして居るだけですので、御用が在れば何時でも呼んで下さいませ」
「了解だよ!」「相判りました!」
ラクス様がメルペイクの苦言を再び無視し乍ら、鉄柱を軽く掴み持って外に勢い良く顔を出すと、メアリーさんが丁度【瞬間転送】の御業で蓄音魔器を取り寄せた許りの様である。
ラクス様は軽やかに其の場に立ち上がったかと思えば、其の儘飛ぶ様にメアリーさんの許迄駆けて往く。否、殆ど飛んで居るのかな。
足取りも心も軽やかな様で何よりである。
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修正記録 2017-07-06 08:28
足取りも心も軽やかな様で何よりである。
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修正記録 2017-07-06 08:14
ルビを追加
は確かだろう。 → かも知れない。
考察して居た様だが。 → 考察して居た節が在るのだが。
「 例のでかい金属の花を模したものが突き刺さった、音楽を鳴らす為の機器である。」追加
其れは構わない → 其れは一向に構わない
誉なのだろう。 → 誉なのだろうか。
「了解だよ!」「相判りました!」追加
鉄柱を軽く掴み外に顔を出すと、 → 、鉄柱を軽く掴み持って外に勢い良く顔を出すと、
立ち上がったと思えば、 → 立ち上がったかと思えば、
駆け付ける。否、飛んで居るのかな。 → 駆けて往く。否、殆ど飛んで居るのかな。