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アリアは知らない  作者: taru
四章 リーシャ編
148/345

129ひげ3

 ラクス様は目の前が真っ青なのである。(いや)、真っ青というよりかは浅葱(あさぎ)色に近いだろうか。

 何時(いつ)の間にか視界の半分程を埋め尽くして()()れは、微妙に(かし)げる仕草をする。


「ラクス様! どうか(いた)しましたか?」


 ()れは頭部の髪であり、戻って()たティロットが立ち尽くすラクス様に、顔を近付けて(のぞ)き込んで()ただけである。

 丁度(ちょうど)入れ替わる様にリルミールは、ハンナ様に首根っ子の後ろをむんずと(つか)まれ、引き()られ(なが)ら潜泳機の中へと連行される(ところ)であった。

 ティロットが来る前はリルミールが(のぞ)き込んで声を掛けて()たのだが、()花緑青(はなろくしょう)色の髪が目の前で揺れて()たことには、とんと気付いて()かった様である。


「……いえ、何でも()りませんわよ。(さて)、次の段取りは如何(どう)()ってますのでしょう」


「あ! ティロット戻って()ちゃったの? じゃあ(つい)でだから()れ運んで! 次は潜泳機の中で遠隔義腕の操縦用器具を取り付けたり調整したりするんだよ!」


「えっ! ……了解した!」


「先程と名称が違う様なのですが、何故(なぜ)なのでしょう?」


「? 腕の様に操縦する(ため)の装置だからだよ! ティロットは()れと(あれ)と……」


「あっ、私も運ぶの手伝います……わ」


 視界の端にちらりと見えた此方(こちら)へと近付く影が()る。ラクス様はギギギと音が()こえそうなくらいのぎこちなさで()の方向を見遣(みや)ると、其処(そこ)には静静とアリア殿下が歩いて()る姿が見えるではないか。慌てて礼を()る。


「ラクス、中々の寸劇でしたわよ。()れからも精進()さい」


 アリア殿下は優しく()宣ひ(のたまい)て満足したのか、塗装の終わった潜泳機に()だ塗るものが()るらしく、側面に移動しつつエミリア様やリーファ様を伴い何やら話し合いが始まった様である。

 呆気(あっけ)にとられたラクス様がぽかんと()の姿を眺めて()ると、チェロルとティロットは()の頼りない手に了解を得ずとも荷物を渡しさっさと潜泳機の中へ入って()く。

 我に返った際、荷物が全て()かったら気まずいだろうという、()る意味彼女たち(なり)の優しさなのかも知れない。傍目から見れば少し滑稽なものなのだが。

 そんなラクス様の(もと)へとベイミィが笑いを(こら)えながら近付いて()るのは、花壇づくりに精を出す振りをし(なが)此方(こちら)を密かに(うかが)って()たのだろう。


「ラクス様、此度(こたび)は災難でしたわね。私やティロットが遠隔義腕のお話を伺いました時に(ひげ)と申せば、ご機嫌を損ねた機微を感じましたのですが、()の際に私とティロットは(あれ)(ひげ)と呼ぶ事に許可を(いただ)いて()りましたのです。チェロルも恐らく()の様な計らいなのでしょう」


「はあ、()の様な経緯が()ったのですね」


 ラクス様は何となくではあるものの、自分の陥った状況を理解し始めた様である。


「本来であればアリア殿下のラクス様に対する印象は、余り(かんば)しくないものと()って()りましたわ。(しか)()れを覆す救世主が現れたのです。ええ、ラクス様も色々と聞き及びかと存じますが、アリア殿下に心の潤いを(もたら)すと(ほま)れを(いただ)いた()のリルミール様のことで御座(ござ)いますわ。そして、ラクス様も見事に()の傍らを努めるという大役を果たしたので御座(ござ)います。()れで印象は好転(いた)しましたでしょう。誇って(いただ)いても(よろ)しいかと存じます」


 ラクス様がリルミールとティロットの掛け合い万歳や、アリア殿下とベイミィの会話を()いて()た様に、ベイミィもラクス様の行動を何となくではあるが理解して()たのだろうか。

 それとも、リルミールが昼餉(ひるげ)の後で自慢して回って()た話は、既に近衛騎士団中へと行き渡って()ると予測しての事だろうか。

 (いず)れにせよラクス様が今回ティロットの代役を()ったと()う事実は明白なのである。

 リルミール劇場を()き面白がって()た手前、自分も同じ立場に()って()たと知れば恥じ入る気持ちも増す様だ。


態態(わざわざ)、教えに来て(いただ)き感謝(いた)します。御蔭(おかげ)で事のあらましを理解できて納得いきましたわ」


 確かに助かった。芳しくない印象を持たれるより(はる)かに()しである。だが(しか)し何を精進せよと言うのだろうか。全てを知ったラクス様は死んだ魚の様な目をして、とぼとぼと潜泳機に向かうのであった。


 ()(はる)か後ろではリーシャが(にこ)やかに顔を綻ばせ(なが)ら、葉を()で水を()って()る。


「――リーシャ様、()()だ花壇づくりは沢山()るのですわよ。さあ、きびきび()って(まい)りましょう――」



---

修正記録 2017-07-05 08:26


ラクス様の目の前は真っ青である。 → ラクス様は目の前が真っ青なのである。


微妙に(かし)げるのである。 → 微妙に(かし)げる仕草をする。


花壇づくりをする振りをし(なが)(うかが)って

花壇づくりに精を出す振りをし(なが)此方(こちら)を密かに(うかが)って


助かりましたわ → 納得いきましたわ


確かに助かった芳しくない → 確かに助かった。芳しくない


句読点を追加


()だ → ()()


きびきび()って()きましょう → きびきび()って(まい)りましょう

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