124まだまだ
メアリーさんとマギーは皆様一度休憩して下さいと声を掛けて往く。ああ、勿論、メアリーさんは外のアリア殿下御一行に声を掛けて其の儘道案内を仕り、マギーは潜泳機の中に入って来て各部屋へ声を掛けて呉れた訳である。
但、皆が素直に中断したとか然う謂う話ではなくて、皆其れ其れ一様に一段落ついて居て、扨、次は何をしようかと考え始めた折であったのだから、其れなりに見計られた機会なのだろう。
其の様な機微に感心しつつも、リーシャが目指すは善く気が回る人物といった処なのか、遠隔気力通話器の前で待機して居るマリオン先生の許へ交代しに行こうと考えた様である。
だが一足遅かった。復してもティロットがするりと一団から抜けて、マリオン先生の許へ向かおうとするのだから。
リーシャは口を一文字に結んで其れを口惜しそうに見て居ると、粗同時に動き出した人物が居たのである。
「ティロット様、此れからマリオン様と交代を為さりに行かれるのでしたら、其の役目を私に譲って頂けませんでしょうか? 斯ういった伝達系の仕事は私の得意分野でして、できれば率先して遣って行きたいのですよ。我が儘なことなのですが」
「え! ええ、構わないですよ! 私も常日頃から人の役に立ちたいと心掛けて居るだけでして、其れが本分を阻害したとあっては本末転倒と為ります故、私が引くことは些かも問題ありませぬぞ! どうぞイザベラ様、本分を果たして下さいませ!」
「はい、感謝致します」
リーシャは自分とは違う一つ上の領域で行われる、其の度量や配慮といった駆け引きに舌を巻く許りであった。一歩先んじられて悔しく思ったことが恥ずかしい限りなのである。
其れは扨措き、作業場の右奥に在る階段を上って行き、其の儘通路を真っ直ぐ進めば休憩室だった筈である。以前はと付け加える必要が有るかも知れない。
遠隔気力通話器を設置する為の部屋をマリオン先生に造って貰い、其の関係で廊下が丁字路と為って居る訳なのだが、左は其の新設の部屋で右に行けば休憩室の扉が在る。此処迄は以前からと変わらないのだけれど、廊下は更に奥へと続いて居たのである。
リーシャたちは首を捻りつつも休憩室へ向かおうとすると、マギーに呼び止められたのだ。
「皆様、奥に増築致しました新しい休憩室で、アリア殿下が御待ちに遊ばされて居られます。其方の部屋へ向かって頂けますでしょうか」
マギーの姿が見えないと思っては居たのだが、てっきりメアリーさんに休憩室とかの案内でもして居るのだろうくらいにしか考えて居なかったのだ。皆一様に予想外だったらしく目をぱちくりさせ乍ら訝しげに其の奥へと進んで往く。
どうやらメアリーさんとマギーは今迄2人して、此の部屋を造って居たのだろう。うん、扉が上の施設に在る貴賓室の扉と同じ程度の質に見えるから、此の部屋に在る調度品や内装も同程度に高級であると容易に予想できて仕舞う。
「マギー、此の部屋の材料は何処から持って来て、如何遣って此処迄運んだの?」
リーシャは素朴な疑問をつい訊いて見て仕舞うのだ。
「何でもメアリーさんが予め上の近衛騎士たちに頼んで居た様でして、昼餉の折には宮殿から既に届いて居りましたから、一部は私とメアリーさんとで此処へ下りる際に持って来ましたので御座います。其れと家具や扉などの木材の類でしたら、多少大きくともメアリーさんの持つ【瞬間転送】の御業に余り負担は掛からないそうなので、残りは全て其れで転送致しました」
「あっ、適性属性か。だけど、新しい部屋を造るのにも御業を使ったら気力の負担が相当大きかったのでは?」
メアリーの場合【木】【砂鉄】【岩】と殆どの素材に適性が有るのだから、実は余り素材を気にする必要もないのである。但、流石に何から何迄運んでいたら負担が大きいから木材に限定して居るのだろう。
「岩の荒削りの時はマリオン様と私が交代して作業して頂きましたので、或る程度は負担の軽減に為ったかと思われます。其れよりも皆様もう行って仕舞われましたのですが?」
「えっ! うわあ、本当だ。御免ね。つい気になった事を其の儘訊いて仕舞って」
「いえ、問題があれば其の旨、其の都度、進言させて頂きますから」
「……はい、宜しくお願いします」
少しは大人びた行動を執るように為って来たリーシャではあるものの、マギーの前では未だ未だ子供の様である。
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修正記録 2017-07-02 00:44
適正 → 適性
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修正記録 2017-06-30 08:59
マギーに皆様一度休憩をして下さいと → マギーは皆様一度休憩して下さいと
句読点を追加
「口惜しそうに」追加
「どうぞイザベラ様、本分を果たして下さいませ!」追加
ルビを追加
「其れは扨措き、」追加
御待ちに遊ばれて → 御待ちに遊ばされて
「 メアリーの場合【木】【砂鉄】【岩】と殆どの素材に適性が有るのだから、実は余り素材を気にする必要もないのである。但、流石に何から何迄運んでいたら負担が大きいから木材に限定して居るのだろう。」追加