120それは何かな?
潜泳機の傍らに積まれた荷物を騎士たちは、手分けして次々と荷解きして行く。リーシャたちは自慢に成らずとも慣れたもので、解いた梱包材を邪魔に為らないようにとてきぱき片して行く。
普段はマリオン先生も手伝って呉れて6名と1羽で作業をして居る此の作業場は、現在12名の人たちが加わり奪い合う様に何かしらの作業に携わって居るのだ。
リーファ様とハンナ様は二人して興味津々で解かれた荷を覗き込む。うん、何が何だか分からない様である。何しろ其れ等は全てばらばらの一部品でしか無いのだから。
「アリア殿下、此れ等の部品は全て一つのものと成るのですか?」
ハンナ様は素直に直接訊いてみる事にした様だ。
「一部は違いますが殆どが一つの為に創られた部品ですわよ。此れ等を取り付けるには一部既存の機材や容器類の移動も必要と成りますの。其の為の図面も拵えて来て居りますわ」
ハンナ様がアリア殿下の取り出した図面を覗き込むと、此れ復リーファ様も同じ様にずいと顔を出す。
「後部貯水槽を退けて……否、縮小して空いた下側の場所に新しい機材を取り取り付け為される訳ですか。然し、其れでしたら最初から潜泳機の後部が重量過多に為りませんか?」
「勿論、其れも考慮しての前方部への新しい機材追加ですわ。リーファ様」
「前方部には操舵席が在りますから色々と機材が入って居て、結構一杯一杯だと記憶して居りますが……と謂いますか何を追加為されるので御座いますか?」
アリア殿下は少し得意げな顔をし自信を以て宣われるのである。
「大丈夫ですわ! チェロル様たち「ヒッ!」なら下手な技術者よりも余程頼りに為りますから、屹度最善の方法で何とかして貰えますわ! それから新たな取り付け予定のものは遠隔義腕の絡繰りですのよ! 此れが予定の構想図ですわ!」
何気に希望的観測である。
「はあ、それでは拝見させて頂きます。……案が2つ在るのですか。此の魚に手を生やした様な位置は何だか気持ち悪いですね。私は髭の案が宜しいかと存じ上げます」
「気持ち悪いとか髭とか余り此の件に関わりが無い気がするのですが、まあ宜しいとしますわ。チェロル様「ヒッ!」は如何思われますでしょうか?」
どうやらチェロルも興味をそそられたらしく、少し背を伸ばして覗き見て居たのが徒と為って逃げも隠れもできない様である。少しきょろきょろした後に漸く答え始めた。
「髭向きの方が前方部に付くから利用範囲が高いと思うんだよ! 後、正面中央は計器類の機材が多いから退けやすいし、髭収納時は取り付け位置の関係から負荷が掛かり難く耐久性も高いと思うんだよ!」
「はあ、リーファ様が変な喩えで言いますから髭で定着して仕舞いましたわ。ですが此れで決定致しましたわね」
「ははは、……面目無い」
「まあ、取り敢えず運んで行きましょう。ああ、アリア殿下が運んで頂く分はもう無い様ですよ。皆さん鬼気迫るものが在って非常に宜しいですね。チェロルさん「ヒッ!」……此の部品は何処へ運べば宜しいのでしょうか?」
「あ、うん! 其れは今リーシャ様が潜泳機の中で取り付けの準備をして居ると思うんで、其方に運んで欲しいんだよ!」
「判りました。序でに其の儘取り付け作業を手伝って来ますね」
「チェロル様」
「ヒッ!」
其処には若干乍ら不服そうなアリア殿下が御座しまし宣ひけるは、
「新しい塗料が届いて居りました筈ですが、何方に在りますのでしょうか?」
「は、はい! 直ぐ使わないものは殆ど彼方の隅に固めて置いてるんだよ! じゃあ私は潜泳機の作業に戻るんだよ!」
「ええ、判りましたわ。忙しい処、感謝致します」
逃げる様にチェロルは潜泳機の中へ入って往く。否、先程、人が大挙して入って来そうだから逃げて来たのではないのだろうか。
「アリア殿下は塗装でしょうか?」
「ええ、今回の水推進機関や遠隔義腕の取り付けで外側も何箇所か切り外し致しますので、鍍金やら塗膜やらが剥がれ致しますでしょう? ですから最新の耐久性を備えた塗料も届いて居ることですし全面を塗って仕舞いましょうと考え致しましたのですわ」
「成る程、それでは私めも手伝わせて頂けないでしょうか? 溢て仕舞いまして」
「構いませんわよ。リーファ様」
「――成る程、矢張り彼等は推進機関の類いだったのですね――」
然う呟くとアリア殿下と護衛のエミリア様と共に、彼方の隅とやらへ歩いて往く。どうやらリーファ様は謎の部品が何か尋ねようと辛抱強く待って居た様である。
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修正記録 2017-06-26 07:04
ルビを追加
取り付けられる訳ですか。 → 取り付け為される訳ですか。
絡繰りでのよ! → 絡繰りですのよ!
殆ど此方 → 殆ど彼方
「然う呟くとアリア殿下と護衛のエミリア様と共に、彼方の隅とやらへ歩いて往く。」追加
いた → 居た