表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アリアは知らない  作者: taru
四章 リーシャ編
135/345

116手料理ですか?

 暗闇に二条の光が照らし揺らめく地底湖を泳ぎ行行(こうこう)たるバルパルは、(つい)()の入江へと(いざな)われたのである。


「メイリア神官長殿は地下の部屋にいらっしゃるかな?」


「取り()えず右の浅瀬に岩板を引き揚げて()きましょう。リーシャ様」


 其処(そこ)は以前にバルパルが仕留めた魔落を置きたる場所と(ほぼ)変わらない、そんな入江の浅瀬へと「ガガガ」と音を立て(なが)ら岩板ごと引き揚げて、水際を少し越えた所に置き据えたのである。

 バルパルは岩板がびくともぜずに(とど)まって()る事を確認して満足したのか、ついと立ち上がりて地下通路の階段を目指し横穴へちょこまかと歩き始めた。

 リーシャとマギーは飛翔(ひしょう)板を何時(いつ)もの(ごと)く横穴の右壁へ立て掛けて、バルパルが進み()く横穴を懐中気灯の明かりで照らし見ようとしたのだが、何やら向こうからもちらちらと懐中気灯の明かりが見え隠れするのである。


「ぴゃあぁ」


「あらあら、やけに大きな音がするものだから何が起きたのかと見に来たのですが、お客様だったのですのね。ん、何? バルパルはそんなに()かしてご飯でも(もら)えたの? あら、リーシャさんにマギーさん今日(こんにち)如何(どう)いったご用件かしら。先日は有難(ありがと)うね」


 マギーは後ろで控え軽く礼を()り、リーシャが代表して話し始める。


「メイリア神官長殿、どうも、お騒がして申し訳ありません。今日(こんにち)はバルパルに(あた)える貝の魔落を運んで参りましたのです」


「あらまあ、()れは態態(わざわざ)御苦労様(ごくろうさま)です。ん、貝ですか?」


「はい、貝です」


「……(わか)りました。()(かく)見てみましょうか」


 バルパルと共に横穴から出て()たメイリア神官長は、岩板にどっしり載った巨大な貝の魔落を見遣(みや)り、少し(ばか)り顔を引き()らせるのであった。


「ぴゃあぴゃ」


「……ええ、確かに貝の様ですわね。バルパル、早速味見したいのは分かるけれど、そんなに()かさないで()れるかな。()の大きさだと(また)食べ過ぎに()っちゃうでしょう。私は余り断面を見たく無いのよね」


「びゃぁあ」


「中身は()れ程詰まって無いと()いたいのでしょうか?」


「多分、()うでしょうね。バルパルはどうせ貝殻(まで)(かじ)る積もりでしょうから、余り関係無いですわよ」


「うわー、確かに()れは余り見たく無いですね」


「[氷よ()()れ]」


 メイリア神官長はゆっくり丁寧に芯(まで)冷えるように強く念じて()く。そして(しばら)く経つと巨大な貝はすっかり氷で包まれて()た。


「リーシャさん()の貝を斬って(もら)う事はできますか?」


「うっ」


 リーシャが片手に持つ長刀は長い刀では無く柄の長い刀なのである。刀の部分は約50cm、リーシャの腰に差す儀式用の剣も同じか()れより短いかも知れないのだ。

 そして、巨大貝の太さは明らかに()れより倍以上は()るのだから縦令(たとえ)裏表と返し返し斬っても中央が斬り残って仕舞(しま)うだろう。

 勿論(もちろん)、剣技や武技には実剣より長く斬り裂く(わざ)()るのだが、(これ)はティロットが(ようや)く日頃から岩を斬って鍛錬した成果として、20cm程長く斬れる様に()った(ばか)りである。ええ、言わずもがな、リーシャは()(わざ)の顕現に至って()ないのである。

 リーシャは今更(なが)ら朝の訓練はティロットと一緒に岩を斬ろうと、口を一文字に結んで誓うのであった。


「リーシャ様、丁度できた(ばか)りの新技を一度試したいと思って()(ところ)です。(よろ)しければ()の役目を(わたくし)()にお任せ(いただ)けないでしょうか?」


「え、はい、()れではマギー(よろ)しく頼みます……」


(かしこ)まりました」


 マギーは先程の麻紐とは違い細く白い糸を取り出した。木綿糸の(たぐ)いらしき実に貧弱そうであり、そんなものでは流石に巨大な貝は持ち上げられないだろうと思われた。(ただ)()()れが黒い糸であったなら、木綿糸を取り出した事すら気付かなかっただろう。

 ()れは手から瞬く間に放たれ巨大貝を縦に一周回ると、ついと此方(こちら)へ戻って()る。

 手元に寄せた糸の両端を素早く結び合わせたかと思えば、()れを物凄(ものすご)い勢いで回し始めたのだ。勿論(もちろん)(はた)から見ればマギーの(たもと)から真っ()ぐ伸びる二条の白い糸としか(わか)らないのである。


「キィンッ」

「え!」

「あらあら、()れは凄いですね」


 木綿糸はマギーが下がり(なが)ら引くと同時に何も無かったが(ごと)くすっと手元に戻って()る。本の少し(ばか)り音が聴こえるから、何とか木綿糸が巨大貝を斬り分けたのだと理解する。()れを別の位置からも繰り返し4つに切り分けたのだ。


御粗末(おそまつ)様で御座(ござ)いました」


 マギーはぺこりと礼を()るのである。



---

修正記録 2017-06-22 06:46


伸びる白い糸 → 伸びる二条の白い糸


「キィンッ」追加


「本の少し(ばか)り音が聴こえるから、何とか木綿糸が巨大貝を斬り分けたのだと理解する。」追加


別の位置から繰り返し → 別の位置からも繰り返し


マギーぺこりと → マギーはぺこりと

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ