112罷り成らぬ
何だ彼んだといっても遊びの様な事を遣って居る訳では無く、基本、彼らは潜泳機の試乗で態態此処迄来て居るのだ。事細かい計測や段階を踏んでの精査は、当り前に熟して行かなければ為らないのである。
「=中央上部の操舵席より連絡、水深8mの環境下で各計器類、各部状態の確認全て終わりました。それから硝子の状態確認も此方で間に合いました=」
「――まあ! もう私は必要無いって事なのですわね。用済みの女ですか? ええ、甘んじて其の蔑称を受けますわ!――」
「――ベイミィ様、其処は”新しい女ができたのですわね”を入れないと――」
「……了解した、序で此方は水深15mへ移動するから引続き計測・観測を頼む」
「――用済みの女なの!――」
「――まっ!――」
「=……了解=」
「扨、アリア殿下、予定通り操舵をお願い致します。いざとなれば機体ごと御業で動かしますから御安心頂ければ幸いです」
「ええ、先程の説明通り潜舵と横舵の2つを同時に動かすのよね。では早速……ふむ、成る程、調整次第では殆ど傾きませんから適性御業を持つか計器類で判断しないと潜航の状況が掴めないのですわね」
「はい、逆に水平を保つ技術が顕著に現れますから、腕の善し悪しが露見して仕舞うかも知れませんですね。水深11m、12m……15m」
「――噫、復、操舵の誉れを得ようと騎士訓練其方退けで、争う様に舵取りを願い出るものが増えそうですね。ベイミィさん、そろそろチェロルさんを解放して上げては如何かな? 頬が真っ赤ですよ――」
「――エミリア様に免じて今日の処は許して差し上げますわ――」
「――ほふぇんふぁふぁい――」
「……潜舵、横舵を0°に調整致しました。ふむ、飛翔機と違って速度の割に即座な反応が帰って来る感じですわ」
「まあ、其の分速度が出難い感じですかね。水深15mを維持。各部、計器類の調査開始します」
「底が見えて参りましたわね。水深25mぐらいでしょうか」
「此の辺りは大体20mから30mの水深ですね。但、其れより浅い所も在るかも知れませんから注意は必要で御座います。ん、左前方に魚ですね」
「あら、本当に魔落以外の生物が生息して居ります様ですのね。けれども目が普通に残って居りますので、矢張り何処か陽光下の水域から行き来してると推察できますわね」
「おや、目が残って居るのが普通では無いのですか?」
「ええ、地上でも話て居りましたニコライ先生から教えて貰いましたのですが、地下の光が届かない領域で隔絶されて生きる生物の多くは目が退化してると聞き及びます。逆に考えれば目を持つ生物が存在するならば此処地底湖の水域は地上と繋がって居りますと見て宜しいかと。ええ、勿論、私も何処へ繋がって居りますかは重大な案件ですから、此の調査に於ては協力を惜しみませんわ」
「……ええ、其れは迚も有難い事なのですが、調査には連れて行きませんよ。勿論の事ですが」
「ええっ!」
「其の様な顔を為されても罷り成りませんよ」
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此れは少し前に行われたと或る2人の会話である。其れが聴かれて居ると露知らずに。
「じゃあティロット、私が見本を見せてあげるわよ」
「聴きましょう!」
「さからいて あこうよしなに ひるもなし」
「んん! 逆らって赤魚の魔落に……よしなだとうまい具合に遭遇か、止しなさいと言うのにって意味かな!」
「うん両方ね」
「昼もなしは地底湖だね!」
「其れは、お昼ごはんそろそろなのにねと謂う切実な気持ちを綴ったのよ!」
「ええ! じゃあ季節の言葉は!」
「赤穂?」
「……もうそろそろ冬だよ! と言うかリルミール様、此れアリア殿下に聞かれて居たら不味い内容だよね!」
此の歌を詠むと謂う行為には少々規則が有る様だ。5,7,5で詠む言葉に意味を当てるのだが、其れは複数有っても良いらしい。
言葉から推測される意味を取って季節の言葉とする隠し要素も有り、之は其の場に在る題材とは余り関係が無いと見える。
例えばティロットの詠んだ「そばすだき」であれば「蕎麦」は分かるが、「集き」だと群がると意味が分からない様に思えるが、「絆」で人を表し「蕎麦に集まる人たちで刈り取りから加工迄をする季節」とも取れるかも知れない。
又、「昼もなし」を地底湖と取れるなら比喩や謎掛けの類も使えるのだろう。一種の言葉遊びと謂う処だろうか。
「そんな怖いこと謂わないでよ! あっ鳥肌立ったじゃない。ぞくぞくってしたわ!」
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修正記録 2017-06-18 16:41
句読点を変更
と言うか此れ → と言うかリルミール様、此れ
「一種の言葉遊びと謂う処だろうか。」追加
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修正記録 2017-06-18 07:43
硝子の確認 → 硝子の状態確認
↓追加
「――噫、復、操舵の誉れを得ようと騎士訓練其方退けで争う様に舵取りを願い出るものが増えそうですね。ベイミィさんそろそろチェロルさんを解放して上げては如何かな? 頬が真っ赤ですよ――」
「――エミリア様に免じて今日の処は許して差し上げますわ――」
「――ほふぇんふぁふぁい――」
「潜舵 → 「……潜舵
句読点を変更
ルビを追加
関係が無い様だ。 → 関係が無いと見える。
「そんな怖いこと謂わないでよ! あっ鳥肌立ったじゃない。ぞくぞくってしたわ!」追加