111詩人です?
バルパルは顔を水中に突っ込み乍ら泳いで居る。其の視線の先には10m程の水深に潜った潜泳機が進み往くのだが、もう其の背鰭らしき頂上には彼の悩ましき筒は無い。
そんな寂し気な背中を見せる獺の数m程先行して滑走するものたち、ティロットとリルミールの2人組は、潜泳機が潜った後では四方警戒の意味も無いと纏められたのである。
勿論、ミーア様とマギーは更に先を往き、左右に別れ単独で警戒任務に当たってる。単独でも安心て任せられる2人と、不安だから纏められる2人の違いなのである。
水を切ってむくりと身を起こしたバルパルは、唯唯声を発するのみである。
「ぴゃあぁぁ……」
「かわうそや ほだしにみちた そばすだき」
「何詩人めいた事遣ってるのよ。唯でさえ少し許り私語が多かった所為か、ハンナ様に睨まれて居る様だし十分に留意して置いてよね。けれど何か変なのよね! 絆? 人と関わり自由の枷と為ったって事かな。それとも理不尽な束縛を受けた? それと傍らで呻きを聴くなのかな。苦悩から出る声や獣の声だっけ? あれ、集めるって意味だっけ……噫分かんない! 何方にしても季節を表す言葉が無くない? 3点ね」
「あぅ!」
「否否、そんな心外なと言わん許りの顔をされても困るのだよ。点数を付けてるだけでも感謝して欲しいものだね。うん」
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「ぶふっ」
「……ラクス様、如何か致しましたか?」
中央上部の操舵席には再びラクス様とリーシャが並んで座って居た。アリア殿下は潜望鏡の確認という目的を果たし、序でに背鰭の様子も窺えたので満足して前方部の部屋へ戻って行かれたのである。
何でも未だベイミィの実況解説が在るかも知れないから其れを聴きに行くそうだ。
「ええ、まあ、水中音声蒐集機の着想を真似まして、【水晶】と【音感】2つの御業を使って音を拾えませんかと色々試して居たのですよ。結果としては窓硝子に当たった音を私へと運ぶ気力の線を構築して遣ることで、上手く聴けましたのですわ。其れで試しにと丁度上で会話されて居たティロットとリルミール様の話し声を聴いて居ましたら、来しなの如くリルミール様は何にも憚れぬ素晴らしい胆力で語られるものですから、つい耐えきれなく為つて仕舞いまして」
「彼の、……来しなであれば私も含まれてませんか?」
「え、ええ、まあ、残念ですけどリーシャ、貴女1人では面白くありませんわよ。だけど落ち込まないでね。人には向き不向きが在って偶リーシャには面白の才能が無かっただけで、他にも沢山リーシャに合ったものは在る筈なのですからね」
「いえ、其の面白の才能とやらは特に要りませんですよ?」
ラクス様は一瞬信じられないものを見たかの様な表情を見せたが、はたと気付きに至りうんうん勝手に頷くのであった。
勿論、リーシャは強がりを言って居るが、本当は傷付き其れを噯にも出さないよう隠して居るのだと。
「いえ、本当に要りませんからね? 其れと其の様に板状のものを音の傍受として使えるのなら、飛翔板も同じ様に使えるのではないでしょうか?」
「え、ええ、……然うかも知れないですわね。飛翔板程の大きさがあれば水中だけでなく空中の音情報も悉に拾える筈ですわね。ええ、其の着想戴きました。早速一寸だけの規模で試して見ますね」
然う言ってラクス様は直ぐ様目を瞑り心象を強く思い浮かべる。別に飛翔板の様に六角多孔である必要は無いのだが、硝子は既に試した許りだし実際に飛翔板で使えなければ意味がない。
時をゆっくり掛け十分に心象が整ったら、後は言霊を唱えるだけである。
「[炭よ其に在れ]」
其れはルトアニアで新しく開発された炭と同じ炭素素材だが遥かに固く金剛石に近かい程のものだった。違いと言えば黒いことだろうか。
「では早速試して見ますわね」
「――流石はリルミール様ですわ。壺を押さえていらっしゃいます――」
「――ええ、まさかティロットに対抗して歌を詠み始めるとは、然も……ぶふっ――」
「……何て事でしょう。此れは仕舞ったことですわ! 聴き逃して仕舞いました!」
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修正記録 2017-06-17 06:55
ルビを追加
「、貴女」追加
在るのですからね → 在る筈なのですからね
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修正記録 2017-06-17 06:28
遣ってのよ。 → 遣ってるのよ。
然し何か変なの絆? → けれど何か変なのよね! 絆?
「2つの御業」追加
私へと運ぶ線を → 私へと運ぶ気力の線を
上で丁度 → 丁度上で
如くリルミール様の → 如くリルミール様は
ルビを追加
「、然も……ぶふっ」追加