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アリアは知らない  作者: taru
三章
13/345

01探り合い

 アリアはずっと我慢していた。


 アリアは思考する。いくら警戒態勢が必要だからと言って、一体どれだけ歌と踊り(ついで)に音楽(も試してみたい)を我慢すれば良いのかと。

 もう限界である。其処(そこ)でアリアは(ひらめ)いた。【空間収納】の異空の中であれば、どんなに派手にしても問題無いではないか!

 だが実際は問題もある。異空の中には地面が無いのであった。全ての収納物はプカプカと浮いている。

 そこでアリアは考えた四角い木箱を舞台にすれば良い、光幻が人の大きさでなければと誰が言った。

 アリアは密かに小さな光幻たちを操り、歌と踊りそして音楽をより良く奏でる為に、木箱を舞台にして練習を(いそ)しみ始めた。


『今度は【大気】と【念動】を駆使して吹奏に挑戦してみようかな』


 そんなアリアの横道(よこみち)は置いといて、確かにアリアの操る光幻たちはどうしても目立つ、縦穴の出入り口である岩柱を降りるのだ。確実に監視されているであろう。光幻たちを消して進むことも考えたが、監視されていれば気の変化に気付かれないとは言い切れない。だからこそ派手な光幻たちを人らしく動かしているのである。決して趣味ではない……はず。

 そして、探られているならば此方(こちら)も探れば良いではないかと小さな光幻を出した訳ではない。


---


 1人の骨ばった、いや骨な男は岩柱の中腹に座っていた。男の名はビンセント・ルシュバーン男爵、中尉である。彼は偵察部隊を任されていた。そして彼の元に監視の中継の任に当たっていたものが近付くが、それでも遠い40m以上は離れている。

 中継係は【念話】を持つ、また違う位置にも【念話】を持つものが微動だにせず待機している。勿論この部隊にも【遠話】の御業を持つものは2体いるが、あらゆる方面部隊から入る情報の管理と離れた位置で情報収集にあたる部隊員の中継をこなしている。

 だが男の一番の目的は彼の長年経験上からくる部隊要員の分散であった。偵察部隊は弱い。だから発見されないこと、攻撃されないこと、攻撃されても逃げて情報を伝えることを信条に置く。


『中尉殿、鬼口の涎を降りるもの十数名程在りと監視のものからの報告です。

それから支配が緩んだ原因とされる魔窟の柱に出来た(ひび)ですが、依然進行が続いているとの事です』


 監視は【遠見】の御業を持つものがそれぞれ幾つかの場所を監視している。

 中尉は存在しなくなった髭をつまむ仕草をしながら答える。


『わかりました。直ぐアワーディアル中将に報告なさい。それから降りてくるものたちの特徴をつぶさに調べなさい。どんなことでも』


 中尉は思う、『そろそろ開放されて”旅立ちの園”へ行きたいわね』

 彼らは未だに魔窟の支配下にある。

 そしてフェンバーン大尉からの定時連絡が途絶えている事に思いを()せる。



---


 アリアは忙しいのだ。異空間では楽器演奏の試作や踊りの振り付けを研究し、外では52名ほどの光幻たちを演技させながら曲がりくねった巨大な岩柱を降りる。既に【分裂思考】の御業を獲得していると自分でも気づいている。ならばそれに慣れなくてはと更に負荷を掛ける。

 52名の視界をぼんやりとだが常に意識する。常時鳴らしている聞こえない音を少し聞こえるように調整して、音の感覚から周囲を立体的に把握する。御業の欠片を感じ取った物の気を探る感覚を他にも使えないかと模索し留意(りゅうい)する。


 何かに監視されていると研ぎ澄まされた感覚が警告を出す。感覚を手繰(たぐ)ると気の類いと思われる薄い線が光幻たちに当てられている事がわかる。これは何らかの御業を使った監視である。以前だったら気づかなかっただろう。位置は分かったが溶岩流の向こう側であった。どうやって骨の分際で渡ったか知らぬが今は捨て置くしか無い。


『骨兵たちに魔窟の支配が残っているのでしたら、心が残ってらしても話し合いは結局無駄でしょうね。必ず攻撃を仕掛けてくると見て良いでしょう。

 でしたら気をつけなくてはいけない事は、相手様方が兵の消耗を意識しない可能性があることね。

 そして此方(こちら)の戦い方、持っている御業を探ってくるわよね。

 探られてばかりは嫌ですわね。此方(こちら)彼方(あちら)様方の戦力を探りたいですわ。

 この光幻隊を分割して出方を探ってみるのも面白いかもしれませんわ。

 どれだけ大気の支配圏を広げられるかが鍵ですわね』


 アリアの意識するのは母親の圧倒的な範囲を誇る大気の支配である。数万の兵がいる戦場全体を覆ったと言う。それがその場に居る兵たちにとってどれほど信じらない事かだったか想像できる。自分がまだまだ届かない事も。



---


 アリアは光幻たちを無駄に……もとい偽装のもと演技させていた為、時間は掛かったが(ようや)く平地に降り立った。

 此処(ここ)は溶岩の河と地下水の河の中州……ではないが孤立した位置にある。だが真っ直ぐ進めば聖光が漏れ出る珊瑚のような怪しい薄紫の柱に辿り着く地続きではあるので問題ない。


『しかし何故こんな所に森があるのでしょう。陽光がなくても育つのかしら』


 そんな事を考えていると、アリアは遠くから聞こえてくる音を知覚した。それは何かを追い立てている。


『光幻兵……うーん光兵を16ずつ二組に分けて手前に迫るものと追い立てるもの同時に攻撃しましょう。ああ、そうだわ、どうせ隠れる場所が無ければ目立つ姿ですし両側は河と溶岩。派手に行きましょう』


 あれだけ探り合いだの慎重にだの考えていて結局これである。考えていた作戦が早々に潰された事が余程お気に召さなかったと見える。

 30体の光兵以外に10体が四方に分散し、アリアの掌握圏内ギリギリの位置へ移動して音楽を響かせる。先程、異空の中で(ようや)く満足の行く吹奏の音が奏でられるようになった所である。たぶん外で鳴らしてみたかったのだろう。


 40体の光兵がそれなりの音量で演奏音を響かせる。大音量である。全ての大量の反響を受け取り精査する。異空間で安心できる状況でなければ厳しかっただろう。だが掴めた。骨兵たちの本陣が何処にあるかを。


『先ず接敵したのは蜥蜴(とかげ)のでかい奴、だいたい3m位かな人の動きに拘る必要無いですわよね』


 アリアは身体系の御業を2つ持つ為、よく理解しているし注意もされてきた。だが光兵にはその括りに無い。光の影が空気抵抗やら重力など色々無視して通り過ぎると蜥蜴は次々と崩れていく。ただし殲滅する気は無い。方針は変わった道を作るだけだ。


『次は骨兵、知覚される前に倒して行きましょう』


 もう一体一体探って虚しさを噛みしめる必要は無いのだ。というか今は先に進むのが先決、最短の道を作らさせて貰う。


『構えていると先手を取られてしまいますから知覚した以上は最適に殲滅しますわ』


 アリア自身も移動を開始する。

 流石に戦闘と演奏を同時に繰り広げるのは手一杯なのだが、アリアの肩にはまだ小さな光幻が座っている。

 気に入ったようだ。





---

修正記録 2017-02-22 22:56



其処(そこ)でアリアは(ひらめ)いた。


幾つかの改行追加


「そんなアリアの横道(よこみち)は置いといて、」追加


決して趣味ではない……。 → 決して趣味ではない……はず。


幾つかのルビ追加


そして彼の元に監視の任 → そして彼の元に監視の中継の任


監視係は → 中継係は


「勿論この部隊にも【遠話】の御業を持つものは2体いるが、あらゆる方面部隊から入る情報の管理と離れた位置で情報収集にあたる部隊員の中継をこなしている。

 だが男の一番の目的は彼の長年経験上からくる部隊要員の分散であった。偵察部隊は弱い。だから発見されないこと、攻撃されないこと、攻撃されても逃げて情報を伝えることを信条に置く。」追加


脱字・誤字修正


一部アリアの思考部分を『』で括る


柱に辿り着く → 薄紫の柱に辿り着く


「考えていた作戦が早々に潰された事が余程お気に召さなかったと見える。」追加

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修正記録 2017-02-14 17:32

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ならばそれに慣れなくてはと負荷を掛ける。

ならばそれに慣れなくてはと更に負荷を掛ける。


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何かに監視されていると感覚が警告を出す。

何かに監視されていると研ぎ澄まされた感覚が警告を出す。


---


感覚を手繰ると気を使った薄い線が

感覚を手繰ると気の類いと思われる薄い線が


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アリアの方にはまだ小さな光幻が座っている。

アリアの肩にはまだ小さな光幻が座っている。

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