110支え合う
アリア殿下に確りと掴まれて居るリーシャの後ろから、更にしがみ付いて来るものが居た。
「うぐ、ラクス様、私たちを支えて頂けるのは有難いのですが、抑波が来ると云うのに梯子へ身を置いた儘で居るのは危なくないですか?」
「ん、私も危ないと感じたからこそ、確りとした場所にしがみ付いて居るのですわよ。ほら1本だと簡単に倒れますけれど3本なら安定するのではなくて?」
「否、3本と喩えた時点で、確りとしてないではありませんか。もう、本当に危ないのでちゃんと掴まって居て下さいね」
此の様にアリア殿下が御座なりな対応を執る訳は、未だに潜望鏡を覗き見て居るからである。
ラクス様も其の様な心許無いアリア殿下を見兼ねてか、支えに来たのであろう。屹度。
「中央上部の操舵席より連絡、水深90cmに上昇しました」
「=前方部より連絡だよ! 若干注水して見て様子を見るよ!=」
「巨大な魔落とやらは前方70mを横切るのですわね。今、潜泳機は北東へ向かって居るのですから、北西若しくは南東の何方かから来るのですわね。まあ! 然う言えば其の事を聴いて居りませんでしたわ! イザベラ何方から来るのですか?」
「少し御待ちを頂けますか。……はい、右から左に進み西北西へ向かう様で御座います」
「判りましたわ。右から……んん、暗くて能く見えませんわね。……あら、彼でしょうか何か波の様に盛り上がって近付いて来ますわ。リーシャ様、彼ですよね?」
「何れ何れ失礼しますね。はい、記憶に在る背鰭が見えて居りますから間違いないです。彼が巨大魔落と私たちが認識して居りましたものです。此方に向かって来る様子は無さそうですね。はい、どうぞ引続き台覧賜りませ」
「ええ、成る程、彼の波が此方に迄届く際が、危険と謂う事ですのね。そして此の潜望鏡で見遣る限りでは、実際の大きさが判り難い様ですわね。ふむふむ。此方は……噫、矢張り未だバルパルさんは諦めて居りませんですのね。素晴らしいですわ! おっと、辛い事ですが我慢ですわ!」
「……」
「=前方部より緊急連絡、総員、此れより波が来るので注意せよ=」
「此の距離で水中からでも見えるのですか?」
「私は此れだけ近付けば御業で見えますが、操舵席の方たちであれば影を認識できる程度ではないでしょうか。状況把握はマギーの監視報告で得て居るかと存じます」
「其れも然うですね。あら、特に見せ場も無く通り過ぎて往きますわよ。まあ波は置いて行きましたけれど」
「いえ、見せ場が在っても此方は早々に退避しましから、御期待致されていらせられる光景は望み薄だと存じます。中央上部の操舵席より連絡、水深90cm変わらず維持してます!」
「ええ、残念ですが致し方無いですわ。あっ、待って貰えますか? 中央上部の操舵席より連絡、皆様、波が到達しますわよ」
リーシャが伝声管の蓋を閉めようとするとアリア殿下は其れを止め、自分もと許りに連絡事項伝える。実に満足そうだ。
潜泳機は波に乗る事で大きく機体を上下する。海原で船の揺れにも乗り慣れて居るのか、それとも日頃から行って居る飛翔板を乗る訓練の賜か、エミリアたち近衛騎士の面々は涼しい顔で立っている。
「中央上部の操舵席より連絡、此方波の影響無しですが水深1m20cmに下降しました」
「=前方部より連絡、此れより反転して深度を更に深めた確認を行う。潜望鏡は収納するように=」
「中央上部の操舵席、了解しました。ではアリア殿下、もう潜望鏡を仕舞いますね。と言うか二人共もう波は過ぎたので、そろそろ離して頂けませんか?」
「あらあら、沈んで往く潜望鏡にバルパルさんが何か訴え掛けて居るのですが、全く聴こえませんわ。マギーさん守り抜きましたわね。後で褒めて置きましょう」
「其れは善き事ですね。ミーアの悔しそうな顔が目に浮かびます」
「エミリア隊長、其れは人が悪いと言うものですよ……」
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修正記録 2017-06-16 06:42
どうぞ御高覧頂けますか → どうぞ引続き台覧賜りませ
訓練の賜か → 訓練の賜か
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修正記録 2017-06-16 05:51
句読点を追加
今は北東へ → 今、潜泳機は北東へ
何方かですわね。然う → 何方かから来るのですわね。まあ! 然う
向かう様です」 → 向かう様で御座います」
「あっ、待って貰えますか? 」追加
リーシャが蓋を → リーシャが伝声管の蓋を
120cm → 1m20cm
前方部より緊急連絡、此れより反転して → 前方部より連絡、此れより反転して
深めて確認を → 深めた確認を