108其れを見る為に
潜望鏡の左右に伸びた握り棒、其れを握り持ってアリア殿下はぶら下がる。否、辛うじてではあるものの右足は足置き場へ確り残して居るし、リーシャも必死に支えて居るのだから、本人の云う通り大丈夫ではあるのかも知れない。
抑、潜望鏡は後付なのであるから足置き場や操舵席は其れを以て想定してはいないのだ。色々と改善すべき点は多いようである。
「皆さん本当大げさね。ラクス迄昇って来て仕舞ってますのね」
「取り敢えず潜望鏡を回転させて元の位置に戻しますので、アリア殿下は確りと掴まって居て頂けますでしょうか?」
「ええ、私は問題ありませんわよ」
リーシャはラクス様に服をむんずと掴まえられ乍ら潜望鏡をくるりと回し以て、アリア殿下の体を操舵席側へと持って来る。
「リーシャ様、助かりましたわ。此の潜望鏡は後ろも見れるように為って居りますのですが、矢張り後付の所為も在ってか、座席も足場も其の作りには為って居りません様でしたわね」
「恐縮に存じます」
「いえ、責めて居る訳では無いのですわよ。私が送ったものなのですから、本来、其の特性を知って居りまして当然でありますし、寧ろリーシャ様が先に試されて仕舞い、此の様な事に為らないで良かったと思って居りますわ」
「恐悦に存じます。成人男性の大きさでも邪魔に為らないようにと、ゆとりを以て空けて取付けて居りましたが、足元が疎かでは意味が有りませんでした。此れを踏まえ今後に活かしたい所存です」
「経験を以て糧と為す。態とらしい罠を張って経験させる風習は好ましくありませんが、偶発に起きた経験を活かす心得は好感が持てますわ。慎んで励みなさいませ」
「畏まりました」
「其れは扨措き、後ろは如何遣って見遣りましょうか? 今直ぐにと改造する訳にも行きませんわよね」
「はい、其れなら此の座席は横の安全金具を引くと、前後に動かして位置を変える事ができますので、一寸狭く為りますが足置き場に立って後ろを見れば宜しいかと存じます」
「其の様な事が可能なら、最初から位置を変更して置いても宜しかったのではなくて?」
「うっ」
「ラクス、事が起きないと気付けない事、判らない事が多々あります。確かに前以て対策できて居りましたら其れに越した事は無いのですが、潜泳機の様に殆どが未経験・未知のものでは中々難しい事でもありますし、其れ等を確認する為の場が此の試乗なのですのよ。況して後から斯うして置けば良かったと、責めるのは詮無き事ですわ。次からはと提案する事が望ましいと思いますよ」
「配慮至らなき事、畏れ入ります」
「取り敢えずですね! 座席を移動するには一度下迄降ろすか……」
「降ろすか?」×2
「いえ、復、危ない行為なので提案を控えようと存じまして」
「許します。謂って見なさい」
「……はい、座席の安全金具を引いた状態で、ラクス様に押して頂ければ上に在る状態でも位置を変える事ができます」
「宜しいですわよ。許可致しますから遣ってみなさいませ」
「……」×4
「致し方御座いませんわね。リーシャ様、アリア殿下を確りと抑えて置いて下さいよ」
再びエミリア様が下で構えている。何時いらせられても問題ないですよと謂わん許りである。
「……善処に努めます」
「行くわよ! えいっ! えいっ!」
ラクス様は鉄の梯子に掴まり乍ら、操舵席をゆっくり前へと押すと「ガー」と音を立てて前へ前へとずれて往く。
「あっ! 其の位で止めて頂けますか」
潜望鏡はアリア殿下にしがみ付いて居るリーシャの真横擦れ擦れ迄来て居た。確かに此れだと普通に使おうとすれば支障が有るかも知れない。
「一応、此の位置であれば足置き場に立って、潜望鏡を回し見れると存じます」
「はい、では早速見てみましょう」
「リーシャ、其の儘アリア殿下を抑えて置きなさい」
「はい、エミリア様」
「あらあら、未だマギーさんとバルパルさんの攻防は続いて居たのですね。まあ、此れが見たかったのですが。陽動を巧みに織り交ぜて居りますが、矢張りマギーさんを出し抜くには至りませんわね。……ん、マギーさんもバルパルも何かに反応致しましたわ。彼の合図は知って居りますわ。止まれですわね」
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修正記録 2017-06-14 07:50
責めて居るのでは → 責めて居る訳では
知って居て → 知って居りまして
対策できていれば → 対策できて居りましたら
あります。況して
↓
ありますし、其れ等を確認する為の場が此の試乗なのですのよ。況して
許可します → 許可致します
「陽動を巧みに織り交ぜて居りますが、矢張りマギーさんを出し抜くには至りませんわね。……」追加