106監視だけじゃないんだよ!
「此方中央上部の操舵席です。リーシャが戻って参りましたわ」
「よっと」
リーシャは態態操舵席の右側、詰まり梯子の無い側から器用に手を掛けてするりと椅子に座り込む。
此の年齢特有の捷さだろうか、体が軽い分自由に動ける事が多く、つい大胆な行動に出て仕舞う。と謂う訳では無く単にラクス様が空けた座席の隙間が右側であり、リーシャが最初、ラクス様の座り易い様に空けた座席位置が、梯子近くの左側だっただけなのである。うん、実にどうでも良い話だ。
「御帰り遊ばせ。あら、動き出した様ですわよ」
リーシャが中央上部の操舵席に戻ると潜泳機は旋回を開始しており、どうやら何時もと同じ様に北東に向けて推進するらしい。
此の前、遣った飛翔板訓練では彼の巨大な魚の魔落に追われたり、大波を作業場へと流し込んでベイミィの機嫌を損ねて御冠を曲げて仕舞ったりと、リーシャに取って陸な事が無い航路ではあるが、近場で多少ではあるが土地勘も有って其れなりの直線距離も稼げる試乗に最適な場所なのだ。
アリア殿下を乗せての潜航だから尚更慎重を期す必要がある。新しい場所の探求なんてとんでもない事なのだ。
「扨、潜航の際には新しく取付けた外水注入装置の動作確認が行われますし、此処と前方部の操舵室にある水深計や水圧計の動作確認もありますね。ああ、後、気圧計に空気循環機の調整は此処で行いますよ」
「随分と自慢げにすらすら専門用語が出て来るのですわね。此の分だと貴女たちは復騎士訓練を其方退けで、組立作業に没頭して居たのでしょうね」
「うっ、朝と夕方の訓練は欠かさずに……」
「まあ、宜しいですわ。気圧計と空気循環機は飛翔機の訓練で習いましたわ。確か高高度飛翔の時に空気が薄くなるから、完全密閉した機内に循環比率……空気の入出比率を変えて空気濃度を地上と同じぐらいに保つ為の装置と計測器よね。だけど潜泳機だと水中に潜るのよね? 何で空気循環機とか気圧計が出て来るの?」
「はい、空気の薄い高高度で飛翔機の機内を密閉して居ると空気が足らなく為る様に潜泳機も亦密閉空間ですから空気が足らなく為り、其れ処か供給する事すらできません。其処でどうせ重りが必要なのだからと空気も空気循環機で容器に圧縮して詰め込み重りとして仕舞い、其れを機内で循環する事で長時間の潜航が可能と成った訳です。だから気圧計は室内と容器内を測るものが別々に在るんですよ」
「うん、解らないわ」
「=此れより外水注入装置の動作確認を行う。各計器の確認と記録をするように=」
「あら、始まる様ですわね。此の作業には、どんな意味が有りますの?」
「……此の潜泳機は飛翔板の様に表面が硬く重い鉄で覆われ居ますが、内部が幾つもの区画に分かれた空間と為って居る為、水に浮きます。本来なら此の浮いた状態でも良いのですが、潜泳機は水に潜って水上からでは到達できない場所へ往く為に造られたものですから沈める必要があります。其処で水を内部へ注水する事で沈む迄に達して居ない重量を水で確保する訳です」
「うん、解らないわ。取り敢えず船を態と浸水させて沈める様なものね」
「……はい、そんな感じです」
「あ、沈み始めましたわ!」
「換気口を閉じます」
「そんなものが開いて居たのですか、まあ空気は必要ですわね。ああ、此処で空気循環機が稼働するのですね」
「はい、もう少し後に為りますが」
「じわじわと水が迫ってきますわ。何だか胸がどきどきして来ましたわ」
「中央上部の監視窓近く迄沈みました」
「=外水注入装置の停止をお願いだよ! 潜舵を俯角5°=」
「あら、浸水が止まった筈なのに急に沈んじゃいましたわよ。水中は水面から見える景色と全然違いますのね。すっきりとして居て陸上とは違いますが透明感が有りますわ」
「はい、潜舵と言う胸鰭の位置に在った短い翼を下に向けて水の力で沈んで居ます。水面は波とかで歪んで見えるのかな? よく知りません」
「其の翼の役目、揚力とは又違うのかしら?」
「空気と水の違いだけですから同じ揚力で考えて良いかと思いますよ。水の方が揚力から受ける力が大きいですね」
「=潜舵を0°、横舵の調整にて水平を維持するよ!=」
「=現在、前方部の水深計3mです=」
「アリア殿下も参加していらせられるのですわね」
「中央上部の水深計、1mです」
「あら、前方部と此方で水深計の位置が違うのですね。って何ですか其の上から下ろしてきた器物は? 一寸驚きましたわよ!」
「潜望鏡?」
---
修正記録 2017-06-12 07:19
「此方中央上部の操舵席です。リーシャが戻って参りましたわ」追加
幾つかのルビを追加
時間潜航 → 時間の潜航
別々に在りますよ → 別々に在るんですよ
各計器確認 → 各計器の確認
中央上部監視窓近く → 中央上部の監視窓近く
外水注入装置を停止を → 外水注入装置の停止を
止まったのに → 止まった筈なのに
水面 → 水中は水面
横舵調整にて → 横舵の調整にて