105交渉
暗闇の帳に隠されて居た筈の地底湖は、今や100m以上の視界を照らし出して居る。
以前であればマギーさんに30m程先行して貰って居たのだが、此れだけ視界が確かであれば周囲を自分たちの目で見ても十分判断できる筈だ。
『バルパルとの距離、50mを間もなく切ります。減速を願います』
「了解! バルパルとの距離50mに接近、減速を開始するよ!」
うん、判断というかチェロルは目標を認識して居たかも怪しいぐらだ。
「ああ、居りましたわ。少し左手ですわね。喫水線が微妙な所に在りますから、少し下げて置いても宜しかったのかしら」
「まあ、単独航行でしたら然うでしょうが、今は先導が居ります故、特に問題は無いでしょう」
「ええ、理解しましたわ。リーファ様、確かに潜泳機の場合は自らの視界に頼った航行よりも、先導や水中音声蒐集機の情報から判断しての航行を心掛けた方が宜しいですわね。然う言えば背鰭みたいな監視所は、先程の接近を把握して居たのかしら」
「はい、姫様。減速を開始するのが遅いと確認の連絡を入れるべく、蓋を回して居られた処で減速に至った模様です」
「……蓋も安全策には欠かせませんが、もう少し取り回しの良いものを開発せねば成りませんね。ルトアニアへ戻ってからの課題と致します。ところで、マギーさんは此の潜泳機が来る前の未だ暗闇の状態ですら、400mの距離を見通して居りましたが、他の方というか普通は何の位のものなのですか?」
「ふむ、普通はと言うか私は其れなりに鍛えて居りますが、100mが限界でしょう。リーシャで多分300から400m、マギーさんだと500mは何となく把握して居りそうですし、ハンナ様だと600m以上だと予測して居ります」
「成る程……まあ! 彼がバルパルですか、尻尾が太くて蜥蜴みたいですけど、ん? 平べったいのかな。愛嬌の有る顔ですわね」
「リーシャ、外に出てバルパルと交渉して呉れないか? 我々と一緒に散策をして呉れるなら後で狩に付き合って遣るぞと」
「=はい、了解致しました=」
「リーシャ様は従魔と会話できるのですか?」
「ええ、従魔は知能が発達して居る個体が多いですから、気合で行えば意外と通ずるものですよ。リーシャやチェロル「ひゃい」……ああ、何でも無い済まないな。此の2人はメルペイクと常に接して居るからか、特に意志の疎通が遣り易い様です」
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ラクス様とリーシャは後方部の部屋に居た。
「予備の飛翔板ですか?」
「ガチャ」
「はい、よっと、どうせ重量を増やすなら置いて在って問題ないかなと思いまして。但、力作を置くとチェロルが持って帰って仕舞うので困りものなんですけどね。では行って来ます」
「中々些細な事でも大変ですわね。行ってらっしゃい」
「ガチャ」
「カチャ、カチャ」
「唯今戻りましたわ。あら、メアリーさんはアリア殿下にお茶を御出しに行って居ましたのね」
「はい、丁度良い頃合いかと存じまして、矢張り姫様の体調管理をしない訳にも行きませんから、機会を待って居りました」
「本当然ういった機微の判断力は関心させられますわね。此れを回せば良いのよね。おっ、おお」
メアリーもイザベラ様も微笑ましく見守って居るのだが、洗練された此の2人に於ては噯にも出さないのである。
「ラクスは監視任務の引き継ぎですね?」
「ええ、此処には窓硝子も在りますから、私の【水晶】とも相性が良くて外に気を送る事も容易いのですわよ。うん、リーシャと従魔さんは傍から見れば何だか丸で本当の会話をして居る様に見えますわね」
「どうやら交渉が纏まった様ですね。後でバルパルが狩りへ往く時に囮役をすると云ったら、喜んでご機嫌さんだとか本当に言葉を理解して居るのでしょうね。あらあら、アリア殿下が狩りに参加する事を表明遊ばされました様ですね」
「如何あっても魔落を其の目で見たいと謂う事ですか?」
「ええ、現状だと此の潜泳機に恐れを為して近寄らないそうですから、何方にせよアリア殿下は一計を練っていらせられたと思いますよ」
「確かに、矢張りリーファ様の様に護衛が増えたと喜ぶべきでしょうか」
「カチャ」「カチャ」
「唯今戻りました。って上がって居るし」
「お疲れ様でした。此処迄昇っていらっしゃい」
ラクス様がぴしゃりぴしゃりと座席を叩くのをリーシャは眺め、ふうと一息吐き鉄の梯子を攀じ昇り始めた。
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修正記録 2017-06-11 06:18
暗闇に帳 → 暗闇の帳
筈。 → 筈だ。
幾つかの句読点を追加
「ラクス様とリーシャは後方部の部屋に居た。」追加
監視任務 → ラクスは監視任務
リーシャと従魔 → リーシャと従魔さん
丸で会話 → 丸で本当の会話
ラクスがぴしゃりぴしゃり → ラクス様がぴしゃりぴしゃり