104聞かれてますよ
「――くっ――」
「――隧道の近くに居ると外の声が良く通って聴こえるものですね。リルミールの教育は私が直接行います。宜しいですね――」
「――はい!――」×2
「――はい! 私も配慮するべきでした。今後は私も目を掛ける所存です――」
「リーファ様、既に連絡が届いて居るかと思いますが、南西400mから神官長の従魔が近付く件は如何致しましょうか?」
潜泳機前方部の部屋、操舵席の横でアリア殿下の警護を努めるエミリア様はそう尋ねた。
「地底湖に出たら進路を南西に向けて進行。200m程進んでバルパルと会する前に停止。食べ物を貰えるかと期待して居るのか、単純に興味を示して居るだけか、何れにせよ付いて来るなら合流して見るべきだな。若しかしたら護衛を手伝って呉れるかも知れんな」
「神官長の従魔ですか、確か魔落狩りをして回游して居るのでしたわね。バルパルに逢うのも目的の一つですわ」
其の傍らで別のことに集中して居るもの、ベイミィが思わず呟いた。
「はあ、此れは凄い性能ですわ」
「何か聴こえましたのでしょうか?」
「え、ええ、アリア殿下、水面上の直ぐ前に居るハンナ様たちの会話と少し離れた水路の外、地底湖に出て居るティロットとリルミール様の会話が、其れ其れ殆ど差が無く悉に聴こえて参りました」
「内容はどういったものだったのですか?」
「正直、友人を売る様で心苦しいのですが有り体に要領を纏めて申し上げれば、警戒任務で探査報告中のティロットに自分の報告其方退けで、リルミール様は飛躍した御業の起因を尋ねて居たのですが、其の一部始終が隧道を通してハンナ様に伝わって居り、多分ハンナ様直々のきつい御説教と御指導が決定した様子で御座います」
「大丈夫ですよ。ハンナ様が自ら指導を為されるのは、もう少し前に決まって居りましたから、何ら気に為される事はありませんわ。ですが流石はリルミール様、是非とも此の話題に事欠かない個性を伸ばして欲しいものですわ」
「それでしたら、お気の毒ですが致し方御座いませんですわね。確かに彼の様な方は貴重ですから、めげずに此れからも頑張って頂きたいものですわ。――御任を、彼女の残念小話は悉に御報告させて頂きますわね――」
心苦しいと云いつつすらすらと淀みなく応え、一方、何が大丈夫なのか分からないが、アリア殿下とベイミィの2人は笑顔で微笑み合う。其の姿にリーファ様もチェロルもどん引きである。否、エミリア様も若干顔を顰めて居る気がする。
「然うですか其処迄状況を理解できる程に聴き取れるものなのですわね。ところで、ベイミィ様は此れを……水中音声蒐集機を何の様に使うべきとお考えでしょうか?」
「然うですわね……。私の【器用繊細】に依存するのですが、今も後ろから水上を滑走するハンナ様や騎士の方々、そして此の潜泳機が水音を立てて居るのが聴こえて居ります」
然う云いつつベイミィは紙に何やら書き綴り、納得したのかうんと頷き回答を出す。
「音の強弱で大凡の距離が判りますし、僅かな反響を聴き取り慣れて来れば周囲の地形も把握できるかも知れませんわ。但、音を単純に拾って居るだけなので、音源の方向を掴み兼ねますわねぇ。此方若しくは対象の移動から計算して推定できなくも無いですが、判定するのに観測数と時間を要し結果も曖昧かと存じます」
「方向ですか、それでしたらいっその事此方から指向性の音を出して仕舞って、方向を変えて行くことで反響の強弱を判定すれば宜しいのではありませんか?」
「指向性の音? ああ、蓄音魔器、彼の花の様な金属の広がりが向いた方は聴き易いのに後ろ側は余り聴こえないのでしたわね」
「ええ、チェロル様「ひゃっい!」……いえ、操舵に集中為さって、あら、随分遠く迄見通せるのですわね。……此の新式気灯の発想に通ずるものがありますわ。光を集め指向性を持たせた様に、音も向ける方向に因って伝わる量が変われば、反響音の聴こえ方が移り変わり、其の様子を吟味すれば方向の判断材料にできるのではなくて?」
「はい、其の通りだと存じ上げます。実現すれば雨の日の濁った水中でも潜航可能と成るやも知れませんわ」
「進路を南西に向け進行しますです!」
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「神官長の従魔が南西方向に居るらしいよ。一先ず其処へ向かってから次の行動を考える様ですね」
「バルパルですか獺の従魔で太太しくて可愛いですよ。イザベラ様」
「リーシャ、何で太太しいが可愛いに為るのよ」
「ラクス様、リーシャ様の従魔を思い出して頂ければ自ずと答えが導かれると存じます」
「え、彼の太った雀? 否、何で貴女迄膨れるの? えい、えい、あら、綺麗ですわ」
リーシャの膨れた頬を突いて居たラクスの目前には、潜泳機の前方に付けられた大型気灯の光で煌煌と輝き水面がきらきらと揺れて居る。
ミーアとマギーの水上滑走に因ってできた波紋なのだが、其れは別にどうでも良いだろう。
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修正記録 2017-06-10 07:37
飛躍した → リルミール様は飛躍した
――彼女 → ――御任を、彼女
「。実現すれば雨の日の濁った水中でも潜航可能と成るやも知れませんわ」追加
がキきらきら → がきらきら