103警護
2回目となれば手順も注意事項も或る程度はでき上がって居るもので、マリオンは早々にミーア様へと引き継ぎを済ませて奥の階段から新しく増築した部屋、遠隔気力通話器を設置して居る言わば通話室へと配置した。
ハンナ様から何ならリルミールを留守番に置きますよと提案されて居たが、他の時ならば其れでも良いけれど、アリア殿下を乗せた潜泳機との中継任務を帯びた連絡員としての待機ですから、責任は重く若し問題が発生でもしたら些細な事であっても確りと対応しなければ為らないのですと断ったのだ。
ハンナ様としても此れ程重要な護衛にリルミールとティロットの2人の新米を連れ往くより、熟練の騎士たるマリオンに来て貰った方が安心なのだが、確かに其方も重要であるからして難しいものである。
作業場で天井の大型気灯の明かりを消したのはティロットである。ミーア様がイザベラ様から連絡を受けた時には既に向かって居り、声を掛けると直ぐに消して呉れたのだ。
石祠を斬ったとぽろぽろ泣いて居た若い騎士だが、イザベラに通じるものが有るかも知れないと認識を改めるのであった。
そんな事を考えつつあるミーア様だが、引き継いだ段取りを熟さなければ為らない。何時ぞやから閘門は、作業場と水路の隧道(トンネル)を完全に隔絶する少し大きい岩板と為って居た。此れを一度2つに分けてから退かす必要がある。といっても【岩】の御業を持つものであれば継ぎ目を消すだけなのである。
「[岩よ其から去ね]」
ミーア様は壁に手を付けて【岩】の御業を以って正確に調べると、壁と岩板、そして2つの岩板を繋ぐ接合素材として敢えて変えられた異質の岩を探り当て消したのである。
2m弱程ある岩板と8mの岩板が同時に退けられ宙を浮き、其の儘片隅へと避けられる。
「イザベラ、閘門岩を退けました。序で地底湖の出口を塞ぐ岩扉を開けに参りますと、其の様に伝えて」
勿論、マギーも【念話】でリーファ様やチェロルに伝えて居るが、イザベラは専らエミリアやミーアと念話をして居るのだ。
ミーアは飛翔板を水路に浮かべて飛乗ると勢い良く滑り出す。此の試乗を始めるに当たって念入りに話し合ったのだから、水上を飛翔板で滑走すると魔落が気付いて、寄って来ることぐらいは聴いて居る。
だが誰かさんが大波遊びをして以来、岩の扉は成る可く閉める事と為って居る。
それに潜泳機の試乗をして居る間の警護は、水上に浮かべて推進すると決まって居る。
まあ、平たく云えば囮である。といっても、”来るなら此方を目指して下さいね。釣れたら其の儘斬って捨てるだけですよ。”の意味が含まれて居る。
但、水中の音を理解して居るのであれば12mは有る其れなりに大きい潜水機が、水を掻き分け移動するのであるから正常な判断力が備わって居れば、本来近付きはしないであろう。
ミーア様の後ろにはマギーとティロット、リルミールが続く言わば先行部隊に類する形だが、実質ミーア様とマギーが戦力で残り2人はお荷物と為り兼ねない。
残り4人、ハンナ様率いる熟練の騎士たちは後ろを固める訳だが、若し此れだけの群を襲って来るものが居るのなら、其れは後ろからだろうと皆の意見が一致しての配置である。況して不慣れな新米騎士は後方警戒が疎かに為りがちなのだ。
ハンナ様がリルミールを下げたかった理由が此の事に有る。詰まり先行部隊の編成が薄く為って仕舞って居る為、補強したかったという事である。
「イザベラ、岩扉を開けて周囲を確認して居ます。ん、マギーさん何でしょうか?」
「南西400m程の位置に神官長の従魔が壁近くを泳いで居ります。懐中気灯の光で此方に気が付いて向かって来て居りますが、特に気に致さなくても宜しいかと存じます」
「水深20mしか探れて居りませんが、異常なしであります!」
「――えっ! 私が15mしか探れないのに同じ【海水】よね? どういう事なのよ?――」
「――此間から此処で頑張って練習してました!――」
「――くっ――」
「……イザベラ、異常は無いが神官長の従魔が南西400mの位置から此方へ向かって居るそうだ。判った。此の儘潜水せずに南西に200m程進むそうです。四方を固めて警護します」
「了解!」×3
次回は、この会話の続きとなります。
思いついた展開が600文字を超えそうだったので、諦めました。
忘れないようにと昨日さらっと書いた文字が400文字でした……。
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修正記録 2017-06-09 06:10
此方 → 此方