100席決め
はい、皆様は色々な手段を講じてアリア殿下を御止めしようと試みて見たものの、一見してはにこにこと愛想の頗る良い表情なれど、尽くけんもほろろに断られただけである。
むむ、と眉根を寄せ乍ら考え込んで居たエミリア様は、漸く決心が付いたのか必要な情報を集める事にした様だ。
「リーファ様、此の潜泳機とやらは何名乗れる想定ですか?」
「座席は5脚だが空間としては20名は入ると聞いて居るな。だが入れ過ぎても身動きが取れなければ護衛の意味が無い。アリア殿下の潜泳機試乗を認めるのであれば、無駄な配置は避け無ければならないからな」
「其れは具体的に如何すれば良いと謂うのですか?」
「潜泳機の様な狭い空間の中では護衛が機能するのは、3名が限度では無いか? 然も座る場所に依って変わるぞ。前方部の部屋は1名しか護衛に付ける空間が無いから、残りは中央の部屋で木偶に近い門番だろうな。中央部の部屋に在る座席は本来見張り台に近い操舵席で、危険性も一番高い場所だが周りに護衛を置けるし3名以上でも問題は無い。まあ、増えても余り機能はしないがな。後は御業の能力次第だろうから、中を確認して考えて見ると良い」
「分かりました」
「アリア殿下、試乗に参加する云々は別として、今から潜泳機の中を見学して参りましょう」
「ええ、其れは迚も素晴らしい提案ですわ」
「あ、あのう……発言、宜しいでしょうか?」
「何だ? リーシャ」
「抑、試験潜航確認乗機が中止に為った旨を伺った時点で、メルペイクを連れてきて居ないのですが……連れて来ましょうか?」
「否、其れには及ばない。今、此の場に【砂鉄】の御業持ちが3人以上は居る筈だから、砂鉄を大量に積んだ潜泳機を動かすのは問題無いだろう。確かに推進の為に動力が必要だったな。有難うリーシャ、後で気付いても格好が付かない処だ」
「いえ、滅相もないです。差し出がましい許りで」
「其れは、リーシャ様の良い所ですわ。確りと気付いた事を云って貰えるのは有難いですわよ。伝えずに後から問題と成る事の方が、余っ程困りものですわ」
「御口添え頂き感謝致します」
「構いませんわ。では参りましょう」
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正直な処、アリア殿下の御座り頂く座席決めは混迷を極めた。ハンナ様は早々に水面上の警戒に当たることを表明して、まんまと逃げ果せる華麗な貴族の嗜みを見せて頂いた。
此の儘では話し合って居ても埒が明かない為、結局の処、外せない席割りから順次決めて行く事と為った。
チェロルは断固として前方部の操舵席を死守した。操舵席に座るのは当り前だが中央の部屋にでも為って、見知らぬアリア殿下の近衛騎士と一緒に閉じ込められたら、目も当てられない事態に成るだろう。
ベイミィは「私は御暇致しますわ」と逃げようとしたら、何故かリーファ様に捕まり「ハンナ様ご推薦だぞ」と訳の分からない謂われと共に、操舵席の後ろに在る新たに備え付けられた水中音声蒐集機の席へと座らされた。ベイミィは今日も口を一文字に結ぶことと為った様である。
「リーファ様は何方へ座りになられるのかしら?」
「私は前回の試乗で操舵を行ったから正直、何処でも宜しいのです。まあ運転よりは他の事柄に注意を払いたい、といった処でしょうか。アリア殿下、前方の操舵席の方へ御座りになられますか?」
「宜しいのですか? お言葉に甘えて是非に然うさせて貰いますわ」
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「――リーシャ様、此の座席は随分と中途半端な所に在るのですね――」
リーシャはどうやら自分は此の試乗に参加しないで済みそうだと、見極めたというか高を括って居たのである。勿論、リルミールは既にハンナ様が水面上警備を表明して居る為、此方は本当に前方部の部屋で行われて居る騒動には関係無いのであるが。
「――はい、此れはですね。壁の中途に在るのは降ろし切って無いだけで、座席の横にくるくる回せる把手が在りますよね……――」
「ガチャ」
「ああ、リーシャ其処に居たのか丁度良かった。其の儘中央上部の操舵席を担当して呉れ。リルミールは外のマリオンに作業場の管理と遠隔気力通話器を担当して貰うよう伝えて呉れないか?」
「了解!」×2
「で、ではリーシャ様、ご緩りと」
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修正記録 2017-06-06 05:18
「必要な情報を集める事にした様だ。」追加
良い処ですわよ → 良い所ですわ
幾つかの句点を追加