99地底湖では何か起こる?
「では、マリオンとエミリアは先行して地底湖の状況確認を、着水はせずに御業と視認でのみするように。アリア殿下、暫しお待ち願います」
「了解!」×2
「ええ、大変素晴らしい雰囲気ですわ」
マリオンは今日、潜泳機の試乗を行うと聞いて居たので、当初から派出所へ顔を出す予定だった。まあ、来る予定が無くても護衛の人数を増やす為に、呼び出されて居たのであろうが。
ごった返した派出所周りを見て大体の事情を悟れるぐらいは、タリス皇帝陛下の好奇心で連れ回された時期に色々と学んで居る様だ。会議部屋には向かわず直ぐに降りられるようにと、色々準備して居て呉れたのである。
水面下は新式懐中気灯の性能も宜しく視認距離も伸びて居るのだが、之も然る事乍らエミリア様が着水せずに水中の状況を御業で確認するぐらい、造作も無いことなのである。
「水深20m程の位置に40~60cmの魚と見られる動く物体を3つ確認しました」
「ええ、徒の魚でしょう。此方も周りの気配に異常は感じられない、昨日と変わらず同じ状態と謂う処でしょうか」
マリオンは然う言い乍ら地底湖が問題無い事を伝える合図を示す。但、マリオンもエミリアもマギーとイザベラが【念話】で常時接続を行って居る為、粗方様式美の態……では無く、【念話】を通さずとも直ぐに伝わるようにして居るのだ。特に末端のもの程之は助かるものである。
そして、其の様子を一応だが注視して居乍らも新米と見習い騎士の2人は、少々緊張感に欠ける会話を続けて居る。
「――リーシャ様、殺気とか怒気とかの類いの察知って、もうできるように為られたのですか?――」
「――うっ、遠くから近付く魔落の気配は未だマリオン先生やリーファ様が仰られても、正直ぴんとは来ないですね。視認できるぐらい……一般人の視認できるぐらい近付けばぴりぴりする様な感覚を覚えます。此の魔窟で意識して鍛えれば他より早く身に付くとはマリオン先生も仰られて居ますから、普段から意識するようにしてますよ――」
「――わあ、じゃあ私も意識するようにします。そっかそっか良いこと聞いたわ――」
「アリア殿下、私共の教育が足らずお耳汚し致して仕舞い申し訳御座いません」
「構いませんわよ、ハンナ様。中々興味深い話でしたから私も聴けて良かったと感じましたわ。然うですか、此方で意識して鍛えれば気配を感じ取れる業が早く身に付くのですわね」
ハンナ様はアリア殿下の近衛騎士たちに心の内で謝罪した。『ご迷惑をお掛け致します』と願わくは魔落狩り云々(うんぬん)を言い出さないで呉れよ、といった処だろうか。
暗く静かで細やかに水音が聴こえる闇の中に、鋭く光る新式懐中気灯の明かりが天井から次々と降りて来る。傍目から見れば実に近寄りたくない光景だ。
水面に着かぬ微妙な位置に降り留まったのはリーファ様たち派出所の面々が7名、ハンナ様と共に急遽招集された皇太后陛下の近衛騎士小隊が5名、そしてアリア殿下と其の許に控える4名の騎士と1名の侍女である。
「アリア殿下、彼方に見える鋭角に出た壁、と言っても此の位置からでは壁しか確認できませんが、其処へ参ります。マリオン、エミリア」
「はっ!」
「――リーシャ様、何だか先程と掛け合いが違いますよね?――」
「――はい、命令の仕方に由って返事も変えますよ。手や目に由って合図が成された場合は、頷くか目や手だけで時には気配を消して応えるそうですよ。ああ、彼の合図は異常・問題無しですね。リーファ様は序で開けよですね。岩の扉で塞がれて居ますから其れをマリオン先生に開けて貰う訳ですね――」
「――わあ、成る程成る程!――」
「ふむ、成る程、実に興味深いですわ!」
「……済みません。うちの見習い騎士が教育足らずで、恥ずかしい限りで御座います。きっちりと私自ら再教育を致す所存です」
勿論、後ろで聞いて居た騎士たちはリルミールへ唯唯同情の眼差しを送るのであった。
「ですがエミリアはやけに息が合って居る様ですわね?」
「ええ、御存知御座いませんでしたか? エミリア様たちがアリア殿下の近衛騎士に成ると決まった折に、リーファ様とかマリオンとかの元タリス皇帝陛下の近衛騎士団が、どうせ暇だろうからとの一言で教育係としてルトアニアへお呼び為されたのですよ」
「噫、其れでエミリアはリーファ様に頭が上がらない雰囲気が有るのですわね。納得ですわ。ところで、魔落とやらは未だ現れないのですか?」
「……其の様に都合よく求めるものが現れるのは物語の中だけです殿下」
「――彼が中の安全確認が終わったので、来ても良いですね――」
「――成る程!――」
「……ああ、アリア殿下、もう判って居るかと存じますが、確認が終わりましたので潜泳機の作業場へと参りましょう」
「いえ、私が勝手に動いて警備に差し支えても不味いと理解して居りますわ。ええ、参りましょう」
--
アリア殿下は作業場へ入ると早速と許りに潜泳機の前へと進み往き、チェロルからの説明をにこにこ顔で聴き入って居る。其の様な折である。
「うん、本当はね! 一通りの機材設置が終わったから今日、試乗する予定だったんだよ!」
「然うでしたか、予定を狂わせるのは忍びないですわ。ええ、今回お持ちした機材の問題が取付ける前に発見できるかも知れませんから、此の際、先に其の試乗を優先して貰いましょう。勿論、僭越乍ら私もご一緒致しますわ!」
---
修正記録 2017-06-06 07:42
おっしゃ → 仰
---
修正記録 2017-06-05 07:42
以上 → 異常
「お耳汚し致して仕舞い」追加
幾つかのルビを追加(常用漢字表にない音訓)
アリア殿下の許 → アリア殿下と其の許
彼方に見える → アリア殿下、彼方に見える