95迎賓館?
其れは他の中型飛翔機と明らかに違かった。勿論装飾や装備が違うのは当り前だが、然うでは無く其れを操舵するものが誉れを受けるに相応しい腕前と謂うことだ。
洗練された動きが物語るは言わずもがな、操舵とは斯くの如し。
飛翔機は静かに其処へ着陸して推進機関を停止した。リーファ様たちや近衛騎士たちが、整然と居並び礼を執る。
上空には未だ幾つかの飛翔機が残り、編隊飛行を崩さずに旋回し続けることで警戒体制を維持して居る。
其処には荘厳で圧倒的な雰囲気は無い、と云うか微妙だ。所詮草が疎らに生える派出所裏の空き地だ。片付け忘れた前衛的な切込みが入った岩芸術が所々に飾られて居るが、其れは又別の話である。
そそくさと現れて簡易階段を抱えた近衛騎士が、其れを飛翔機の横に設置して再びそそくさと其の場を離れて征く。
護衛の任を仕ったミーア副隊長が飛翔機横の扉を開けて出て来ると、周囲を確りと確認した後にアリア殿下へ声を掛け、御守りし乍ら殿下を伴って飛翔機から簡易階段を使って降りて来る。
ミーア様がするりと後ろへ控えたのを合図に、礼を執りずらりと並ぶ皆の前迄アリア殿下は躍り出る。
「出迎えご苦労、リーファ様、ハンナ様、リーシャ様と派出所の皆様方、此の様な場です。儀礼的挨拶も言葉も抜きにして先ずは然うですわね。派出所へ案内して貰えますかしら? 其処で秘密の場所を教えて貰いますわ」
まさかとリーファ様は其の答えの示す事実を否定したかった。
「秘密の場所ですか?」
「然うですわ。私も流石に派出所で潜泳機? でしたわね。此れが開発されて居るとは思って居りませんことよ。態態派手に陽動して此処へ目を向けさせたのですから、後は陽動の騎士団を此処へ残し秘密裏に潜泳機の許へと向かいますわ! って何故其の様な困った顔をして居るのですか?」
「長旅で御疲れも御座いましょう。派出所は彼の大きな建物の横に在る小さな建物でして殿下を御迎えして安らいで頂くには不十分です。丁度リーシャやチェロルを尋ねて来られる御方々を迎える為に拵えさせて頂いた、迎賓館が御座いますので其方へ御案内致します。此処ではゆっくりと話すこと罷り通り兼ねますから」
「そ、然うですか、彼の大きい方が派出所と思うて居りました。其れで取り計らいなさい」
「畏まりました。エミリア様、迎賓館の屋上は飛翔機が数台乗っても問題ない設計と為って居ります」
「はい」
エミリア様は頷くと直ちに【念話】で中継して貰い、迎賓館? と云われる建物を警備すべく指示を出す。
そして、警備体制の変更が整ったとの連絡を貰うと、リーファ様へ礼を執って合図を送る。
「では罷り入りましょう」
「――噫、本来其処へはおいそれと入れないのね――ええ、参りましょう。折角、色々苦労して騎士団を連れて来たのに何だか無駄に成りそうですわ」
「ほう、何か色々細工為されて参りましたのでしょうか?」
「ええ、今回、飛翔機の気灯を此方に送りましたものと同じ新式のものへと変えた事で、夜間飛翔が可能と為りました。其処で12の刻を問わず騎士団単位で移動する演習も兼ねた訓練と称し、枢機院の許可を其れだけ告げて捥ぎ取っ……貰いましたのですわ」
「其れは、此方ラギストアや関係騎士団などへは連絡頂いて居りますのでしょうか?」
「……ええ、騎士団の行動詳細は私も同行致しますので、極一部の方しか知らせて居りませんわ。ちゃんと太上皇陛下、皇太后陛下、トロスト大公殿下には演習として、宮殿区画の外を通りますと連絡差し上げて居りますのよ。但、夜間演習を通して参りますので何時頃に為るかは判らないと……然う然う直前まで此の演習の話を教えられなかったら、騎士団が何の様な行動を採るか面白いかも知れないと、太上皇陛下は宣いて居りましたわ。此の土地の風土は計り兼ねますわね。まあ、此処南東側の区画は皇太后陛下が御座す所の直ぐ近くですから、宮殿側は女性皇族方の近衛騎士団が集中して警備に当たって居りますし、離宮には皇帝陛下の旧近衛騎士団が留守中詰めて居りますから、過剰警備と為り過ぎですし大して動揺はしないでしょう」
当然、ハンナ様もリーファ様も困った顔をして居る。風土と言うより皇族の血筋が悪戯というか困難な経験を以て糧と為させることが好きなのではないだろうか。
アリア殿下は豪華な裏扉から迎賓館? へと案内される。成る程、立派なそれでいて派手さを抑え適度に慎ましく気品を醸し出して居る。
「此処が迎賓館こと石祠通路隠蔽施設兼皇太后陛下管轄近衛屯所であります」
「えっ?」
---
修正記録 2017-06-02 00:44
先帝陛下 → 太上皇陛下
改行を追加
---
修正記録 2017-06-01 07:12
幾つかのルビを追加
此方のラギストアや騎士団 → 此方ラギストアや関係騎士団
「私も同行致しますので、」追加
此処南東区画は → 此処南東側の区画は
御座す所ですから、女性皇族方の
↓
御座す所の直ぐ近くですから、宮殿側は女性皇族方の
近衛隊 → 近衛騎士団
過剰警備過ぎですし → 過剰警備と為り過ぎですし