93烏合じゃない
長かった。否、今迄が早く組立てられ過ぎたのかも知れないが、滞ったと感じた一番の原因はメルペイクしか鉄の加工ができない事だろう。
勿論、穴や部品ができたら交代してリーシャたちは取付け作業を手伝うのだが、結局最後の微調整や場合に由っての埋め戻し加工はチェロルとメルペイクに頼らざるを得ないという。無駄では無いが1人と1羽に作業負担が集中し、時には其れを待つ状態が続いたのだ。
其れでも全長12m程の大きな機体に幾つかの外水注入装置を取付け、各種計測器や遠隔気力通話器を設置したのだから、職人集団の名も返上せずに済むというものだ。まあ、本人たちは其の様な別称は抑要らないのだろうが。
何だ彼んだと時間は掛かったものの延べ2日余りで漸く作業は完了した。感慨一入というものだろう。
何故なら朝稽古や朝昼晩の巡回任務を熟す以外、全て地底湖の作業場に隠っていたのだ。
時には錫の御業使いの所迄リーシャが飛翔板で駆け付け鍍金処理をした事もあったが、ベイミィが口を一文字に結び或る意味羨望の眼差しを受けて居た堪れなくて気が引けたものである。
 
「明日は早速試乗するんだよ!」
 
「おかしいですわ。わくわくする気持ちと裏腹に結局狭い密室での作業なのは変わらないじゃない、と云う陰鬱な叫びが聞こえる様ですわ」
 
「ベイミィ早く上がって巡回に行くよ!」
 
「はぁい」
 
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今日も変わらぬ朝が来ると思って居た。
夜も明けきらぬ朝まだき、勤務交代を滞りなく行って巡回の任に就く。
変わらぬ町並み変わらぬ人々に礼を受け礼を返す、此の区画は穏やかな気質の人が多いと感じるのは其の儘なのだろう。
だからこそ其の異変に変容に街のざわめきに気が付いた。
 
其れは遠く西の空に見えて居た。
若し街が西や北の貴族街であったなら何時もの風景だと切って捨てただろう。
西の空高く在る其れ等は礼儀正しく宮殿区画を避けて翔ぶ事で、迷惑を掛けぬ筈だった。
だが、其れ等が宮殿区画へ向かうのが当り前と思って居た西の貴族街住人たちは違和感を覚え首を傾げるだけである。
そして、南や東の貴族街住人たちは其れ等を見遣りて唯唯怯え慄くだけなのである。
 
其れは飛翔機と飛翔板が空に立体的に整列して編隊飛行を行って居た訳であるが、規模も大きさも今迄とは違かった。
飛翔機は10mは越える機体が9機、2人乗りの通常のものが48機、そして100人弱の飛翔板を翔る騎士部隊。
東の貴族街住人たちは其れ等が遠くで見えて居たなら、未だ少しは余裕が在っただろう。
だが住人たちが気付きし時は既に降下が始まって居り、然もどうやら其れ等が目指す目的地は此処東側の貴族街らしい。
10m余りの飛翔機が1、2、3、2、1、と菱形に配置して並び前後左右50mを越えて広がって居る。更には上下と通常の飛翔機6機づつ中央を守る様に陣取って居る。
其れだけではなく此の集団の前後左右の端にも通常の飛翔機が9機づつと此方は三角形に配置して3段積みで並ぶ。
ああっ、面倒だ! 空は四方100m近くに達する規模で積層を為して整列し埋め尽くした飛来集団に覆われたのである。
 
「リーシャ小隊長殿、彼の中央に在る飛翔機の機体に……」
 
「はい、アリア殿下の御璽が機体に見えますね。此方に向かって居りますから、十中八九間違いなく派出所を目指されて居られるのでしょう。皆さん急ぎ戻ります」
 
「了解」×4
 
「と言っても上の皆様は翔んで居られるのですから、此方が走って居ても一瞬で抜き去られますわね」
 
「ベイミィ、走ってる最中にお喋りしてると舌噛んじゃうよ!」
 
「チェロルさん、私のお喋りに持つ矜持は然う簡単に崩れないのですわ。ああ、皆様【強化付与】の御業を使いますね。力配分に十分留意して下さいませ」
 
「おー! 何だか軽くなったよ!」
 
「ベイミィ! 今度岩を斬る時に此れを私に使ってね!」
 
「……ええ、危ないから石塊からにして下さいませ」
 
「噫、矢っ張り派出所だよね。だけど……まさか全部の飛翔機を降ろす積りじゃないでしょうね。って普通に躊躇なく降り始めたか」
 
「此れだけの規模でも整然と陣形を作って並んでますから未だ増しですわね。一歩間違えれば鳥の大群ですわ」
 
「ベイミィ……不敬です」
 
「はぁい」
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修正記録 2017-05-30 07:25
組立て過ぎた → 組立てられ過ぎた
「滞ったと感じた」追加
駆る → 翔る
気付いた時には既に → 気付きし時は既に
1, → 1、
集団の前後左右にも → 集団の前後左右の端にも
積層に整列埋め尽くして並んだ飛来集団
↓
積層を為して整列し埋め尽くした飛来集団




