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アリアは知らない  作者: taru
四章 リーシャ編
110/345

91困ってますか?

 困ったものである。本当に()う言いたい御方(おかた)此処(ここ)にも居た。

 クラウト・デンバンサー中隊長殿である。()がり(なり)にも、では無く正式に(しか)も他と比べても可也(かなり)早い段階で昇進して()る方なのである。

 彼は仮にも……曲が……(もと)い、ちゃんと武闘大会を優勝した実績を持ち管理官の推薦もあっての中隊長であるのだが、片や()の武闘大会でクラウトに唯一善戦した、(いや)展開に()っては勝者とも成り得たと()われるラクス・ラクトールは、元より持つ木の飛翔板(ひしょうばん)技術に加え、リーシャが発明した最新技術である六角多孔(ろっかくたこう)逸早(いちはや)く取り入れると同時に、アリア殿下に取り入り親衛隊隊長エミリアの覚えも良く、鳴り物入りで近衛騎士団に迎えられたのである。


 まあ、話は()れたがクラウトはリーシャたちが担当して()る区画を含む、文官派閥が集まる貴族街5区画の派出所を(まと)める中隊長である。

 勿論(もちろん)、普段はばらばらというか小隊単位の行動だが、有事に中隊規模で動けるよう10日に1度は合同訓練が行われる事に()って()た。

 ()の合同訓練は3日前のことであり、(そろ)わないリーシャの小隊が如何(どう)して()るのか気になったが、丁度派出所横に何やら大きな建物を建てて()る様である。()の状態であればおいそれと動くのも難しかろうと諦めたものである。

 合同訓練は日時が確定して()る訳ではないので、管理官より連絡が届けられる手筈(てはず)()って()り、逆に前以(まえもっ)て都合が悪ければ連絡を(もら)い調整することもできる。

 ()の派出所は赴任当初から不穏なこと(ばか)りで、第二騎士団では見たことも無い最新鋭の飛翔機が毎日離着陸するし、赴任前日には異例の不問、関わるな、危険、陛下の許認可印有りの戒厳令が極秘裏に通達された程である。

 担当管理官の名前を確認してみれば()(また)異例である2名の登録で、(しか)も1人はリーファ・アルドラデ侯爵と()って()るのである。

 そして、一昨日、昨日と連絡無しの大型飛翔機の着陸に加え、派出所横の建物は第二騎士団の管轄に無い事を厳令する趣旨の書類が(まわ)って()たのだから、何となく察するものが()る。

 ああ、一昨日の大型飛翔機着陸時にクラウトが鼻から茶を吹き出したのは、彼の名誉の(ため)に黙って()こう。


 第二騎士団の一部を隠れ(みの)として皇族(ある)いは()れに准ずる権限で、極秘の何かが進められて()るのではないかと(いささ)か不敬ではあるがと邪推して仕舞(しま)う。

 思い返せば武闘大会優勝に向けて明け暮れて()る頃ぐらいから、ミルストイ学園の学徒たちに飛翔板を扱うものが増え始めた。てっきりクラウトの活躍を見て羨望する学徒たちが、(こぞ)って見様見真似(みようみまね)で模造品を(つく)り乗って()ると思い込んで()たのだが、何時(いつ)の間にかアリア殿下周りの学徒も近衛騎士団も(あまつさ)えラクス・ラクトールすら、新式飛翔板を開示されて()てクラウトは悔しい思いをしたものである。

 ()う、ルトアニアの新技術がアリア殿下の周りで使われるのは不思議では無いが、仮にも武闘大会まで秘匿されて()た武力を誇示する(ため)の技術である。

 クラウトへの開示が後回しにされるのは分かるが、学徒たちに逸早(いちはや)く開示され使う事を許されて()る理由が(わか)らないと、違和感を覚えたのも事実である。

 そして、秘密裏に開発されて()た船(こと)飛翔艇は()の大きさに、アルトニアへ戻れば気が付くし漏洩を禁ずる項目の一つとして御達(おたっ)しがあったものなのだが、飛翔機に関して言えば見た事も聞いた事もミルストイ学園で飛び立つのを目撃する(まで)は無かったのである。

 だが、()しルトアニアの秘匿事項である飛翔機や新式飛翔板を開発したものが、ミルストイ学園の学徒であれば、()(まで)(いささ)(なが)らも疑問に感じて()たことが腑に落ちるというものだ。


「クラウト中隊長殿、失礼(いた)します。ルトアニアより厳封書類が届いて()ります」


「入れ、……ラクス・ラクトール? 彼奴(あやつ)から極秘書類を回される()われは無いのだがな。有難(ありがと)う行ってよし! ……」


 ()れはアリア殿下が近日中にお忍びで貴方の管理区画の一つに訪問するが一応気を付ける様にという有難(ありがた)い気遣いであった。

 クラウトは折角納得できる結論に達して少しだけ満足していた(ところ)であったが、(また)、更に困ったことが増えて仕舞(しま)った様である。


--


「あっ、チェロルさん待ちなさい」


「ヒッ!」


 遠隔気力通話器の付属部品が足りなかったので取りに来たら、ハンナ様に捕まって仕舞(しま)った訳だが、ベイミィはにやりと嬉しそうな顔を思わずして仕舞(しま)う残念なお子さんだ。


「遠隔気力通話器以外に届いた荷物の事を知りたいのですけど把握していますか?」


「うん! (さっき)大体は見て()いたよ!」


「簡単に概要だけ教えて(もら)えますか」


「んー! 全部試作なんだって! 外水注入装置、水圧計、水深計、潜望鏡、あと御業で封をしないでも水圧に耐えられる扉だって」


「はい、有難(ありがと)う。遠隔気力通話器以外は特に問題は無さそうですね」


「あっ、後ね水中音声蒐集(しゅうしゅう)機だって」


「何です()れ?」



---

修正記録 2017-05-28 07:29


幾つかのルビを追加


入れ、ラクス・ラクトール → 入れ、……ラクス・ラクトール

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