91困ってますか?
困ったものである。本当に然う言いたい御方が此処にも居た。
クラウト・デンバンサー中隊長殿である。曲がり形にも、では無く正式に然も他と比べても可也早い段階で昇進して居る方なのである。
彼は仮にも……曲が……元い、ちゃんと武闘大会を優勝した実績を持ち管理官の推薦もあっての中隊長であるのだが、片や彼の武闘大会でクラウトに唯一善戦した、否展開に因っては勝者とも成り得たと云われるラクス・ラクトールは、元より持つ木の飛翔板技術に加え、リーシャが発明した最新技術である六角多孔を逸早く取り入れると同時に、アリア殿下に取り入り親衛隊隊長エミリアの覚えも良く、鳴り物入りで近衛騎士団に迎えられたのである。
まあ、話は逸れたがクラウトはリーシャたちが担当して居る区画を含む、文官派閥が集まる貴族街5区画の派出所を纏める中隊長である。
勿論、普段はばらばらというか小隊単位の行動だが、有事に中隊規模で動けるよう10日に1度は合同訓練が行われる事に為って居た。
其の合同訓練は3日前のことであり、揃わないリーシャの小隊が如何して居るのか気になったが、丁度派出所横に何やら大きな建物を建てて居る様である。彼の状態であればおいそれと動くのも難しかろうと諦めたものである。
合同訓練は日時が確定して居る訳ではないので、管理官より連絡が届けられる手筈に為って居り、逆に前以て都合が悪ければ連絡を貰い調整することもできる。
其の派出所は赴任当初から不穏なこと許りで、第二騎士団では見たことも無い最新鋭の飛翔機が毎日離着陸するし、赴任前日には異例の不問、関わるな、危険、陛下の許認可印有りの戒厳令が極秘裏に通達された程である。
担当管理官の名前を確認してみれば此れ復異例である2名の登録で、然も1人はリーファ・アルドラデ侯爵と為って居るのである。
そして、一昨日、昨日と連絡無しの大型飛翔機の着陸に加え、派出所横の建物は第二騎士団の管轄に無い事を厳令する趣旨の書類が廻って来たのだから、何となく察するものが有る。
ああ、一昨日の大型飛翔機着陸時にクラウトが鼻から茶を吹き出したのは、彼の名誉の為に黙って置こう。
第二騎士団の一部を隠れ蓑として皇族或いは其れに准ずる権限で、極秘の何かが進められて居るのではないかと些か不敬ではあるがと邪推して仕舞う。
思い返せば武闘大会優勝に向けて明け暮れて居る頃ぐらいから、ミルストイ学園の学徒たちに飛翔板を扱うものが増え始めた。てっきりクラウトの活躍を見て羨望する学徒たちが、挙って見様見真似で模造品を創り乗って居ると思い込んで居たのだが、何時の間にかアリア殿下周りの学徒も近衛騎士団も剰えラクス・ラクトールすら、新式飛翔板を開示されて居てクラウトは悔しい思いをしたものである。
然う、ルトアニアの新技術がアリア殿下の周りで使われるのは不思議では無いが、仮にも武闘大会まで秘匿されて居た武力を誇示する為の技術である。
クラウトへの開示が後回しにされるのは分かるが、学徒たちに逸早く開示され使う事を許されて居る理由が解らないと、違和感を覚えたのも事実である。
そして、秘密裏に開発されて居た船事飛翔艇は其の大きさに、アルトニアへ戻れば気が付くし漏洩を禁ずる項目の一つとして御達しがあったものなのだが、飛翔機に関して言えば見た事も聞いた事もミルストイ学園で飛び立つのを目撃する迄は無かったのである。
だが、若しルトアニアの秘匿事項である飛翔機や新式飛翔板を開発したものが、ミルストイ学園の学徒であれば、此れ迄些か乍らも疑問に感じて居たことが腑に落ちるというものだ。
「クラウト中隊長殿、失礼致します。ルトアニアより厳封書類が届いて居ります」
「入れ、……ラクス・ラクトール? 彼奴から極秘書類を回される謂われは無いのだがな。有難う行ってよし! ……」
其れはアリア殿下が近日中にお忍びで貴方の管理区画の一つに訪問するが一応気を付ける様にという有難い気遣いであった。
クラウトは折角納得できる結論に達して少しだけ満足していた処であったが、復、更に困ったことが増えて仕舞った様である。
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「あっ、チェロルさん待ちなさい」
「ヒッ!」
遠隔気力通話器の付属部品が足りなかったので取りに来たら、ハンナ様に捕まって仕舞った訳だが、ベイミィはにやりと嬉しそうな顔を思わずして仕舞う残念なお子さんだ。
「遠隔気力通話器以外に届いた荷物の事を知りたいのですけど把握していますか?」
「うん! 先大体は見て置いたよ!」
「簡単に概要だけ教えて貰えますか」
「んー! 全部試作なんだって! 外水注入装置、水圧計、水深計、潜望鏡、あと御業で封をしないでも水圧に耐えられる扉だって」
「はい、有難う。遠隔気力通話器以外は特に問題は無さそうですね」
「あっ、後ね水中音声蒐集機だって」
「何です其れ?」
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修正記録 2017-05-28 07:29
幾つかのルビを追加
入れ、ラクス・ラクトール → 入れ、……ラクス・ラクトール