04考えるアリア
『やってくれたなー』
殆どの骨兵は岩の下敷きになっている。一部は崖下に落下したものもいるだろう。骨兵の数としてはそれ程多くはないものの御業の欠片を落としている可能性はある。
魔窟の主らしきものと対峙するかもしれないのだ力を授かる機会は多い方が良い。仕方がないとアリアは積もった岩を【念動】の御業を使って動かし始めた。
『そういえば形骸化されていたと言っていましたわね。
戦争ですら仕来りの如く扱うなんて!
考えてみましたら帝国も古い風習が多くて、今回の事もそれが原因ですし困ったものですわ』
あまりの作業の辛さに様々な思考が駆け巡る。何か御業の欠片を探し出す画期的で便利な方法は無いだろうか。収納の異空間の中で御業の欠片を呼び寄せる。勿論、外では未だに【念動】を行使して岩退け作業真っ盛りである。
これまでの経験から今のアリアの状況は新たな御業を早い段階で授かっている。であれば強い思いと想像力そして行動を合わせれば御業となる可能性があるのではないか。
異空の暗闇の中、アリアは『ぬぐぐっ』と御業の欠片を睨みつける。一向に変化は現れない。何か手がかりは無いかと考える。体があれば変な汗が出てきただろう。
そして一つの着想に辿り着く。敵対者が御業を行使する時にその指示地帯に気力が集まる。魔気の濁りとは違うものと物心付くときには既に理解していた。この欠片にも気力と似た性質のものは感じられぬだろうか。
物は試しと長い時間アリアはあらゆる角度で探り感じようとしていた。何処かの御伽噺に書かれていた《見るんじゃない感じるんだ》は果たして参考にして良いのだろうかと集中力が切れ始めた頃、何か欠けていた部品が嵌まるように感じた。
そして気や魔気を捉える感覚とは違う確かなものを御業の欠片から認識できる。
早速、岩崩えを探ろうとした所、エミリア(模)の視界に映し出されたもの、岩を宙に浮かしたその下に御業の欠片が転がるのを見た。
『ああ在りましたわね』
薄い感動よそに他に無いかと意識を傾けるものの反応は無い。異空間からぬるりと出てきてふよふよと漂い探すも変わらない。
御業の欠片の上に岩をゴロゴロと載せ戻し再び意識を傾けると反応があった。
『うん在りますわね』
微妙な空気のもと岩を退かし御業の欠片を確かめる。何が宿っているかは分からなかった。
これまでアリアに見ることが出来たのは【強骨】【残留思念】【念話】【音感】【器用繊細】である。此の事から推測できるものは2つある。
第一に肉体系の御業は今のアリアでは授からないのではないか。第二に言霊属性の御業は、欠片に宿らない可能性がある。
第一は幽体であるアリアが肉体系つまり【健康】【病気耐性】【豪腕】といった御業と相性が良いとは思えなかった。自分の本来持つ【強肩】や【強骨】は流石に見出す事が出来るだろうが、いやできた。
第二に人は言霊属性の御業とそれ以外とを一つづつ授かっている筈なのだ。なれば、半分は言霊系統でもおかしくはない。だが今の処は相性があるにしても一切出ていない。
『……一応、剣も拾っておきましょう』
考え事をしていても作業を怠らないアリアであった。
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アリアが下階への移動を再開しようと思い、ふと崖下を覗き込む。元々は多分だが魔飛鼠が靄を撒いいた為に視界不良を起こしていたのであろう。
だが、今ならば見通せるのではと、そんな思いがあった。
崖下の奥、縦穴の先には丸い輪郭……縁があるのか、その部分から中心迄の景色が変わっている。そしてその輪郭の一部に岩の柱がだらりと降りている感じであった。
上階のように巨大な空間がっぽかりと空いているのだろうか。フェンバーン男爵は自分の目で見て判断しろ的な物言いだったが、何らかの含みがあったのだろうか。
それとも単純に言葉では説明出来ないものが在るのだろうか。何はともあれ、あの縁まで降りて見れば良い。
【空間収納】の異空間にふよふよと戻り光幻たちを出発させる。相変わらずエミリア(模)は優雅に韻律に乗り段差の度に何やら姿勢を正し伊達な振る舞いをする。その後ろをトテトテとついて行くアリア(模)は実に対照的であった。いや自分の姿は普段のままなのかい。
異空間の中でアリアは先程の戦いを思い出す。フェンバーン男爵の物量だが綿密な連携の伴う攻撃であった。数カ所からの遠距離攻撃と援護、囲い込んでの時差を伴った近接攻撃。此方の手札を引き出し分析し、対応出来ないであろう落石を行った。
此方が生身であれば、異空間に隠れていなければ、確実に負けていたかもしれない。
最後はわざと引き込んで聖光を放ったが、亡者の類でなければこの手は使えなかった。敵対者の戦術にはどう対応するのか。物量で攻められた場合に聖光意外の手段は用意しておくべきではないか。今は守られている存在では無いのだから。
骨男爵の話では戦死した者の殆どが魔窟に囚われたと見た方が良いだろう。ならば彼よりも秀でた指揮官や兵たちが徒党を組み襲ってくる可能性も考慮に入れるべきだろう。
『先程からエミリア(模)が切り捨てているのは魔落ちした鼠でしょうか。そうですね少し試させて貰いましょう。』
どこからともなく鼠がわらわらと湧いてくる。まあ岩陰に幾つか穴が開いていて巣を拵えているようだ。
アリア(模)が後ろにテトテトと下がると、その空いた場所に光が集まりやがてミーア副隊長をはじめとする3人の親衛隊が輪郭を醸し出した。蓄えている剣を収納から出して渡してやり準備は万端。
『すみませんのですが練習台に成ってくださいまして』
アリアは夢想する。何度も見学していた親衛隊たちの練習風景を、憧憬を、その立ち姿を。
そしてそれは現実に現れていく。何時の間にか其処には50名の隊員たちで溢れかえっていた。
『いや、狭いよ!』
そうそう何故に魔法とかの言葉を使わなかったのかと言いますと。最初は魔法だったんです。
ですが、途中から魔法の解釈から乖離し始めて、ああこれではややこしいのではないか、と、思い改めまして。
混同されては困るため違う言葉を模索した結果であります。
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修正記録 2017-02-22 15:39
「ミーア副隊長をはじめとする」追加
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修正記録 2017-02-22 14:57
ルビ追加
幾つかの改行追加
一部アリアの思考部分を『』で括る
一部<>の括りを《》に変更
「【強骨】」追加
「、いやできた」追加
戻ると → ふよふよと戻り
「相変わらずエミリア(模)は優雅に韻律に乗り段差の度に何やら姿勢を正し伊達な振る舞いをする。その後ろをトテトテとついて行くアリア(模)は実に対照的であった。いや自分の姿は普段のままなのかい。」追加
物量による綿密な連携攻撃である。 → 物量だが綿密な連携の伴う攻撃であった。
「どこからともなく鼠がわらわらと湧いてくる。まあ岩陰に幾つか穴が開いていて巣を拵えているようだ。」追加
「憧憬を、その立ち姿を。」追加
「其処には」追加
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よし修正項目が増えてきた。自分の思考がおかしい。やんできた?