89届け物
今日も今日とて朝が来る。何時もの如くティロット御所望の岩を創るリーシャの傍らでは、ベイミィが朝稽古其方退けで頻りにお喋りを興じて居るのは此れも亦何時も通りの事である。
「それで、ライチェったらすっかり宮殿侍女の様に振る舞って居て、何と云うのでしょう箔が付いたと申しましょうか。兎に角ミリザさんの教育が凄いのかしら見違える程の……あ、マリオン先生、お早う御座います」
「お早う御座います。マリオン先生」×3
「マリオン様、お早う御座います」
「チィチッチィ」
「はい、お早う御座います。今日、リーファ様は一寸ややこしい? 問題を話し合われる為、昨日に引続き直接宮殿へ向かわれた様ですね。文に認めるのも憚られるから詳しくはリーシャにでも訊いてお呉、と此方に連絡が入って居たので後で教えて頂戴ね」
「はい、あっ! 此れ余り此処で喋らない方が良いのですか?」
「ええ、今日も作業場に行く予定だから其処で、然う、リーファ様から其れも支持されて居たのだったな。施設内にリーシャとチェロルの作業場が在ると、取り敢えずそんな話にして置く事に為った様だね。何方にせよ2人の創るものは秘匿事案だからとの事だよ」
「何だか腫れ物扱いしてませんですか?」
「いいや、良い隠れ蓑の方だね」
「私に隠れる所なんて無いよ!」
「2人共注目されてて羨ましいな!」
「貴女たちの判断基準が解りませんわ!」
「其れから復、ルトアニアから荷物が届くようなんだけど。チェロル、内容の方は判りそうかい?」
「んー! 直ぐ揃えられるものは全部来たんだよ! 後は……」
「後は?」×4
「アリア殿下が試して欲しいと望む予定外の部品かな? 他は幾ら何でも大変なんじゃないかな!」
「んん……、分かった、先に内容だけでも連絡して置くべきだな。では、後で私が一緒に行くので荷物を取りに宮殿まで……荷物が多いと2人では大変だね。皆で行こうか」
「はい」×3
「畏まりました」
「留守番をしなくても宜しいのかしら?」
「ええ、巡回中の札を掛けて侍女さんたちは全員施設の方へ居て貰えば問題無い」
「はい、分かりました」
「よし、では久し振りに稽古を着けて遣ろう」
「はい」×5
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其れは全長40mは有ろうか、……否々、何で復もや大型貨物飛翔機とやらが此方へ向かって来て居るのだ。前方にはハンナ様の小隊とリーファ様の姿が見えるから、其れなりの事情が有るとは窺えるのだが。
「済まないな。アリア殿下が依頼する特殊なものの可能性を示唆する連絡を受けて、一応と覗いて見たら、何方にせよ厳重な護衛を必要とするものが荷物に含まれて居たのでな」
小隊の皆は昨日だと直ぐ様荷物運びを手伝って居たのだが、今日は四方を固め警備に務めている。
「其れは余り此方で保管したくは無いものですね。はあ、今内容を伺うのは不味そうだから先ずは運んで行くとしてマギーさんお願いするよ」
「畏まりました」
礼の如くお願いされたマギーは、貨物室の荷物を次々と縄で運び易いように括って行き、其れを皆で手分けして運んで仕舞うのは然程も掛りはしない様である。
大型貨物飛翔機とやらを見送って施設へと入った一同は早速荷物を検めることにした。
「此れは……克く許可が下りましたね。然も最新型ですか」
其処には遠隔気力通話器という軍事規制の付いたものが3台も在るのだ。確かに東門から護衛を引っ提げて移動しなくては為らないぐらいのものである。
此処迄来るのに目立ち過ぎるだろう事を考えると、大型貨物飛翔機が城壁下に在る無人の通りを越えて、隣接する派出所に着陸するくらいは些細な事だろう。否、些細では無いが増しであろう。
「昨日の件は聞いて貰えたかな?」
「いえ、地底湖に下りてから訊く積もりでした」
「然うか……、取り敢えず警戒体制を強化する事が必要に為ったのだが、と言って人員を増やす訳にはいかなくてな。偶然だが此の機材は押し付けられて大変有難いのだ。心遣い良いことに蓄魔器が1台追加で来て居たよ」
「では、此の施設と作業場、そして潜泳機に設置するようにと?」
「地底湖の事は一切報告して居ないのだがな……」
「彼の、単純に派出所と湖若しくは河川近くに建てた作業場分、そして潜泳機と用意して頂いたのではないでしょうか?」
リーシャはリーファ様とマリオン先生の会話に怖ず怖ずと意見を述べた。
「まあ其れが妥当な線か、然し如何して許可が下りたんだ」
「あっ! 皇族の御方が乗る機体や警備環境を整える為になら許可が下り易いのでは」
其の言葉に皆は納得がいく為か苦い顔をして唯唯沈黙が続いた。
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修正記録 2017-05-25 10:29
厳重な護衛が必要な → 厳重な護衛を必要とする
方 → 御方