87ご立腹
「ベ、ベイミィ、御免なさい! 濡れて仕舞って居ては風邪を引いても良く無いから、私も水を消すの手伝うよ!」
リーシャは慎重にベイミィへと近付き手を翳すのだが、ベイミィはぎろり睨み目で其処に座れと威圧する。
「え、えっと、波は2回来たんだよね?」
「ええ、1度目は水路から溢れ出た水流に機材が浸からないよう、私が自ら身を呈して守ったと謂うのに、傍らに居たチェロルは確りと機材と自分だけ守って濡れずに居る始末」
「えへへ」
「褒めてませんわ! 増築に勤しんで居られたマリオン先生は異変に逸早く気付き、飛翔板に乗って水流の溢れる入口迄濡れ乍らも駆け付けて、水路の封鎖をして頂いたと謂うのに! 何と嘆かわしい事でしょうか! ねえ、リーシャ様!」
「そ、然うだね。チェロルは先ず溢れ出た水流を水路口に押し戻すべきだったね。だけど大切な機材が濡れたかと心配して居たから、少し肩の荷が下りたよ」
「てへへ」
「然う言えばティロットは如何して居たのかな?」
「ティロットは丁度其の時潜泳機の中で作業して貰って居たから、其の儘扉を閉めて貰って待機をお願いしたんだよ!」
「ダンッ」
「其の様な事をお訊きしたい訳では有りませんわ!」
「ヒッ!」
「ヒッ! ベ、ベイミィ、落ち着いて話を最後まで聴いて貰えれば嬉しいな……」
「最初からゆっくりとお話を訊かさせて貰いますと申して居ります。正直に事の経緯をはっきりと述べて貰えますか?」
「はい! 彼の時はメイリア神官長殿とバルパルの水上滑走技術が大方及第点に達したと判断できた為、然らば大波の対処も覚えて居た方が良いと愚考致しまして、3m程の大波を引き起こすに至った次第であります!」
「ええ、では此処の水路と閘門は水上何mですの?」
「水路は水下7m水上3mで閘門岩は8mだから水上1mであります!」
「其の通りですわ。遣ればちゃんとできる子なのですね。此方も閘門を1m程越える水が押し寄せた原因が分かりましたわ」
「つ、続きが有ります!」
「どうぞ、訊きますわ」
「はい! 水上滑走の練習は此の作業場から南東100m程の位置で行って居りまして、其処から北東の方へ向かって大波を創り押し進めた訳であります!」
「ええ、余波だろうと何だろうと波を被りましたわ。それから?」
「大波に乗って波上での対処を覚えつつ300m程進み至る所で引き返そうという事に相成りまして!」
「はいはい、楽しくて返しの大波を創った訳ですわね」
「ベイミィさん、御免なさいね。楽しくてつい波をもう一度とお願いしたのは私なのですよ」
「ぴゃゃあ」
「つ、続きを! 波を創って再び興じ始めた処唐突に彼の巨大な魔落魚が波裏から現れまして、私の波と重なり合わさって地底湖の天井に達する大波と成ったのであります!」
「え! 一寸待って頂戴、其れって大事じゃないですか! 大丈夫だったの? 怪我とかして居ませんわよね?」
「う、うん【水】の御業を持って居るし、彼の巨大な魔落魚も唯単に波で遊びたかっただけかも知れなくて此方には興味を全く示さなかったし、直ぐにマギーに退避路へ誘導して貰ったから大丈夫だったよ」
安心したベイミィゆっくりとリーシャを抱き締める。
「良かった……。心配させないで下さいませ」
「ビチャッ」
「……」
「それではリーファ様、大きい魔落の魚は此の辺りも回遊範囲として居る可能性が有ると謂う事ですか? いえ、然う言えば休憩を挟む前にチェロルが彼の辺り……北東に行った所迄飛翔板の試し乗りをして居ましたが、新型懐中気灯の強い光や飛翔板の風切り音に惹かれた可能性も考えられるのか……」
「――リーシャ様、私が乾くまで御自分を乾かしちゃ駄目ですからね――」
「新型懐中気灯の強い光ならハンナ様が散々四方に照らして居た筈だが、此方には最初は居なかったと思うぞ」
「――私の服で髪を拭ってる時点でわざとだよね……――」
「此の辺りの地形は他と比べると一寸狭いからか余り見掛けなかったと思いますよ。矢張り宮殿北区画から東にかけての位置辺りが広いから良く見掛けますよね」
「ハンナ様と相談して彼の行動範囲や習性も調査項目に追加して置く。ベイミィからかってないでそろそろ着替えて来なさい」
「はぁい」
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修正記録 2017-05-24 06:00
落ち着いて最後まで → 落ち着いて話を最後まで
話し → 話
東にかけての辺りが → 東にかけての位置辺りが