84それは水面を刺激する
「……え、ええ、構いませんよ。へっくちん!」
水路横に引き揚げられたメイリア神官長にリーシャは平謝りしつつも、目下大急ぎで【水】の御業を使って水分を消している最中である。
バルパルの毛だと或る程度は間隔が空いて居るから、付着した水分も幾分取り除き易いのだが、其れと違って服の繊維に染み込んだ水分を他人の気を相殺し乍ら消すのは中々難しい様だ。
まあ、リーファ様は昨日の水路幅拡張前に、潜泳機を通し帰港して見せたのだ。恐らく【器用繊細】を持って居る御方と比べるのも詮無き事なのである。
「災難でしたな。少し火を出しましょう。
[火よ其に在れ]」
リーファ様が言霊を唱えると小さめの火が宙に灯り、周囲が暖かくなる。少し余裕が出て来たリーシャは周りを見遣ると、3m程は有る飛翔板の上でしゅんとして居るバルパルが目に付いた。まあ、仕方無いがじっとして居るのも無駄である。
「バルパル、先程の練習を再開して居て頂戴。先みたいに勢いを付け過ぎないようにね」
「ぴやっ」
それでも矢張り楽しいのか勢いは僅かに増しつつ有る。だが、今は水路にバルパルしか居ないのだから問題は無い。
「バルパル、御業で動かさないでも右後ろに重心を掛けたら自然に動くでしょ。其の感覚を少しずつで良いから覚えて行って」
「ぴゃぁ」
「有難う、大体乾きましたよ。此れ以上は難しいでしょうし復水路に戻るのだから、……落ちる積りは無いけどね。リーファ様も感謝致します」
「力及ばず面目無いです」
「ははは、復落ちても手伝いますよ」
「あっ、一寸波が強いですよね」
「構いませんよ。元々御業で抑えて居れば水路に落ちることは無かったのですから、其れに波が在る方が上達が早いのでしょ?」
「ええ、まあ、然うですね。では、此方も練習を再開致しましょうか。波が在るので先に飛翔板を浮かして置いて御乗り頂きたい」
「はい、分かりました。よっ、飛翔板は【浮遊】と違って地に足で立って居る感じが良いわね」
「では、水路の方へ移動して頂いて、此の様に先ず波に合わせる様に上下に移動し乍ら徐々に近付いて行きます。自分に向かって来る波に昇る時は角を当てない様にして、逆に波を越して降りる時は少し当て気味に為る様に留意して、慣れて来れば水面に乗って見て頂けますか?」
「はい、復更に波が大きく為った気がするけど、まあ大丈夫でしょう」
「はい、ではバルパルを見て参りますね。って変な声出し始めてる……」
「ぴぃゅーるるる」
「はい、バルパル止まって。うん、貴方は濡れても平気だし重心も安定して居るから、波くらいで飛翔板を掬われる事も無さそうだけど、其れじゃ波を利用できないから駄目なんだよね。今度は波に乗って移動して見よう!」
「ぴゃっ!」
「随分のりが良いのね。「――ぶふっ――」……じゃあ御業を使わずに移動するから見て居てね」
「ぴやっ」
「波が来たら反対方向に重心を掛けて、其の儘波を受けると押されるから兼合いが取れて安定するのよ」
「びやっびやっ」
「うん、波が直ぐ過ぎちゃうよね。此の儘でも多少は波で移動するんだけど、少しずつで良いから角を当てる様にすると、よっと角が引っかかる感じで押されて波に乗れるんだよ」
「ぴゃあ」
「うん、そんな感じだよ。上手と言うか人より安定度が高いから大胆に行動できるみたいだね。其の儘重心の掛け方を色々試して見て移動の仕方を見極めれば自分の好きな方向に移動できる様に成れるよ」
「ぴゃあぴゃあ」
「うん、頑張ってね。扨、うぉっと見ていらっしゃいましたか」
「随分と従魔の気持ちを汲み取るのが上手なのですね」
「あ、はい、一応、彼処に止まって居る従魔メルペイクの飼い主ですから、多少は慣れて居るのかも知れません。殆ど当てずっぽうですが」
「――ちゅば――」
「何でも無いよー!」
「成る程ねえ。次は波に乗るのよね」
「はい、聴いていらっしゃったのですね」
「然うですよ。練習中でも其方の動向を窺うぐらいは知恵を付けましたのよ」
「……其れは堅実ですね。ん? もう波に乗っての移動もできて居ますね。後は此れの応用で水面を自分の力で推進して居る時に重心移動を使って進路変更したり、空の大気に乗って上昇下降や左右の進路変更したりする感じでしょうか。練習で翔ぶのは流石に暗い地下ではお勧め致し兼ねます」
「いえいえ、私の第一の目的は翔ぶ事じゃ無いのよ」
「えっ?」
「バルパルも多分私と同じ目的じゃないかと予想して居るのだけどね。貴女たちよく魔落に狙われては倒して持って来て呉れるでしょ。だけど私たちでは中々襲って来て呉れないのよ。それで考えた訳! 貴女たちは飛翔板で水面をぴちゃぴちゃさせ乍ら進むでしょ。此れって暗闇の地底湖で絶大な刺激効果が有ると思うの! だから此れをバルパルの狩りに使って見ようって!」
「其れは先に報告して貰いたかったな」
「あっ、リーファ様……」
若干眉をハの字にしたリーファ様は、少し疲れた顔をして居る様だった。
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修正記録 2017-05-21 08:08
バルパルの毛の → バルパルの毛
大体乾いたよ。此れ以上は難しいだろうし
↓
大体乾きましたよ。此れ以上は難しいでしょうし
よう → 様
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でしょう。 → でしょうか。